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Chapter 1:Part 05 訓練 Lesson2:実戦訓練

 統哉は屋根から屋根へと飛び移りながら、なんとか裏山への入り口に到着した。入り口には先に到着していたルーシーが待っていた。


「遅かったじゃないか。さ、行こうか」


 けろっとした調子で登山道を登り始めたルーシーに、統哉は息を切らせながら抗議した。


「ま、待てよ……ちょっとぐらい休ませろよ……」

「そんな事してると夜が明けてしまうだろう。先人曰く、『夜短し、歩けよ青年、大志を抱け』って言っただろう?」

「それを言うなら『命短し、恋せよ乙女』だ……! それになんで途中からクラークの言葉が混ざるんだ……」

「ふむ、ツッコめる気力があるなら大丈夫そうだな」

「そういう問題じゃないだろうが……! それに普通、道案内っていうのは人を置いていくものじゃないだろうが……。あと、夜中に屋根の上をポンポン渡ってる所を誰かに見られたら泥棒と間違えられて即通報されるぞ? 誰にも見られなかったからよかったものの、もし通報されてしょっぴかれたらどう説明するんだよ?」

「……う~ん、スタイリッシュ散歩?」

「なんでもスタイリッシュつければいいってもんじゃないぞ駄天使!」

「駄天使じゃない、堕天使だ! ……っと、それはさておき、無事にたどり着けたからいいじゃないか」

「お前って奴は……!」


 そんな漫才を続けながら山道を歩く二人。なんだかんだで中腹までさしかかったその時、ルーシーのアホ毛がピンと直立した。


「――さて、おしゃべりはそろそろ終わりだ。来るぞ」


 ルーシーが言い終えた直後、統哉は周囲の空気が震える感覚を覚えた。

 すると、みるみるうちに周囲の風景から色が失われて行くではないか。

 瞬く間に、裏山の麓から頂上まで、すっかり色が失われてしまった。どうやら先程ルーシーから説明のあった<結界>の中に入り込んだらしい。


「また<結界>を張ったのか?」

「違う違う、私じゃない。これはこのエリア一帯に潜んでいる天使達が張ったものだ」

「天使達が?」

「そう。どうやら複数の天使達が魔力を集めてこの<結界>を張ったようだ。それにしても、この島は不思議だ。なんていうか、人間の世界と霊的なものの世界の境界線が曖昧とでも言おうか、わかりやすく言うと、天使が活動しやすい環境のようだ」

「天使が活動しやすい環境?」

「そう。空気中に漂う魔力や島を走る地脈の流れ、まあ霊的なものが活動するのに最適と言っても過言じゃないほど、この島は不思議な環境なんだ……おっと、それよりも統哉、ルシフェリオンを呼ぶんだ」


 言われて、統哉は胸の刻印に意識を集中、呼び出した<輝石>に働きかけてルシフェリオンを生成した。


「さあ、ここから本格的な戦闘訓練だ。統哉、私も手伝うが、くれぐれも死ぬなよ? 実践なんだからな」

「ああ。生き残ってみせるさ!」

「その意気だ。そうそう、説明し忘れていたが、私は二つのフォームを使い分けて戦う。一つは『アサルトフォーム』。近接格闘戦に特化したフォームだ。もう一つは『ブラストフォーム』。中距離と遠距離からの魔術攻撃に特化したフォームだ」

「アサルト……? ブラスト……? よくわかんないが、つまり状況に応じて戦術を変えられるって事か?」

「その通り。そして、私のような状況に応じて戦術を切り替えて戦うパターンを『最適変化オプティマチェンジ』と呼んでいる。まあ、一部の者には『発想転換パラダイムシフト』と呼ばれているが」

「……うーん、実際に見てみないとよくわからないな」

「だな。それに……」


 ルーシーが言葉を切り、空を見上げる。統哉もそれにつられて空を見上げると、空が輝き、神々しい光が差し込んできた。


「いい練習台が来てくれた。見聞きするよりも、実際に見てもらった方が早い」


 ルーシーが言い終えた直後、天から甲冑を身に纏い、剣と盾を携えた<天使>が複数舞い降りてきた。


「――さあ、それではお見せしよう。私の天界式CQCを!」

「天界式CQC?」


 聞き覚えのない、妙な単語に統哉が首を傾げる。

 言い終わると同時に、ルーシーは地面を蹴って<天使>達に肉薄していく。


「アサルト!」


 突如、ルーシーが叫んだ。

 すると、統哉は思わず我が目を疑った。

 見た目には何の変化も起こっていないが、身に纏う雰囲気や気の流れというのであろうか、あらゆるものががらりと変わった。近接戦闘に特化した肉体、頭脳に切り替わった、と言うのが正しいだろうか。


「エイイッ! 貧弱貧弱ゥ!」


 ルーシーは素早い動きで<天使>を翻弄しつつ、徒手空拳を用いた技を駆使して的確にダメージを与えていく。しかし、その技には一貫性がなかった。その動きはボクシングのようでもあり、カンフーのようでもあり、格闘ゲームのようでもあり……とにかく様々な格闘技をごちゃ混ぜにしたかのような格闘術であった。だがそれはごく自然に洗練され、連携した動きとなっている。


「うおりゃあっ!」


 気合いの叫びと共に、強烈な後方回転あびせ蹴りが<天使>の脳天にクリティカルヒットし、その身を消滅させた。


「まだまだ行くぞ! ――ブラスト!」


 再びルーシーが叫ぶ。

 すると、統哉の目には再びルーシーの身に劇的な変化が起こったのが写った。

 それは、言うならば肉体と頭脳が軽快な動きを実現でき、かつ射撃戦に特化したものに変わったと表現するべきだろうか。


「撃つぜ~撃つぜ~超乱れ撃つぜぇ!」


 ルーシーは軽い口調で叫びながら、両掌からゴルフボール大の光球――スフィアを乱射する。

 その量は凄まじく、まるで両手にマシンガンを持って乱射しているかのようだ。みるみる内に<天使>の鎧を穿ち、肉体を削り、消滅させていく。

 さらに驚くべきはその身のこなしだ。先ほどの格闘戦の時でも素早い動きを披露していたが、今回の動きはアクションスターが裸足で逃げ出すほどの華麗さだった。

 体重を感じさせない程の軽快な動きで空中に飛び上がったかと思えば、さらに空中でのバック宙から、身を翻して敵の攻撃をかわし、敵の死角からスフィアの嵐を叩き込んでいく。

 その軽やかな動きと圧倒的な波状攻撃に残っていた<天使>達は終始圧倒され、瞬く間に全滅した。


「どうだい統哉、私の戦い方がよくわかったろ?」

「ああ。ところでさっきから口走っていた『天界式CQC』って一体何の事なんだ?」


 先程からルーシーが口走っていた妙な単語の事を統哉が尋ねる。


「話をしよう」


 その言葉を聞くや否や、ルーシーは待ってましたと言わんばかりの顔をずいっと近づけてきた。その素早さに統哉は思わずたじろいでしまう。


「まずCQCとは、Closeクロース Quartersクォーターズ Combatコンバット、すなわち近接格闘術の事だ」

「近接……格闘術……? で、天界式って?」

「天界で編み出されたから」

「すっごい適当だなオイ! それに今、魔術も使ってたけど、魔術は近接攻撃どころか格闘術ですらないだろ! 遠距離攻撃で、魔法攻撃だよな!?」

「だって、そういうものなんだから仕方がない。何せ、天界式CQCの極意は『自分の信じた戦闘スタイルこそが天界式CQCであり、それを極める事こそが天界式CQCの奥義である。他者がどう言おうと構う事なく、己の天界式CQCを追求するべし』。だから銃を両手両足に装備しての乱射や格闘攻撃を仕掛けたり、他人に『ちょっとくすぐったいぞ』と言いながらいきなりその者を武器に変えて大暴れしたりするのも天界式CQCだ。まあぶっちゃけて言うと、バーリトゥード。つまり何でもありってワケ」

「……えーと、わかりやすく三行で説明しろ」

「天界式CQC。

 スペシャル!

 チョーイイネ!

 サイコー!」

「……なんっ……で! 三行で説明しろっつったのに四行なんだよお前はあああああっ! しかもそれ説明でもなんでもないし! ……ああもう、なんか別の意味で疲れてきた!」

「あまりストレスをため込むのはよくないぞ、少年」

「誰のせいでたまってると思ってるんだ……! それに少年って歳でもないだろ!」


 言い合っていると、天から光が射し込んだ。見ると、さらに<天使>が三体舞い降りてきた。


「よし統哉、次は君の番だ! 先ほどの訓練で学んだ事を活かすんだ! 持ち味を活かせッッ!」


 なぜ最後だけ語気を強めるのか。それはともかく、統哉はアドバイスを自分なりに受け止め、理解した。


「やってやるさ」


 両手にルシフェリオンを構え、統哉が<天使>達の前に進み出る。


「来いよ天使ども。俺が相手だ」


 ルーシーがやっていたように、右手でスナップを利かせた手招きをしてみせる。するとそれが伝わったのか、<天使>達が一斉に突っ込んできた。

 だが、遅い。ルーシーの動きとは比較にならないほど、足も攻撃も遅い。連続で繰り出される斬撃をかわしながら、統哉は<天使>達にダメージを与えていく。


「相手をよく見るんだ! 斬撃だ!」


 と、いきなりルーシーが後ろから指示を飛ばしてきた。「とうやにまかせる」と言ったのはルーシーなのに、いきなりコマンドを「めいれいさせろ」に変更するとは何事か。


(知るもんか)


 統哉は言う事を聞かない! 無視して突きを繰り出す。突きは<天使>の胸を貫いた。残り二体。


「突きだ!」


 統哉は言う事を聞かない! 無視して斬撃を繰り出す。肩口から袈裟斬りにされた<天使>の体が消滅していく。残り一体!


「カウンターだ!」


 統哉はそっぽを向いた!


「コーチの言うことを聞きなさーい!」

「指図するな!」


 あれやこれやと指図してくるルーシーを黙らせ、統哉は残った<天使>に斬りかかる。斬撃がテンポ良く<天使>の体を斬り裂き、相手が大きく仰け反った。


「今だ! グランドクロスしろ! グ・ラ・ク・ロ!」


 ルーシーに言われるよりも早く、統哉はルシフェリオンを連結させ、力を集中させる。刀身に収束した力が、巨大な光の刃を形成していく。

 統哉は光の刃を纏ったルシフェリオンを構えつつ地面を蹴り、一気に<天使>との距離を詰める。


「――グランドクロス!」


 短く叫び、統哉は裂帛の気合いと共に巨大な光の刃を十文字に振り抜いた。

 十字に斬り裂かれた<天使>の体がゆっくりと分離し、やがて爆発四散する。


「まあまあよくやった。六十五点といったところだな」


 ルーシーが統哉の側へと歩み寄り、なぜか誇らしげな顔と偉そうな口調でなんとも微妙な評価を下す。

 ごっ。

 とりあえず鉄拳制裁。


「ウボァー! に、二度もぶった! アダムにもぶたれた事ないのに!」


 即座にチョップをもらい、ルーシーは先ほどまでの高慢な態度を逆転させた。動揺しているルーシーの感情に同調しているのか、アホ毛がびょんびょんと左右に激しく揺れている。


「あれだけ頑張らせておいた上に横から口出しして! んでノーダメージだってのに六十五点しかよこさないってどういう評価基準だコラァ!」

「じょ、冗談だよ……八十五点だ。ダメージを受けなかったのは素晴らしいが、倒すのにちょっと時間がかかりすぎたかな。もっと短時間で殲滅できるようになればパーフェクトだ」

「そりゃどうも」

「しかし、この私に二回も打撃ツッコミを入れられる君は一体何者なんだ……? 私がかつて指導していた他の者は口答えする事はあっても、私に手を出す事はなかったのに」


 ルーシーが驚きを込めた視線で統哉を見つめる。


「うーん、強いて言うなら通りすがりの元・一般人てところか」

「だったらそのまま通りすがってくれた方が……いやなんでもない、悪かった。頼むからその拳を下ろしてくれ。握った拳の強さで砕けた願いに掌が血を流す前に」

「何を言っているかわからんけど、まぁいいか」


 拳を下ろしつつ、だんだんと条件付けができてきている事を実感する統哉だった。別に嬉しくないが。

 すると、天から光が射し込み、大剣と大盾が特徴の<大天使>が三体舞い降りてきた。


「<大天使>が三体……こりゃちょっときついか?」

「なーに、心配するな。どうやらこいつらを倒せばこの<結界>も解除されるようだ。それじゃあ、訓練の仕上げだ! ここからはデュエットといこうじゃないの!」

「ああ! さっさとこいつらをぶっ倒して、帰って寝るぞ!」

「行くぞ統哉! フォーメーション、デュアルアサルト!」

「何だよそれ!? フォーメーションって何!? デュアルアサルトって何!?」

「いいのいいの! 雰囲気雰囲気!」


 言い合いつつ、二人は<大天使>達に向かっていく。


「統哉! わかってると思うけど、こいつは盾の防御力が高い! 死角から攻撃するか、盾を壊して無力化するんだ!」

「わかってる!」


 統哉は一言叫ぶと、ルシフェリオンを構えて<大天使>達に向かっていく。ルーシーも後方からブラストフォームによるスフィアの攻撃で<大天使>達を牽制する。

 ルーシーが<大天使>達を牽制してくれている間に、統哉は一番手近にいた<大天使>に斬りかかる。<大天使>は大盾で防御しようとするが、スフィアによる攻撃を受けているため、防御ができない。その隙に、統哉は集中攻撃を加え、一体目を斬り伏せた。

 その時、横から剣が突き出された。統哉はそれをすかさずバックステップで回避した。


「やるじゃないか統哉! 今度は私に任せておけ!」


 そう言ってルーシーはフォームをアサルトフォームに変化させ、猛スピードで<大天使>達に肉薄していく。

 振るわれた剣をジャンプしてかわし、そのまま顔面に回し蹴りを叩き込む。怯んだ隙に着地し、さらに回し蹴り。そのままの勢いで体を回転させつつ、蹴りの連打を叩き込む。


「セイヤーッ!」


 トドメとばかりに強烈なサマーソルトキックを叩き込む。蹴りをまともに受けた<大天使>の体が空中へ吹き飛び、そのまま光の粒子となって消滅していった。


「残り……」

「一体!」


 二人は同時に残った<大天使>に向き直った。

<大天使>は二人の気迫に気圧されたのか、数歩後退る。しかし次の瞬間には大剣を構えて突進してきた。


「統哉!」

「ああ!」


 軽くアイコンタクトを交わし、統哉は前へ走り、ルーシーは上空にジャンプする。


「はあああっ!」


 統哉は気合いと共に連結させたルシフェリオンを思い切り振り上げ、その巨体を空中へ打ち上げた。


「ルーシー!」

「アイサー!」


 空中にいるルーシーに声をかける。するとルーシーは空中で右足に光を収束させた。


「チョーイイネ! 究極! シューティングスターキック・ストライクバージョン! サイコー!」


 そのまま身を翻し、さらに捻りを加える。そして彗星のように尾を引いて一気に跳び蹴りを決めた。なんかさっきも同じような事を言っていた気がするが。

 スタイリッシュな跳び蹴りをまともに食らった<大天使>の体が爆発四散した。

 天使達が全滅すると、周囲の風景が色を取り戻していった。どうやら、<結界>が解除されたらしい。


「終わったな。それにしても、なかなかいいコンビネーションみたいだな、私達!」

「そうらしいな」


 そして二人はどちらともなくハイタッチを交わす。そんなこんなで、夜中の戦闘訓練は無事終了と相成ったのであった。




「さーて帰ったら風呂入って寝るぞー! というわけで統哉、早く帰ろう。先人曰く、『訓練は家に帰るまでが訓練』だって」

「早く帰りたいのには同意するけどそれは遠足だよ!」

「そうだっけ? まあこまけえこたぁいいんだよ!」

「いいわけないだろ!」


 山道を下りつつ、他愛のない言い合いをしながら、ルーシーは考えていた。


(――これはなかなか、面白い奴を見つけたかもしれないな。私に対する容赦のない的確なツッコミ、素人とは思えない戦闘センス……様々な不確定要素を抱えた人間……ダイヤの原石なんてチャチなものじゃあ断じてない、オリハルコンの原石と言っても過言じゃないかもな!)


 そんな事を考えるルーシーの顔はどこか楽しげであった。

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