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Chapter 8:Part 12 水の上を(中略)血の滴る寿司を作る天才料理人(誇張あり)

 力強く宣言した後、レヴィアタンは腰を軽く落とした姿勢でフッと息を吐く。次の瞬間、彼女は水面を高速で滑走しだした。ザドキエルが慌てて装甲鱗や体の各所に生えた筒からの水弾で迎撃する。

 しかしレヴィアタンは余裕たっぷりの表情でそれらを華麗にかわしていく。時にはトリプルアクセルまで決めるほどだ。


「やっぱり、水はいいわね! 思わず妬ましくなるくらい!」


 フィギィアスケート選手顔負けな、舞い踊るような動きで水面を高速滑走しながら、レヴィアタンは感情が昂ぶるのを抑えられなかった。

 水場は自分にとって力の源であり、そして自分の力を最大限にまで発揮できる最高のステージであるからだ。

 戦艦から放たれる砲撃を思わせる怒濤の攻撃を回避しながらレヴィアタンはザドキエルの左側面へ回り込む。

 その時、迎撃しきれていなかった装甲鱗がレヴィアタンに直撃、爆発した。だがレヴィアタンの纏うスーツが少々破れただけで、本人にはほとんどダメージがないようだった。口元を伝う僅かな血を舌で舐めとり、レヴィアタンは咆哮する。


「かつての力がなくったって……こちとらには一万二千枚の装甲鱗(誇張アリ)と水中適正デフォルトSがあるのよっ!」


 そして、一気に距離を詰め、ザドキエルの懐まで飛び込み――


「ぶち抜けぇぇっ!」

 目にも留まらぬ速さで、甲殻めいた装甲に覆われた貫手を装甲鱗の間隙めがけて叩き込んだ。

 突如叩き込まれた衝撃と鋭さを持った痛みにザドキエルが悲鳴を上げる。


「どれだけ妬ましいくらいに固い鱗で体を覆っていても、魚って奴は必ず脆い隙間があるのよ」


 レヴィアタンはニヤリと笑うと、さらに装甲鱗の間隙を狙って何度も貫手を叩き込む。

 あっという間にザドキエルの左側面には貫手で穿たれた穴が無数に空き、そこから魔力が煙のように漏れだしていた。


「……すごーい、水の戦いだったられびれびに敵うのはいないね~」


 レヴィアタンの戦いを遠目に眺めていたアスカが驚愕の溜息を漏らす。

 すると、レヴィアタンが三人の元へ近づいてきた。


「ほら、何やってんのよアンタ達! さっさとフォーメーションを組み直すわよ! アタシがリーダー! ベリアルとベルゼブブはアタシの後で援護、アスモデウスは殿(しんがり)で砲撃! いいわね!」

「なんだか急に仕切られ始めたが……まあいい、了解した」

「りょ、了解!」

「は~い」


 三人は即座に返事を返し、レヴィアタンの背後へついた。


「いい? アタシがさっき開けた穴に攻撃を集中して! 今なら厄介な装甲鱗もないし、防御面はかなり弱くなっているわ! そこをアタシ達で集中攻撃よ!」


 作戦を説明しつつ、三人はザドキエルから距離をとり、体勢を整える。直後、ザドキエルが雄叫びを上げ、突撃してきた。


「さあ、始めるわよ! ついてらっしゃい!」

「ジェットストリームアタックだね!」

「いや、この人数だと小隊攻撃だろう」

「た~んじゅ~じ~ん」

「真面目にやりなさいよ妬ましい!」


 レヴィアタンは三人のボケにツッコミを入れると同時に動き出した。水面を滑走するレヴィアタンにベルとエルゼが続き、最後にアスカが続く。

 そのままザドキエルの突進を回避し、左側面へと回り込む。そして、レヴィアタンは光球(スフィア)を放ち、ベルとエルゼがその背後から火球や真空の刃を撃ち込む。

 時折ザドキエルが反撃とばかりに装甲鱗を放つが、殿を務めるアスカがそれらを砲撃で撃ち落としていく。敵の体から生える管より放たれる高圧水流はレヴィアタンが適切な回避指示を出す事ですべてかわしていく。

 敵の猛攻をかい潜りつつ、四人がは水上を駆け抜けながら左側面に開いた穴を攻撃し続け、そして――


「ばすた~!」


 アスカが放った砲撃により、少しずつ広がっていた穴はついに人一人が入れるくらいの大きさにまで広がった。ザドキエルはその痛みに悶え苦しみ、耳障りな雄叫びを上げている。それを見たレヴィアタンは言い放った。


「さあ、トドメといこうじゃない!」


 同時に彼女は隊列から離れ、単身ザドキエルに向かって接近していく。アスカとエルゼは慌てて後を追おうとするが、レヴィアタンがそれを手で制した。


「レヴィアタン、どうするの!?」


 エルゼの問いにレヴィアタンはニヤリと笑って答える。


「あいつの体内に突入して、中にある<欠片>を取ってくるのよ! こういう奴は外から破壊するよりも中から破壊する方が妬ましいくらいに効率的よ。だからアンタ達はそこで待ってなさい! それと、万が一事アタシが出てこなかったら一斉攻撃でこいつを消すのよ! いいわね!」

「待って待ってー! それじゃれびれびが危ないよー!」

「そうだレヴィアタン。ベルに代われ、その方がゾクゾクする」


 アスカとベルが声を上げるが、レヴィアタンの笑顔は崩れない。


「心配いらないわ。このメンバーの中でダメージを受けていないのはアタシだけよ。あくまで万が一の時よ。それとベリアル、アンタの言っている意味がわからないわよ妬ましい……って、ああもう時間がないからさっさと作戦開始よ!」


 言い終え、レヴィアタンはザドキエルの体に開いた穴の縁へ登り詰めた。そして、迷う事なくレヴィアタンはその体内へと飛び込んだ。




 一方、水中の統哉はなおもかすかに感じる気配をたどってルーシーを探していた。それはほんの数分だったが、今の彼にしてみれば無限の時間にも感じられた。

 身に纏うケルベロコートのおかげで体温の低下は免れていたものの、息を止めているのはもはや限界に近く、さらに服が水を吸い続けたせいで重みが増し、その動きはかなり鈍っていた。それでもなお統哉は決して諦めずにルーシーを探していた。

 時折、水を通して振動が伝わってくる。おそらく水上では激しい戦闘が繰り広げられているのだろう。三人に守護天使の相手を押しつけてしまった事を申し訳なく思いながらも統哉はルーシーを探し続ける。

 すると、急に彼女の気配が強くなった。統哉は急いで気配のするところへ泳いでいく。すると、視線の先で微かに輝く銀髪が見えた。

 それは紛れもなくルーシーの姿だった。統哉は急いで沈みゆく彼女の元へ向かい、その体を受け止めた。

 見た限り、彼女はまだ生きているようだった。統哉は一瞬安堵したが、彼女の呼吸は当然のように失われており、このままではいつ死んでしまってもおかしくない状況なのは明らかだった。

 統哉は彼女の体を自分に抱き寄せると、急いで浮上しようとした。だがその時、ついに限界が訪れた。

 息苦しさが限界を超え、統哉は無意識のうちに口を開いてしまった。その瞬間、大量の水が口に流れ込んでくる。思わずもがくが、その行動は自分をより追い込む結果になった。酸素の欠乏と、大量の水が口内へ流れ込んだ事によって急激に意識が薄れ、体から力が抜けていく。だがそれでも統哉は片腕に抱き寄せているルーシーの体を決して放そうとはしなかった。


挿絵(By みてみん)





 ザドキエルの体内は有機物と無機物が絶妙に混ざり合った体組織で構成され、今までに受けていたダメージからか、所々から濃密な魔力や金属のような何かでできた骨らしきものが見える。その言葉にできないおぞましさにレヴィアタンは思わずゲッと呻いた。


「……なんともまあ、いい趣味してるわね。妬ましい。だから……」


 痛烈な皮肉を呟き、レヴィアタンは目を閉じて意識を集中する。自分の体を巡る魔力を喚起し、具現化させる。みるみるうちに彼女の周囲に水が生まれ、それはやがて渦巻く水流となって彼女の周囲を取り巻き始めた。

 膨れ上がっていく魔力に危険を察知したのか、ザドキエルの体内が激しく蠕動し、体組織や骨らしきものがレヴィアタンを押し潰さんとばかりに襲いかかってきた。

 その時、レヴィアタンは目をカッと開いた。


「みんなまとめて、綺麗さっぱり洗い流してあげるわ!」


 言い終えるや否や、レヴィアタンを取り巻いていた水流が突然その量を増し体内を埋め尽くさんほどの激流へと変じた。

 レヴィアタンはバック転を決めると激流の先端へ着地した。そして激流は凄まじい速度でザドキエルの奥深くへと侵攻を開始した。レヴィアタンはサーファーが波に乗るかのような姿勢で水流を乗りこなしている。時折ザドキエルが暴れるせいか視界が何度も回転し、さらに蠕動する体組織やあちこちから飛び出してくる骨らしきものが行く手を阻むがレヴィアタンはそれをものともせず、体を器用にくねらせてそれを回避し、激流が彼女の進む道を阻むもの達を打ち砕いていく。それはまさに、水の力による蹂躙だった。

 レヴィアタンが目指す場所はただ一つ。この守護天使に力を与え続けているルーシーの力の断片――<欠片>のある場所だ。それは強大な魔力の波動を放ち続け、レヴィアタンにその在処を伝えてくる。そして、突然視界が開けた。

 そこは大きな空洞を思わせる空間で、中央部分には体組織が複雑に絡み合っている場所がある、まさにザドキエルの中枢部分といってもいい場所だった。レヴィアタンは獰猛な笑みを浮かべると、激流に乗ったまま中枢へ突撃する。絶える事のない激流が体組織を削り、砕き、洗い流していく。そして、その先にあった金属製の骨らしきフレームをも砕いた先に青く輝く球体を見つけるや否や、レヴィアタンはそれを勢いよくもぎ取った。


「<欠片>、獲ったどーっ!」




 レヴィアタンがザドキエルの体内に突入してから一分。その場に残された三人の堕天使達は固唾を飲んで待機していた。目の前ではザドキエルが激しく暴れており、激しい水柱が何度も立ち上る。

 と、その時、今まで激しく暴れていたザドキエルが突然動きを止めた。堕天使達は最悪の事態を想定した上で、即座に身構えて攻撃できる体勢を整える。


「べるべる~、どうする? ぶっぱしちゃう~?」


 アスモキャノン666を構えたアスカが隣にいたベルを横目で見ながら尋ねた。


「まだだ。まだあいつが言った『万が一』かどうかわからん。だが、攻撃の用意は怠るな……」


 ベルがそこまで言った時、ザドキエルが断末魔とも思える絶叫を上げ、大きな口を最大にまで開けた。すると、ザドキエルの口から凄まじい水流が吐き出された。そして、少しの間を置いた後、レヴィアタンが飛び出してきた。その手には青く輝く<欠片>を持っている。


「もう一度言わせてもらうわ! <欠片>、獲ったどーっ!」


 快哉を叫びながら、レヴィアタンは激流に乗り続けている。その姿を見たベルは思わず感心した口調で呟く。


「見事だな。流石『水の上を自在に滑りながら特製のスティックで敵をぶった斬り、血の滴る寿司を作る天才料理人』という称号は伊達じゃないな」

「長いよ!? それにそんな称号初めて聞いたよ!? あと特製のスティックって何!?」

「うんうん♪ やっぱり、水中適正がデフォルトでSはすごいよね~。基本的に水中の敵をまともに攻撃できるユニットって限られてるし~」

「アスカ? それスーパーで大戦的なゲームの話だよね?」


 アスカの呟きに対してエルゼがすかさずツッコむ。


「……以前、あいつを『やっぱりマグロ食ってるようなのはダメだな』と評したが、あえて言わせてもらおう。『やっぱりマグロ食ってる奴は違うな』」

「いやいやいや! マグロは関係ないと思うよ!?」


 神妙な顔をしながら呟くベルにエルゼがすかさずツッコむ。そうしている間に、レヴィアタンは水面を滑走しながら三人の元へと戻ってきた。


「お待たせ! しっかりもぎ取ってきたわよ!」


 レヴィアタンが誇らしげな表情を浮かべながら手の中にある<欠片>を見せる。


「……確かこれは第四の<欠片>・<慈悲(ケセド)>だな。これで五つ目だ。順調じゃないか?」


 ベルが<欠片>を目視で調べながら呟く。


「さあ、さっさとこれをルシフェルに戻しましょう! 八神統哉も喜ぶでしょうよ! あっ、べ、別にあいつのためじゃないわよ!?」

「いや、ベルは何も言ってないぞ……」


 突然詰め寄られたベルが呆れ顔で返す。その時、レヴィアタンはある事に気付き、尋ねた。


「……そういえば、まったくもって忘れていたけど、八神統哉とルシフェルはどこ?」


 その問いに、ベルとアスカとエルゼは我に返ったような顔をし、周囲を見渡した。だが二人の姿はどこにも見えない。そして、一度互いの顔を見合わせ、ピクリとも動かないザドキエルを見やり、再び互いの顔を見合わせた。


「確か、ベルがあの二人を奴の背中まで運んで……」

「そのまま二人とも背ビレを攻撃して~、こわして~……」

「そしたらあいつが激しく暴れて、ルーシーが海に落とされて、統哉君がルーシーを助けるために水の中に飛び込んで…………まだ帰ってきて……ない……」


 しばしの沈黙。そしてレヴィアタンが口を震わせながら声を発する。


「ま、まさか、アンタ達……?」


「「「忘れてたーーっ!?」」」


 ベルとアスカとエルゼが絶叫する。


「どうしよどうしよどうしよ!? いくら<天士>の統哉君でも水に潜ってから大分経ってるよ! もしかしたら二人共……ああ、あの時あたしも一緒に行けばよかったのかな!?」


 エルゼが涙目になりながら狼狽える。すると、レヴィアタンが大きな声を上げた。

「滅多な事を言うな! このアタシを倒したあいつらがそう簡単にくたばる訳ないでしょうが! むしろそういう大事な事は早く言いなさいよバカ! ああもうどいつもこいつも世話が焼けるんだから! 妬ましい妬ましい妬ましい!」


 ひとしきり叫んだ後、レヴィアタンはベル達が止める間もなく駆けだし、水中へと飛び込んでいった。

 そして、統哉とルーシーを探して水底深くへと潜行していった。

挿絵:かろかろさん(2016/03/13追加)

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