ヨハン、悩む
「あれね、私も調べたよ。いまいち、情報不足でつかめなかったけど」
ヨハンが風呂からあがると、発泡酒を渡すさやか。彼は酒を受け取る。
「いいの?」
食器を洗いながらさやかがヨハンに尋ねる。
「いいの、って。なにさ」
「おとうさん、遊んできてもいいって言ったんじゃない? じゃあなんで、飲みにも行かないのかなとおもって」
「知りたい?」
タオルで手を拭いて、さやかは洗い終わった食器を並べる。
「べつに。たいしたことでも、なさそうだもの」
「ひどいなぁ。・・・・・・言っちゃうとね。俺、さやかとはできるだけ一緒にすごしたい」
さやかは頬を赤く染めた。
「赤くなったでしょ。か〜わいいねぇ」
さやかはヨハンから酒を取り上げると、一気に飲み干した。
「ああ、俺の!」
「私も、ヨハンと一緒に、いたい・・・・・・」
さやかはヨハンの隣に腰掛け、彼の胸に頭をあてがう。
「こうするだけでも、怒られたのにね。もう解禁なんだよね?」
「まだ俺、お父様のこと、怖いよ・・・・・・」
さやかを手で拒む。青ざめるところ、ヨハンはホントにかわいそう、とさやかは思った。
「ヘルマン・ヘッセのお父さんも厳しかったんだって。それに、イマヌエル・カントの父も。プロテスタントとかピエ・・・・・・なんだっけ。みんなそうなのかなあ」
「今までが今までだっただけに、俺、こわいんだよ。急にやさしくされると、なんか裏がありそうな気がして。まだこんな風にするのは、やめておこう」
「ああ、それは・・・・・・あるね・・・・・・。でもだいじょうぶじゃない・・・・・・」
「だから」
「だから?」
「ひとりにしておいてくれる?」
えっ、とさやかは声を上げた。
その瞬間、ヨハンはさやかを押しのけて部屋に引っ込んでいってしまった。
「ちょっと。何よそれ・・・・・・」
さやかは五本開けていたため、すでに泥酔状態。
「うそつきー。あけろぉ。今夜は飲み明かすんじゃないのかよー」
ドアを蹴ったりたたいたり。
ヨハンはベッドに転がって、幹吉の様子を何度も思い出していた。
――父親というのは、娘の成長する姿を見るとつらいのだよ。
その言葉の奥になにが隠されているのだろうか。
ヨハンはそれだけが心残りだった。
ヨハン、お父様嫌いらしいですねぇ。
あ、じゃなくて、こわいのか 汗




