40.奴らを高く吊るせ
七夕ですね。
離れ離れの牽牛さんは?
「おい! どこいくつもりだ?」
今頃来やがったか。
「レニのとこへ行く」
「まだだ、寝てろ」
寝てられるか!
「肋骨どころか、足の骨もくっつききって無いんだぞ」
それがどうした?
「走れる跳べる踏ん張れる、普通に剣も振れる」
「アリィ様ぁ~カルバン様を止めて下さい~」
うるせぇぞティルク。
「ぐっ…!」
何しやがる!
「文句を声に出せないくらい痛いんだろう?」
折れた場所圧しやがって、卑怯者。
「敵ならソコを集中攻撃だ」
じゃかぁしい。
「後二日。そうすればナノマシンが激痛を鈍痛になるくらいに治療する」
待てん!
「何焦ってるんだ?」
お前こそ誤魔化してんじゃねぇぞ。
「なにをだ?」
てめぇは天使の癖に、平気で嘘吐きやがるからな。
「ティルク…さっきの、歌。聞かせて、やれ」
チクショウ。たかが痛みで息が上がってやがる。
「あ、アリィ様、さっき外から歌が聞こえたんです~」
「言い訳はいい、聞かせてくれ」
おお
勇者カルバン・クライン
聞こえているか
ブルース姉妹は預かった
マリンピア・サンクも共にある
ジェブ・ノリスを処刑しよう
「なんだよ、この強引な替歌は。韻もなんも無いじゃねえか」
誤魔化すな。
「素直な感想だぜ」
「アリィ!」
この歌はただの脅しか? 俺をおびきだす陽動に過ぎないか?
俺がテンテキ引っこ抜いて、身仕度済ますまで来なかったのは何でだ? いつもは、抜けかけただけで飛んでくるお前がだ。
「……俺、嘘は吐けるけど、下手なのかねぇ」
ああ、解りやすい。だから信用してやってるだろ? 不良天使。
「ハイハイ。わかったよ」
天使は素直が一番だ。
「歌は、半分脅しで半分本当だ」
詳しく話せ。
「ああ、見せてやるよ。半鐘前の記憶をな。で、その前に」
何だ?
「ティルク」
「はい~」
「オルブランとアマルーディアを飛び回り、魔王か、もしくは奴に匹敵する負の力の溜まり場を探せ。見つかったらトパ達にまず知らせろ、俺には心話でいい」
「判りました!」
おお、小鳥の癖にティルクも速いな。さすがは妖精。
「ぽよぽよしてても頼りになる。俺の生まれる前から活躍してきたベテランだぜ」
お前の親父が鍛え上げたんだろ? ティルクの自慢だからな。
「ああ、ずいぶん色んな冒険をしたらしい」
あいつなら突き止めるさ。
「次はお前だな」
状況次第で飛び出すからな。
「へぇへぇ。さ、座れ。部分記憶共有の一時融合をする」
相変わらず何でも有りだなお前。
「だから天使なんだよ。俺は奇跡に満ちてるのさ」
はぁ、さいで。
「はじめるぞ」
何でお互いにこめかみ押さえるんだ?
「精神融合の作法だ」
ふぅん。
「俺の精神をお前の精神へ、俺の考えをお前の考えへ……」
――見えるか?
お前の声が近すぎて気色悪い。
――融合してるんだからしょうが無いだろ。
そういうもんか。
――まあ、とにかく。見えるか?
馬車の中だな。クラにリア、お前とお姫と…レニだ……
――レイニーちゃんに見惚れるのは後だ。
ば! 俺は別に。
――いいから。俺達は『女神の食卓亭』が襲撃受けたから、兼ねて用意の離宮に移動していた。
襲撃!?
――呪歌で店ごと揺さぶられたんだ。お姫が居たから皿が割れた程度で済んだ。
あの馬鹿。最初から離宮で厄介になってりゃ世話ねえだろうが。
――そういうちゃっかりさんじゃないから、お前も好きなんだろ?
うるせぇ! それでどうなった?
――荷物まとめて、二台の馬車で城に向かったんだ。狙われてるのはレイニーちゃんだから、一応俺とお姫とクラとリアで周りを固めた。
厳重過ぎて、搦手から来られたか。
――あたり。城は大門からしか入れないだろ? その手前が中央広場だ。
そこで仕掛けられたな。
――ああ、ほら見てな。まずレイニーちゃんが異変に気付いた。彼女、こういうの聡いな。次いで俺。その時はもう遅過ぎた。
二台目の馬車ごと、怪鳥が持ち上げた? って、待てよ化け物! 吊り上げて天井握り潰したら、馬車が落ちる!
――そんなの奴さんのパフォーマンスさ。ほれ、伏兵が控えてる。
ガーゴ達か。空中戦が得意な厄介な連中だ。ターグがリンフェル抱えて着地だな。サニー! マリンもガーゴに捕まったか。 ジェブはサニー抱えたガーゴにしがみ付くので精一杯かよ! 役立たず!
――言ってやるなよ。サニーちゃん助けようって必死なんだからさ。あれに振り落とされないのは根性あるぞ。
あいつはしつこいのが取り得だからな。なんだよ。城から衛兵まで出てきてるってのに、手も足も出ずか。
――弓で射て下手に人質傷つけられんからな。お姫の結界も、あそこまで密着されたらガーゴごとじゃなきゃ無理だ。……ロゴスがありゃあなぁ。
トパは何やってる。
――城の奥から走ってきたよ。けど、間に合わなかった。
『カルバン・クライン! レイニー・ブルース! 血を引き渡せ。サニー・ブルースとマイウの娘はそれまで預かるぞ!』
ちょっと待て、なんでおばさんの名前が出て来るんだよ。
――変態のおっさん繋がりかな?
あのおっさん一人が、オルブランの情報源だったのか? 前から思ってたけどよ。魔王の軍って人材に恵まれねぇよな。
――だから俺達勝てたのかもな。
嬉しくねぇな。
――だなぁ。
怪鳥が黒い鳥に分裂して群がってきた。目眩ましで逃げる気か。
――ああ、あの鳥が団子になるようにガーゴ達をつつんで、ほどけたら消えていた。
お前でも気配追えなかったのか?
――ガーゴ達は雑魚過ぎて魔力も弱いし、一般人はそれこそ街の中じゃ紛れて追えない。
役立たず。
――誰か一人でも勇者だったらなぁ。
これで終わりか?
――ああ、融合を解くぞ。
「まだ手掛かりも無いんだ。お姫はオルブランからは出ていないって言ってる。闇雲に走り回るよりも、治療に専念しろ」
そんな悠長に出来るかよ。
アリィ、俺にはお前の魔法も奇跡も効かないんだろう?
「魔王の呪いもな」
お前の『科学』とやらは効く。
「物理的なもんだからな」
そっちでなんとかならんか?
「今のところなんとかしてる最中だろ?」
「アリィ。頼む」
「……ウルヴァリンになりたいなら、手はあるぜ」
なんだそりゃ? まぁいい。手があるならやってくれ。
「お前、本当に後先考えねぇな」
考えてる場合じゃねえだろ?
「タマにその単純な脳ミソが羨ましいぜ」
早くしろ。
「防具脱いで寝台に行けよ。痛くて泣いても知らないぜ」
泣くかよ。
「あ、今だから言うけどな。お前の肋骨。開放骨折っつうて、折れた骨が皮膚突き破って胸から突き出てたんだ。よく生きてたぜ」
痛みが増すような事言うんじゃねえ。
「苦労させられてる八つ当たりだよ」
本人に当たるのは八つ当たりじゃねえ。
とにかく早くしろよ。
「わかったよ。準備してくる」
ああ、頼んだぜ。
……レニ。
待ってろよ、すぐ行くからな。
( *´ー`)今回は、章題西部劇、中身スタトレでしたww
どの変なのかは、例によって判る人にしか判らないw
お話は、一気に加速……して欲しいなあ。