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7.妹は危険な薫り‏

おお

勇者カルバン・クライン

無敵の英雄

聖なる天使の命を受け

魔王ガンドルを打ち倒し

我らに平和をもたらせり



 半ば掠れた声で歌うジェブの横に座ったサニーが、黙々と炙り肉を挟んだパンと温野菜を食べてる。


「サニーちゃん、もう、良い?」


 疲れたんだろうな。ジェブがお伺いをたてると、サニーは無言で横に置いたパイの伸し棒でテーブルを叩く。


 つまり、続行よ。


 ジェブはガックリ肩を落としてから、また歌いだす。


 あいつって昔っから、サニーには絶対服従なのよね。


 ちっちゃな頃から体が弱くてすぐに熱を出したり目を回したりする私の妹を、一番心配して労っていたのがジェブだったわ。


 特に三年前、サニーが魔王の軍団の魔法攻撃に巻き込まれて、半ば寝たきりになってからはもう。サニーの姉は私よ、あんたの妹はマリンピアよ。って言いたくなるぐらいの溺愛っぷり。


 それに、お医者様や薬を手配してくれてるの。


 まぁ、こんな人の好い奴だから。いくらジェブが変態でも見棄てられないのよね。


 今も私に迫っていたお仕置きに、サニーが良いと言うまで歌い続けてるの。


 おかげで夕方からの分の仕込みができるってもんよ。


 最強の援軍が来てくれて良かったわ。


 おばさん亡き今、あいつの妄想を止められるのはマリンピアの一喝かサニーの無言の圧力だけだもん。カルバンだと喧嘩になるから被害甚大だしね。


 今日のサニーは顔色も良いし、二階から降りて来れるくらい体調良いみたい。


 あの子の目が、ちゃんと開いていてほっとするわ。


 ジェブもなんだろうな。ひーひー良いながら、それでもサニーを見る目は嬉しそうだし、声の伸びも良いわ。


 よし、せめてもの情けだ。茶でもやろう。


「ジェブ、サニー。お茶どうぞ」


「ありがとう愛しい人」


 のわ! しまった! 捕まえられた!


 コィーン


「……」


 私の腰に抱きついたジェブの後頭部を、無言で容赦なく伸し棒が見舞う。いつもながら良い音ね。中身な~んにも入ってないんじゃないかしら?


 よし、腕が緩んだ。危険領域から逃げてサニーの横に逃げ込むと、おっきな目で見上げてくれる。


 あ~可愛いなぁ。弱い体は発育も遅くて、十五って年よりずっと幼く見えるけど、だから余計にお人形さんみたいなの。


 私のよりちょっと薄い青のサラサラ直毛の髪に、やっぱりちょっと薄い緑の瞳がなんとなく潤んでて、睫毛バッサバサ。小振りでぷっくりした唇と、すべすべな頬っぺたに赤味が差していたらどんなに嬉しいか。


 普段は表情に乏しいんだけど、ご飯美味しかったり機嫌が良いときはちょっとだけ微笑んでくれるの。


 ふわっとね。


 スミレの花が風に揺れるみたいな、今してくれてる柔らかな笑顔。


「お姉ちゃん、美味しかった」


 あ~! 可愛い過ぎる!


 ぎゅってしてかいぐらかいぐりしてちゅーしたい!


 お姉ちゃんはめろめろよ!


 でも、そんな事を真っ昼間に店先でしたら私も変態になるからぐっと我慢してにっこり笑い返すわ。精神力の勝利よ。


「たくさん食べれたね」


 一人前きっちり食べられるなんて奇跡だわ。いつも細い食欲にハラハラしてるんだもの。


「うん。今日は楽」


 嬉しい事を言ってくれるじゃないの。


 思わず緩む顔が止められない。


 ……でも、なんだか横からねっとりした視線も感じるのよね。


 チラッと目を遣れば、溶けたバターより融けた茶色の目と顔があるぅ。


「微笑み合う美人姉妹。はぁ~絵になるねぇ」


 思わず鳥肌立っちゃった。


 でも、目の端でサニーの頬にほんの少し赤みが差すのが見えたの。


 えっ!? って思ってサニーを見たとき、今度は凄く重い、ゴツっていう音がしたのよ。なんか、黒いオーラと一緒に。


他人(ヒト)の妹構う前に、実の妹に用がなかったか? 馬鹿兄貴」


 低~い声でドスを効かせてるのはマリンピア。帰って来たのね。


「……やぁ……我が妹よ」


 後頭部にマリンピアの拳を乗せたまま、テーブルに突っ伏したジェブがか細い声で返事した。


 私とサニーは、どんどん下がる室温に我知らず抱き合っちゃう。


 だって、ねぇマリンピア。


 何、激怒ってるの?


無口無表情病弱娘( *´ー`)

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