別れの夜
さやかは真相に感づいてしまい、父と顔を合わせることもなくなり、ヨハンは気を遣ってさやかを慰めるものの、ふさぎこむことが多かった。
ヨハンは家にいづらいためか、門限を解かれたこともあって、午前様の生活を送るようになっていった。
幹吉は何も言わなかった。
さやかも父のほうへ意識を集中させ、ヨハンの方まで気が回らないよう。
ヨハンがほかの女といちゃついている、と友達から聞いても、ヨハンの気持ちがわからないせいか、何もいえずにいたことも原因だった。
「おかえりなさい・・・・・・」
夜中、父親とひさびさに顔をあわせたさやか。
だが、交わした会話は、それだけで終わった。
父はさやかから逃げるように、寝室へ向かう。
「待ってよ、パパ」
幹吉は、そのまま部屋に消えた。
続いてヨハンも戻ってきたので、さっきと同じで、
「おかえり」
といってやる。
「水、くれ」
ヨハンの態度は、以前より横柄なものになっていた。
さやかはコップに水を入れ、ヨハンに渡すと、彼はのどを鳴らしてそれを流し込んでいった。
「ビール飲むと、のどが渇く」
さやかは何も言わずにコップだけ受け取った。
「さやかどうした。このごろ、何も話さないな」
ヨハンに言われ、大きく肩を揺らした。
驚いたのだ。
次になにを言われるかと、びくびくする。
「きみに言わなくちゃいけないことがあるんだ」
「いや・・・・・・聞きたくない・・・・・・」
何も知らないフリをすれば、さやかはそう思っていたのだ。
ましてや、すでに終わってしまった事件のこと。
もう、眠らせてあげたい死者がいた・・・・・・。
「俺も戸惑ったよ。でも調べ上げつくしてやっと、たどりついた」
「言わないでったら!」
さやかは感情的になる。
それから・・・・・・涙が頬を伝っていった。
「さやか」
「ヨハン。私といてもつまらないなら、出て行ってもいいし、好きにしなよ。でもパパには私しかいないから」
ヨハンは意外そうな顔をした。
「それ本気で言ってるのか」
「本気よ。悪い? あたしよりいい女見つけたんでしょ。だったら乗り換えちゃいなよ。あたしとのことなんて、恋人ごっこだったんでしょうから。だってあたし、子供だもん」
ヨハンは顔をしかめて、さやかを見つめる。
「俺、そんな風に、おもったことねえよ・・・・・・」
「ウソばっかり。年上のきれいなお姉さんが好きなんでしょうに」
「ウソじゃない。ドイツ人で珍しがられていただけの俺を、本気で好きだって言ってくれたの、さやかだけだったし・・・・・・」
さやかを抱き寄せようとヨハンは、近づいてきた。
だがさやかは、誰にも触れてほしくなかった。
ある人物以外の男になど・・・・・・。
「私にはパパしかいないの・・・・・・」
ヨハンは心臓が動かずに止まってしまうのではないかと、思ったほどだった。
さやかの言葉を聞いた刹那から、あきらめていたことがある。
「五つも歳が離れていると、だめなんだな。距離がありすぎて・・・・・・」
ヨハンは、そのまま外へ出て行き、二度と戻ってはこなかった。
ヨハンとさやか、別れちゃったのか・・・・・・。
さみしいねぇ。
でも真相とはいったい?




