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Chapter 9:Part 05 視線

 それから三人は一緒にショッピングを楽しみ、喫茶店で昼食兼ティータイムを楽しんだ。

 そして、陽月島の中心部に存在するセントラル街へ移動し、再びショッピングを楽しんだ後レヴィと別れた。

 空はすっかり夕焼けに染まり、周囲の情景と併さり思わず見入ってしまうような美しさを醸し出している。


「いやー、今日は楽しかったなぁ! 色々いいものも見つかったし、実に満足、サティスファクションってやつだ!」


 セントラル街外れの通りを歩きながら、ルーシーが満足そうな声を上げる。その手にはCDショップや同人ショップ、ホビーショップで購入した戦利品――最近のアニメ主題歌の新譜をはじめとしたCDや同人誌、プラモデルなどが詰まった大型エコバックが握られている。


「そうか。それは何よりだ」


 その言葉に統哉も嬉しそうに応える。彼の手にも、途中で立ち寄った数件のブティックで買った服の詰まったいくつかの大型紙袋と、気を遣って送り出してくれたアスカとエルゼへの土産である冷製スイーツが詰まった袋が握られている。

 ブティックではルーシーとレヴィが様々な服を試着し、その都度統哉に感想を求めていた。統哉はそんな二人に思った通りの感想を述べ、その度に二人は一喜一憂していた。

 しかし統哉にしてみれば、ルーシーとレヴィはどんな服を着てもまるで誂えたかのように見事に着こなしてしまうため、なかなか甲乙つけがたいものがあった。むしろ、様々なファッションスタイルを見せる二人を見る事ができただけでも一種の眼福であった。

 一方で、何度も衣装を変える美少女二人の姿はある種のファッションショーと化し、いつの間にか試着室の周辺は居合わせた買い物客や話を聞きつけた野次馬で溢れていた。そしてルーシーとレヴィには男女問わずの拍手喝采が与えられ、統哉の方には女性より微笑ましいものを見る視線が、そして男性からは羨望と嫉妬のこもった視線が降り注いだのであった。

 その時の事を思い出した統哉は無意識のうちに微笑みを浮かべていた。

 するとルーシーは足早に統哉の前に進み、そして振り返る。


「統哉、また遊びに来ような!」


 屈託のない笑顔と共に告げられたその言葉に統哉は――


「――ああ。また必ず、な」


 心のままに、そう応えた。




 セントラル街。

 ここには高級ホテルや高層マンション、様々な規模の企業が所有するビルが柱の如く乱立し、その下ではたくさんの人達が道を行き交い、高級ブランド店や専門店が並ぶ繁華街が賑わいを見せている。

 その一角に立つ、七十階建ての高級ホテル最上階のスイートルーム。そこはまるで、大富豪の屋敷の一室かのような錯覚を見る者に与える豪華さだった。二階分の高さはあるであろう天井からは大きなシャンデリアが吊り下げられている。床には金糸が縫い込まれた真紅の絨毯が敷き詰められ、部屋には装飾過多な調度品が溢れ、壁には雄大な自然の風景が描かれた素晴らしい油絵がかけられている。

 その部屋の一角に据えられた、これまた豪華な木製のテーブルで、黒いローブに身を包んだ一人の若い女性が丁寧に宝石を磨いていた。


「はぁ……」


「彼女」はうっとりとした溜息を漏らし、恍惚とした表情を浮かべながら、手にした布でダイヤモンドを丁寧に、かつ愛撫するような手つきで磨いている。


「はぁ……今日も美しい輝きを放っていますわね……流石、『ダイヤモンドは永遠の輝き』というキャッチコピーに偽りなしというだけの事はありますわ。まあ、このわたくしが磨いているのですから、それは当然の事ですが」


 じっくりと時間をかけてダイヤモンドを磨き終えた「彼女」は優雅な所作で美しい黄金色の髪を掻き上げる。そして手元の宝石箱を持ち上げ、そっと蓋を開けた。

 中にはルビー、サファイア、エメラルドといった大粒の宝石がたくさん詰め込まれており、一つ一つの値段が相当高い事をうかがわせた。

「彼女」はそれらの宝石を一つ一つ慎重に宝石箱から取り出し、ためつすがめつ眺めた後、再び一つ一つ慎重に宝石箱へと戻し、最後に磨き上げたばかりのダイヤモンドをしまうと満足そうに頷く。そして、恭しい手つきで宝石箱の蓋を閉めた。


「ふぅ、日課の宝石磨きも終わりましたわ。さて……」


 一人ごちた後、「彼女」は立ち上がって窓の側へと歩み寄った。


「……それにしても、美しい島ですわ……陽月島……こんな素晴らしい島が他にありますでしょうか……まるでバカンスに来ている気分ですわ。だから――」


 そして、眼下に広がる美しい陽月島の風景を見下ろし、口の端をキュッと吊り上げ、野望に燃える瞳を細めた。


「この島は、わたくしのものですわ」


 この美しい島の自然、産業、経済、あらゆるものを己が手中にし、ゆくゆくは世界のパワーバランスを思うがままに支配する絶対女帝として君臨する。そんなビジョンを思い描いた彼女はその先に待つ輝ける未来に思わず身を震わせる。

 その後、夕焼けに染まる街の風景から離れ、爪の手入れをするために動こうとしたまさにその時――


「……ん!?」


 眼下に広がる街の中に、とてつもない気配――いや、魂を感じ取った。

「彼女」は慌ててガラスに額をつけ、目を閉じて眼下の街へと意識を集中させる。大通り。デパートやビルの中。人混みの中や細い路地に至るまで、「彼女」はその意識を天に向かう木々のように、かつ大地を走る根のように細かく分岐させながら精密な動作で走らせた。

 そして彼女はついにその魂の根源を発見した。

 その魂はまるで決して消えない青い炎を思わせるように、静かだが、それでいてとても深く、強い輝きを放っている。そしてその周囲を銀、赤、紫、緑、アクアブルーの光が取り巻くように渦巻いている。それはまるで金銀財宝の山を思わせ、また万華鏡のような神秘性を醸し出している。

 その瞬間、「彼女」の心を今までに感じた事がないときめきと高揚感、そしてどうしようもない独占欲が満たした。自分は今まで数え切れないほどの宝物を見て、そして所有してきたが、あのような言葉にできないくらいに強く、神秘的な魂の輝きを見た事はない。あの輝きに比べれば、自分の持つ宝石などビー玉同然。そう断言してもいいほど、その輝きは「彼女」の心を捕らえて放さなかった。

「彼女」はしばらくその魂の輝きを魂で視て、感じ入っていたが、やがてその輝きが自分の感覚の圏内から離れていくと目を開け、名残惜しそうな視線を窓の外に一瞬投げかけた。かと思いきや、満面の笑みを浮かべながらテーブルの上に置いてあったアンティーク電話の受話器を手に取り、どこかへと電話をかけた。


「……もしもし? 唐突で申し訳ないのですがパーティーの準備をお願いしたいんですの。招待客? お一人ですわ。ですが今回のお客様は特別なので、入念で、かつ完璧な準備をお願いいたしますわね。え? パーティーの日時ですか? そうですわね――」


 そして彼女はまるで獲物を見つけたカラスを彷彿とさせる目つきをし、口元を三日月のように鋭く歪め、宣言した。


「近日、決行ですわ。その前にまずは何点かお願いしておきたい事がありますの――」


 その後、「彼女」はいくつかの指示を受話器の先にいる者に伝えた後、静かに受話器を戻した。そして自分の中で膨れ上がる期待と興奮を隠しきれない様子で、自分の体を抱きしめながら恍惚に満ちた声と表情で言葉を紡ぐ。


「――ああ、なんという僥倖、なんという奇跡! 今までわたくしが見た事がないとてつもない強さを持った魂の輝き! 早く貴方をわたくしのモノにしたくてたまりませんわ!」


 それはまるで、舞台の上で演技をする女優のように洗練された動作であり、見る者を惹きつける魔力を持っていた。


「待っていてください……いえ、力づくでも奪い取りに行きますわ――『わたくしのもの(マイ・フィアンセ)』よ」


 まるで恋人を見つけたかのような口調でそう言うと、「彼女」は優雅な所作で背を反らし――


「かかか…………あ゛ーっあっあっあっ!」


 まるでカラスに漫画やアニメの中のお嬢様がやるような高笑いを思わせる、どこまでも響く声で「彼女」は心の底から、高らかに笑った。




「……っ!?」


 突如自分の体に走った、神経に氷塊を直接押し当てられたような凄まじい寒気に、統哉は思わず体を震わせて立ち止まった。彼の少し先を歩いていたルーシーがその様子を訝しげに思い、立ち止まる。


「ん? どうしたんだい、統哉? 急に立ち止まって」

「……いや、よくわかんないけど今何か寒気がした」

「おいおい、夏バテかい? それとも夏風邪かな?」

「いや、何だったんだろう、今の……まるで誰かに見られていたような……」

「本当かい? 私には何の気配も感じられなかったが。とりあえず帰ろう。帰ったらエルゼに元気の出る食事を作ってもらわなくては」


 ルーシーの言葉を話半分に聞きながらも統哉は念のために周囲を見渡し、何もいない事を確かめると軽く息をつき、首を傾げているルーシーの元へ歩きだした。

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