37.やっつけろ~
おお
しかしてカルバン・クライン
哀れな勇者
全てを失い闇を受け。
全てを切り裂き剣を棄て
血塗れし翼を広げたり
何その替え歌?
「アリィ! 呪い歌ですわ!」
お姫が叫ぶと、アリィさんがにやりと笑ったわ。
「おけ。そろそろぶっ飛ばしてくるか」
いや~ん。なんかカッコいい。
「お姫、合図したらコンマ一秒結界を開けてくれ」
そう怒鳴ってテーブルの下から抜け出したアリィさん。両腕振り上げて雄叫び上げたわ。
「ウィーウィルウィーウィルロックユー!」
またあの呪文。どういう意味かしら?
叫ぶのと一緒に足を踏み鳴らす。
ダンダン! ダン!
途端に、辺りがしんっと静まり返っちゃった。
う、静寂がむしろ耳に痛い。
「な……何したの?」
私たちもテーブルの下からそろっと這い出して聞いてみた。
「揺らし返した」
やっぱり天使。反則だわ。
「できるんならさっさとやってよ~」
お皿が割れる前に~!
「悪ぃ、準備に手間かかってさ」
片手拝みで謝られると、どうにも文句が言いにくくなるのよね。アリィさんの人徳かしら。あれ? 天使徳?
いいか、どっちでも。
「魔王被災ですから、国から補助金が出ますわ」
にっこりとお姫が微笑んでくれるけど、前回の配布ですっごい雀の涙なのを知ってる身としては、ちょっとひきつっちゃった。
ま、お皿買い換えるくらいは貰えるかな?
「向こうが魔王の魔物なら、もっと良いもの手に入るぜ」
へ? なにそれ?
「ぬか喜びさせたくないから、後でな」
え~
「んじゃ、ターグ、エルトン」
え? 二人も行くの?
「お前ら、命棄てる覚悟持ってるか?」
ええ?!
「持ってる!」
「当然!」
そんな覚悟持たないで~!
「行くぜ野郎共! マリン、ここは頼んだ。 お姫。開けろ!」
言うなりターグさんとエルトンの腕を掴んで、アリィさんたちが消えちゃった。
「生きて帰れよ!」
マリンピア、威勢の良い餞別言っちゃやだ。
な~んて思ってたら、お姫が奥の方を睨んだわ。
「今、開いた隙に一匹入りましてよ!」
え?!
「ああ、頼まれた」
そう言ってニヤリと得意の棒を掴むマリンピア。男前過ぎるわ。
魔物って、昔私たちを追い掛け回したでっかいのじゃなくて、膝くらいまでのぬめぬめしたヤツなの。
リンフェルが悲鳴を飲み込んで、私は背筋がぞっとしたわ。
トカゲ? ヤモリ? そんな感じ。
嫌いなのよ、トカゲ。
「天使はお見通しだな。これくらいなら、相手ができる」
ブンって棒を一振りして、構える。こういう時のマリンピアって、いつもよりかっこいい!
いや、見とれてる場合じゃないわよね。何か加勢できないかな?
「お姫、こいつの弱点知ってないか?」
じりじりと間合いを計りながらお姫に聞くと、ポ~っとマリンピアに見とれていたお姫が、慌ててほっぺたを押さえたわ。
うん、判る。その気持ち。
マリンピアって、雰囲気男前で背も高いし、中世的でかっこいいのよね。
女性のお客さんの大半は、彼女のファンなのよ。
「その魔物はベスモトーン。下級のドクトカゲですわ。爪に毒がありますひっかかれないようにして。舌を切り落とせば消滅します!」
切り落とす? じゃあ包丁要るわね。
厨房にならある!
って私が走ったらリンフェルも着いて来たわ。
「二本のほうが確実よ」
さすが、解ってる!
にっこり笑い合って、厨房から、肉きり用と魚用の包丁をそれぞれ持って戻ると、マリンピアが大立ち回り始めてたわ。
慌てて二人でテーブルを除けて、広場を作ったの。
だって、マリンピアが動き難いし、テーブルが巻き込まれて壊れたら、被害額嵩むじゃない。
トカゲの爪と舌の攻撃を、マリンピアの華麗な棒捌きが跳ね返す!
あ、トカゲの顎に一撃が入ったわ。すかさず蹴り!
ひっくり返った白い腹に、マリンピアの棒が突き立った! うわ、物凄い悲鳴。
「押さえてるうちに切り落とせ!」
仰向けでヘゴヘゴ喘いでるトカゲは、ちょっと離れたテーブルを舌で掴もうとしてるみたいで、ぬめぬめの舌がベろんって伸びてるの。
う~気持ち悪い。
でも、これならいける!
リンフェルと二人で左右から舌に切りつけたわ。
なんてったって、現役料理人が毎日丁寧に研いでる包丁だもの。つまり私だけど。それはもう、いつも惚れ惚れするくらいの切れ味なのよ。
トカゲの舌はプツンって綺麗に三等分されたわ。
んぎゃぐぇごがぁ!
なんて汚い悲鳴を上げて、トカゲが蒼く燃え上がったの。
びっくりしたマリンピアが飛び退くと、トカゲは燃えながらどんどん縮んでいって、最後に丸い手のひら大の何かになったわ。
え? これって……
「光玉?」
薄暗い店内を煌々と照らすのは、魔法具で御馴染みの光玉。しかも市販のものより明るい!
「魔王の魔物は、その等級によって様々な魔法具に死ぬと変化しますの。これ、お店に売ると、相場の三倍で売れましてよ」
にこにこと、王女様っぽくない所帯染みた説明してくれるお姫の言葉に、私たちはボケっと光玉を眺めてたわ。
アリィさんの言ってたいいものって、これだったのね。
お願いアリィさん、エルトン、ターグさん。
もっと良いもの取ってきて!
( *´ー`)今回の章題。
知っている人は結構レトロ。しかもマニアックww
失われた男の夢ですよ。
さあどこに?