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Chapter 9:Part 01 違和感

「ふああぁ……」


 大きな欠伸を一つして、統哉はベッドの上で大きく伸びをした。

 今日も新しい一日が始まる。清々しい気分の中、今日は何をしようかなと考えた時、統哉は体の違和感に気付いた。


「何だろう、この感じ……?」


 簡単に言うならば、いやに頭がスッキリしているのだ。おまけに体もやたらと軽い。

 昨日の就寝時刻を思い出すが、十一時過ぎと概ねいつも通りだった。そして目覚まし時計で今の時刻を確認すると、五時前。睡眠時間は普段よりも少なくなっている。にもかかわらず、今の統哉に眠気は感じられなかった。


「……これも<天士>の恩恵かな? それにしても、前よりもずっと調子がいいけれど」


<天士>となった事で身体能力が向上するなどの恩恵があるとルーシーから聞かされていた上、日々の戦闘においてその効果を実感している統哉だったが、今日のは今までにないくらい好調だという実感があった。その一方で、ここまで調子が良くなるものなのかという疑問が彼の頭をよぎった。

 しばらく考え込み、統哉は気にしない事にした。今のところ害があるわけでもなし、万が一本当にまずいと思った時に堕天使達に相談すればいい。統哉はそう結論づけた。


「……せっかくだし、ジョギングでもしてこようかな」


 今から寝直すのも微妙な時間だと感じた統哉はそう思い立ち、羽のように軽い体を動かしながらタンスからジャージを引っぱり出す事にした。




「……いやいやいや、こんなの絶対おかしいよ」


 七時過ぎまでジョギングをしてきた統哉は軽く息をつき、一人ごちた。流石の統哉も不安を隠せなくなってきた。

 というのも、あれから体が疲れる気配がない。いや、疲れなさすぎるといってもよかった。

 人間というのは、ずっと集中していれば頭が疲れて神経が緊張し、体を動かせば息が切れる。それは生物として当然の事だ。

 だが、今の統哉にはそれが一切ない。最初はいわゆるランナーズ・ハイ――疲れを感じない状態かと考えたがすぐに違うと実感した。疲れを感じないのはまだしも、約二時間もジョギングをしていたというのに、息が切れない上、汗をそこまでかいていないというのははっきり言って異常だった。


「……これは、あいつらに相談してみないといけないな」


 とりあえず今は手を洗ってうがいをして、水を飲んで水分補給をしよう。そう考えた統哉が家のドアを開け、キッチンに足を踏み入れると――


「……あれ? 統哉君……だよね? ……うん、そうだよね。おはよう、統哉君」


 そこには可愛らしいエプロンを身につけ、朝食の支度に励むエルゼの姿があった。が、キッチンに入ってきた統哉を見るなり驚いた様子で目を見開いている。


「おはようエルゼ……って、どうしたんだよ、しどろもどろで」

「あ、その、ごめん。なんか、統哉君から感じる力が昨日と違って急激に増してるからびっくりしちゃった」

「力が増してる、だって?」


 統哉の言葉にエルゼは頷いた。


「うん。だって今の統哉君、魔力はともかく、オーラ……いや、魂の強さと言えばいいのかな? それがかなり強くなってるよ」

「そう、なのか……」


 エルゼの言葉に統哉は半ば呆然としながら呟いた。自覚はなかったが、体の調子だけではなく魔力やら何やらまで強くなっていたとは。

 そんな統哉の様子を見つめながらエルゼが心配そうに尋ねる。


「……ねえ統哉君、ちょっと聞くけど、最近体調とかで違和感はない?」

「ああ、何だか今日はやけに体が軽いし、疲れを感じないんだ」

「それ、詳しく聞かせて!」


 統哉が何気なく放った一言にエルゼが過剰とも思える反応をする。

 そんな彼女の様子に戸惑いながらも、統哉は朝早い時間に目が覚めた事、体がやけに軽く、スッキリとした気分だった事、気分転換のためジョギングを二時間ほどしたにもかかわらず、息が切れない上に汗をそこまでかいていない事を説明した。

 それを聞いたエルゼはブツブツと独り言を呟きながら何やら考え込んでいる。しばらくして、統哉がおずおずと声をかけた。


「……なあエルゼ、今の俺は一体どうなっているんだ? もうこの際逃げたり耳を塞いだりしないから正直に言ってくれ」

「……うん。でもこれはその場で簡単に言えるような話じゃないから、後でみんなを交えて話し合った方がいいと思う」


 その言葉に統哉は素直に頷いた。


「……わかった。朝食の後にみんなで話し合おう」

「うん。じゃあパパッと支度しちゃうね! 統哉君、悪いけどみんなを起こしてきてくれる?」

「ああ。よろしく頼むよ」




 それから統哉は、堕天使達が居候している混沌空間へ赴き、寝こけている七大罪達を起こした。

 そして、全員が朝食の席に着いた時、統哉は違和感に気付き、ふと視線を動かした。

 その視線の先には、ぽっかりと空いた席が一つ。その時になって初めて、統哉はある堕天使がいない事を思い出した。


「……そうか、ベル、しばらくいないんだよな」


 突然の璃遠から依頼を遂行するため、昨夜ベルは単身遠い地へと旅立ったのだ。

 鮮烈なまでの紅。小柄な姿には似合わない強烈な毒舌。ルーシーとの小競り合い(だいたいベルが負かされているのはご愛嬌)。そして通常なら苦痛として感じる痛みに悦びを覚えるマゾヒストという変態的な側面。色々な意味で強烈な個性を持った彼女がいないだけで、八神家の賑わいが大きく減ってしまった事に統哉は寂しさを感じた。


「……ああ、あいつがいないと文字通り火が消えてしまったかのようだ。やれやれ、弄り甲斐のある奴がいないと面白くないな」


 口調こそ小馬鹿にしたものだが、ルーシーの表情もどこか寂しそうだ。


「……帰って、くるよね?」


 心配そうに呟くエルゼ。そんな彼女にアスカが笑って答える。


「だいじょーぶだよ~。べるべるなら~、必ず帰ってくるよ~」


 口調は相変わらず緩いが、その言葉にはベルへの期待と信頼が込められている事を統哉は感じ取った。


「……うん、そうだよね。ベルなら大丈夫だよね! 大丈夫!」


 アスカの言葉に頷いた後、自らに言い聞かせるかのように、明るい声で言うエルゼ。


「さあ、エルゼが腕を振るってくれた朝食だ。積もる話は食べ終えてからじっくりしようじゃないか」


 ルーシーの一言で、統哉達は「いただきます」という一言の後、エルゼ特製の豪勢な朝食を堪能したのであった。

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