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Chapter 9:Part 11 それぞれの行動

 午前六時。

 突然眠りから覚めたルーシーは交代しながら看病をしていたアスカとエルゼ、そして別室で眠っていた眞美を自分の元へ呼んだ。


「おはようみんな。こんな朝早くから呼び出して申し訳ない」

「ルーシー、もう大丈夫なの!?」


 驚くエルゼにルーシーはガッツポーズをしてみせた。


「大復活だもんよ! 昨日よりも調子いいもんよ! 不死身になった気分だもんよ!」

「どれどれ~」


 つぃー。


「あだだだ! アスカ痛いって! 調子こいてすいまえんでした! まだ本調子とはいえない状態です!」


 調子づくルーシーの包帯に巻かれた腕をアスカが撫でると、ルーシーは素っ頓狂な悲鳴を上げた。それを聞いたアスカは腕から手を離すと溜息をついた。


「もう、それじゃまもまもと戦っても勝てっこないよー」

「わかっている、わかっているさ、アスカ。だから今日は色々と準備をする」


 そこでルーシーは一旦咳払いをすると、アスカに目を向けた。


「アスカ、君は璃遠の店に行って、これから書く品物を買ってきてくれ。代金は私の口座から引いておいてくれればいい」


 言い終わるや否やルーシーは近くにあった紙とペンを手に取り、もの凄い速さで必要となる品物を書き付けてアスカに手渡した。

 紙を受け取ったアスカは内容をしげしげと見つめた後、首を傾げながら尋ねた。


「……るーるー、こんなにいるの?」

「必要だから書いているんだ」

「え~、でも~……」

「アスカ、GO!」


 疑問が拭えないアスカに対し、ルーシーは目をカッと見開き、眼力全開、言葉には有無を言わせない力強さを込め、人差し指をピッと向けてそれだけ言い放った。

 その得も言われぬ圧力と、何故か突然吹いた突風にアスカは一瞬で気圧され、背筋を伸ばして敬礼した。


「サーイエッサー!」


 アスカは回れ右をすると電光石火の如き勢いで部屋を飛び出していった。


「エルゼ!」

「は、はい!」


 ルーシーの決然とした言葉に、エルゼもピシッと背筋を伸ばす。


「君は使い魔を総動員してマモンの居場所を何としても突き止めるんだ。その後は一番いい朝食を頼む」

「で、でもルーシー、いくらここが島だからといって、マモンがどこにいるかわかるの?」

「多分どこかにいるだろう。だがその他一切の事はわかりません!」

「ダメじゃない! いくらここが島だからといって全域を探そうとすると最低二、三日はかかるよ!」


 自信満々に言い切るルーシーにエルゼは悲鳴を上げる。と、そこでルーシーはフッと笑ってみせた。


「……というのは冗談だ。居場所の検討はおおよそついている」

「え?」


 ルーシーの言葉にエルゼは目を丸くした。


「そもそもマモンが統哉の魂の波動を捉えたのは、彼女の口振りからしてついこの前だ。この前といえば、私と統哉が買い物――セントラル街へ向かった日。昨日戦った時、彼女の魔力は私達と同等だったから、魔力の波動をキャッチできる距離はそこまで長くないと考えていい。よって彼女が潜んでいるのはセントラル街及びその周辺である可能性が高い」

「す、凄い……少ない情報でそこまで推測を立てられるなんて……」


 ルーシーの推理を聞いたエルゼが感嘆の溜息を漏らす。


「というわけで、君はセントラル街とその周辺を重点的に捜索! その後は朝食よろ! エルゼ、GO!」

「サーイエッサー!」


 眼力、有無を言わせぬ圧力、突風。

 それらに一瞬で気圧されたエルゼは背筋を伸ばし、敬礼。回れ右をすると暴風のような勢いで部屋を飛び出していった。


「さて、眞実」


 しばらくして、ルーシーは眞実に話しかけた。


「は、はいっ!」

「そう構えなさんなって。ただ、君にもちょっと協力してほしい事があるんだ」

「わ、私もですか?」

「安心してくれ。君に危険な事はさせない。ただちょっと、ついてきてほしい所があるだけだよ。まだ体が上手く動かせない私のサポートといったところかな」

「は、はあ……」

「……さて、エルゼが朝食を用意してくれるまで私は寝直させてもらうよ」


 それだけ言うと、ルーシーはベッドに横たわり、目を閉じた。するとまもなくルーシーの口からは可愛らしい寝息が聞こえてきた。

 それを見た眞実は、ただ不安な表情を浮かべるしかできなかった。



 しばらくして、アスカは堕天使ご用達の店「Gate of Abaddon」を尋ねていた。


「……朝から当店のご利用、誠にありがとうございます、アスカさん。本来なら休んでいるところですが、あなた方の頼みとあればすぐに商売させていただきますよ」


 軽く欠伸をしながら、「Gate of Abaddon」の店主――璃遠はにこやかに対応した。


「朝からごめんなさいね~、りおんさーん。ちょっと急な炒り子ができちゃってー」

「それを言うなら入り用、ですね。では、用件を伺いましょうか」

「えーと、これを頼まれまして~」


 そう言いながらアスカは豊満な胸の谷間からルーシーから手渡された紙を取り出し、璃遠に見せた。璃遠は紙をしばし眺め、やがて大きく頷いた。


「……かしこまりました。すぐにご用意いたします。これは楽しい事になりそうですね」


 そう言うと璃遠は、美人には相応しくない悪魔めいた笑みを浮かべて倉庫へと姿を消した。




 一方エルゼは八神家の庭にて、彼女の顔の高さにまで浮いている、黒いビーチボール大の球体と向かい合って話をしていた。


「……じゃあみんな、よろしくお願いね!」


 エルゼの言葉を受けるや否や、黒い球体は破裂するように飛び散り、聞く者全てを戦慄させるような羽音を響かせて一斉にセントラル街の方角へと飛び去っていった。

 そう、エルゼは自らの使い魔である蠅の群れを召集し、マモンの居場所の捜索を命じたのだ。それこそ路地から下水道に至るまで、まさに虱潰しといった態勢で。

 余談ではあるが、蠅の群れと笑いながら会話する美少女を想像してみてほしい。何ともおぞましい光景である。


「よし、それじゃあ次はご飯を作らないとね!」


 大きく伸びをし、エルゼは八神家へと戻っていった。




 午前十時。

 マモンの城塞内の食堂で、マモンとの他愛もない話を交えながら朝食(焼きたてのパン、ふわふわのスパニッシュオムレツ、新鮮な夏野菜のサラダ、フルーツヨーグルト、淹れ立てのコーヒーという豪華ラインナップ)を終えた統哉はぼんやりと窓からの景色を眺めていたが、突然部屋の扉をノックする音に我に返り、扉を開けた。するとそこにはマルファスが立っていた。怪訝な顔をしながら統哉が尋ねる。


「マルファス、どうしたんだ?」

「統哉様、私はこれから買い物へ行って参りますが、何か必要なものはおありでしょうか? 日用品でも嗜好品でもお望みの物を買ってきてさしあげるようにと、お嬢様より承りました」


 そう言われ、統哉は軽く唸って考え込んだ。日用品は完璧と言っていいほどこの場所に揃っているし、嗜好品も自分としてはすぐに必要となる物が特になかったため、返答に困ってしまったのだ。

 と、その時、統哉の脳裏に閃きが走った。

 そうだ。今の自分にはアレ(・・)が必要だ。生活面では今のところ困っている事はないが、アレ(・・)はもしもの時のために必要不可欠だ。


「……統哉様?」


 黙り込む統哉にマルファスが首を傾げる。


「……ああ、ごめん。それじゃあちょっと頼まれてくれるかな?」

「はい、何なりと」

「大きな厚紙と、ビニールテープ。それをお願いできるかな」

「大きな厚紙と、ビニールテープ……? それだけでよろしいのですか?」


 統哉の言葉に今度はマルファスが怪訝な顔をする。そんな彼女に統哉は頷いた。


「ああ。今はそれだけあれば事足りるよ」

「かしこまりました。ただちに買って参ります」


 用件を聞き終えたマルファスは姿勢を正して統哉にお辞儀をすると、その場を後にした。


「……さてと」


 部屋の扉を閉め、統哉は窓際まで歩いた後、大きく伸びをした。


「二日目。今日はどうするか……」


 一人ごち、統哉は今日一日マモンとどのように接するかについて思考に耽る事にした。




 午前十一時過ぎ。

 朝の内にエルゼが丹精を込めて作ったおじやを丼三杯分も平らげた後、仮眠を取っていたルーシーは出かける支度をし、外出する旨をアスカとエルゼに伝えた。


「私と眞美はこれから出かけてくる。アスカとエルゼは留守番を頼む」

「出かけるって、どこへ?」

「決まってるじゃないか、もう一人の協力者のところさ」

「もしかして、れびれびの事~?」


 疑問を口にするエルゼとアスカに対し、ルーシーは頷いた。


「マモンの居城を攻略するためには、戦力は多い方がいいだろ? 彼女の事だ、全力で協力してくれるだろうさ」


 そう言ってルーシーはサムズアップしてみせた。




 午後十二時。

 ルーシーは眞実と一緒に海の家「潮彩」を訪れていた。

 そこでルーシーはちょうど休憩時間に入るところだったもう一人の協力者――レヴィを捕まえ、ルーシーは単刀直入にマモンによって統哉がさらわれた事と、彼を救出するために力を貸してほしいと切り出した。


「――悪いけど、それはできないわ」

「ちょっと待て、なんでだ」


 統哉がさらわれた事に対して即座に協力してくれるとふんでいたレヴィが要請を断った事に、ルーシーは即座に色をなした。

 店の一番奥に位置する席に向かい合う形で座った二人。そこならば二人の話は他人に聞かれないであろうというレヴィの判断だった。ちなみに二人の前には山盛りの焼きそばが置かれている。そして眞実は二人からやや離れたところで焼きそばを食べながらも、気が気でないといった表情で話を聞いている。


「オイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイ、統哉があの強欲バカラスにさらわれたんだぞ? だのにどうして協力してくれないんだ? そう言うからには何か私を納得させられるような大きな理由があるんだろうな?」


 テーブルの上で指を忙しなく走らせながらルーシーが問いかける。するとレヴィは軽く息をつき、口を開いた。


「……今ね、この店シーズンオフ前の書き入れ時なの。だから店のスタッフ全員が必死に毎日頑張っているの。それはもちろんアタシだってアイツを助けたいわよ。でも、住所不定無職同然のアタシを受け入れてくれた『潮彩』のみんなと、アタシに働き口と住むところを紹介してくれた店長には大きな恩がある。だから、いくらアンタの頼みでも店をいきなりほっぽりだすわけにはいかないのよ」


 表情こそ落ち着いてはいるが、その内面では苛立っているのかレヴィは指でテーブルを忙しなく何度も叩いている。


「ナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナア、君が口悪いわりに実は凄く義理堅いのはよーく知ってるよ。だが今は非常事態なんだよ非常事態! わかる? 早くなんとかしないと統哉があいつに横取りされてしまうんだぞ?」

「『君が口悪いわりに実は凄く義理堅い』っていうのは余計よ! ……それはともかく、アンタの他にもアスカとエルゼがいるんでしょ? 戦力としては十分だと思うけど」

「ちからをかしてくれ、たのむ!」

「ダメよ! いくらつまれてもゆずれないわ!」

「そこをなんとか!」

「絶対にノゥ!!!」


 それからしばらく、ルーシーはテーブルで指を忙しなく走らせながら根気強くレヴィを説得し、時には賺し、さらには懐柔しようとあらゆる手段を駆使したが、結局彼女は受け答えはしつつも指でテーブルを忙しなく何度も叩いていただけで、首を縦に振る事はなかったのであった。


「……はあ。わかったよ、もう君には頼まない。ここまで強情だと表彰ものだよ。こうなったら統哉の救出は私とアスカとエルゼだけでやる。君はアルバイトに精を出すといいさ。眞実、帰るぞ」

「えっ? ちょっとルーシーさん!? ああ、待ってください!」


 わざとらしく大きな溜息をついたルーシーは席を立つと、眞実に一声かけ、足早に「潮彩」を後にする。それを見た眞実も慌てて席を立ち、一瞬の逡巡の後、レビィに頭を下げてルーシーの後を追った。そんな二人を、レヴィはただ静かに見つめているだけだった。


「ルーシーさん! あれでよかったんですか!? ほぼ喧嘩別れな結果で終わってるじゃないですか!」


 帰り道、ルーシーと眞実しかいない場所で堪えかねたように眞実が叫ぶ。するとルーシーは首だけを眞実の方に向け、手をひらひらさせながら何て事ないかのように言った。


「ああ、あれはあれでいいんだよ」

「でも!」

「大丈夫だ、問題ない」


 なおも言い募ろうとする眞実を宥め、ルーシーは帰り道を歩く。そして眞実も言いかけた言葉を大きな溜息に変えて強引に吐き出し、ルーシーの後を追った。


 ……そのやりとりを、紫色の瞳を持った一羽の大きなカラスが海水浴場より少し離れた位置に立つ電柱の頂点から見つめていた事に、二人は気付かなかった。

 そして、そのカラスが海水浴場での一部始終を全て監視していた事にも。

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