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9.前略お母様‏



おお

勇者カルバン・クライン

無敵の英雄

聖なる天使の命を受け

魔王ガンドルを打ち倒し

我らに平和をもたらせり



 うわあ、墓参りにまであの歌を歌ってるわ。


 ま、当然か。


 今日が命日の人達は、あの歌を聞いてきっと嬉しい筈だものね。


 もう、四年かぁ…


 あの日魔王の軍団がいきなり攻めて来て、空が真っ黒になって、街が火の海になった……あれから今日で四年目。


 あの日は町役のランドルさんがお嫁さん貰うから、うちの町内のほぼ全員が神殿へお祝いに集まっていたわ。


 父さん、母さんとサニー。カルバンとこのおじさん、マイウおばさん、リンフェイのとこのおばさんも参列してた。


 私にリンフェイとマリンピアは花嫁さんに渡すキルトの仕上げに手間取って、ちょっと遅れたから焦って走ってたの。


 そして、神殿に向かって、空から火の玉が墜ちて行くのが見えたのよ。


 直ぐに太い大きな火柱が、目の前に立ち上がった。


 黒いコウモリみたいな羽根の魔物が、数え切れないくらい空を覆って飛び回り、私達を追い回したわ。浚われていったり、空からわざと落とされている人も見えたわ。凄く怖かった。


 燃える街を三人で逃げ回って、夕暮れになってなんとか神殿にたどり着いたら……


 そこにあったのは、崩れ残った神殿の門と、その向こうにぽっかり空いた大きな深い穴だけ。


 穴のはしっこにサニーが引っ掛かっていたのは、どんな奇跡だったのかしら。


 初めはみんな、あの化け物に追われて逃げたんだって思った。思いたかった。


 でも、母さんがサニーを置いてきぼりにする筈無いし、誰も戻って来なかったから、とっても嫌な予感がして怖かった。かろうじて残った神殿裏の物置小屋に皆で隠れて、お城から出撃した騎士団が魔物と闘う音を一晩中聞いていたっけ。


 朝日と一緒に魔物は去り、オルブランの人口は半分になって、父さんも母さんも二度と帰って来なかった。


 王女様が拐われたって聞いたのは、やっと探しだしたお医者様にサニーを診てもらっていた時よ。


 危篤をなんとか乗りきったサニーが、火の玉が降って来たときの事を教えてくれたの。


 大きな音が空からして、火の玉に驚いた皆が逃げようとしたとき、父さんが自分を門の方に投げて、とたんに目の前が真っ白になったって。


 父さんはサニーを逃がしてくれたんだよね。


 あのあと、街の中をさ迷っていたエルトンを見つけて、奇跡的に焼け残っていた私の家に皆で住む事にしたの。宿屋だったから部屋数あったけど、あの頃は離れるのが恐くて、毎晩くっついて寝てたわ。


 店をしようって話になったのは、街も私達も何とか落ち着いた頃だっけ。


 伯爵様やジェブもマリンピアやマイウおばさんを探しに来て再会できたけど。みんなの大事な人達は、もう帰って来ない。


 再建された神殿に慰霊碑が建てられて、そこに名前が刻まれてるだけ。


 私達は毎年その名前を指で辿るわ、心の中でお話するのよ。


 父さん、母さん、それにおじさん。カルバンがね、魔王を倒したんだよ。


 もう空から火の玉が降ってきたりしないんだよ。


 お店も順調だし、サニーも最近元気出てきたんだ。


 起きて歩けるし、昨日なんて伯爵様のお屋敷まで馬車に乗って酔わなかったのよ。すごいでしょ?


 今夜はね、なんとお城の舞踏会に行くんだよ。


 私達皆でよ。


 ドレスは伯爵様が揃えてくれたんだ~私のは淡い黄色で、サニーは可愛いふわふわレースのピンク。本当に可愛いんだから。


 伯爵様に迷惑掛けるなって言いたいんでしょ母さん?


 大丈夫よ。挨拶の仕方くらい教えてもらってます。


 それに、壁の花に徹するつもりよ。心配しないでね。


 何てったって、あの偽物に会えるんだもの、こんな機会はもう無いわ。絶対に化けの皮を剥がすか、どういうつもりなのか聞き出してやらなきゃ。


 あ~それにしてもさ、おじさん。カルバンどこほっつき歩いているか知らない?


 いつまでも偽物にでかいつらさせておけないでしょ? 早く帰って来させて、お願いします。


 じゃ、頑張ってくるね。


 見守っててね。


今回は過去編( *´ー`)

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