34.伏竜
全くけっさくだ。
真実を知っても、ジェブはジェブかよ。
「あの打たれ強さは見習いたいね。これは?」
右下。打たれ強いってより、懲りないだけだろ?
「そうとも言うな。ところでお前は知ってたのか? ほいこれ」
左。ああ、ポレール師匠から聞いてた。あのおっさん酒入ると喋る喋る。
ま、そもそも絶対に秘密って程秘密じゃねぇらしいし。
俺はそんなのに首を突っ込む気はねぇしなぁ。
知ってる奴も、さすがに当事者には言わなかったみてぇだな。
「ジェブはあの通り人の話聞かないし。マリンちゃんは下町から出てこないしで、中傷大好きな有閑マダムも噂や皮肉を吹き込む隙がなかったんだろうよ。次、これ」
左斜め下。あ~そりゃあり得るな。あの攻撃で、昔話どころの騒ぎじゃなくなっただろうし。
「禍福は糾える縄の如しだな。ほい、これ」
上。またややこしい事言いやがって。ま、確かに何が幸いするか判らんもんだ。
「だから人生は面白いのさ。最後はこれ」
右斜め上。お前の人生何年あるんだ?
「取り敢えずまだ二十一。よし。視力は戻ったな。筋力の回復数値も順調だ」
もう半月だからな。そうそう寝ていられるかってんだ。
「お前、全治三ヶ月の重症なんだぞ。普通な、半月でここまで動けないぜ」
なにせ天使の加護があるから。
「言ってろ」
でも、何でまだ声出したらダメなんだ?
「別に不自由無いだろう? そもそもお前、頭で浮かべりゃ俺に聞こえるんだし」
まぁそうだけどな。体の中で猫が喉鳴らす様な音も聞こえて煩ぇしで、変な感じだ。
「不思議なもんだよな。この世界にも犬が居て、猫は喉鳴らすんだ」
他の世界にも犬猫居るのか?
「俺の実家じゃ凶暴な猫を二匹飼ってるぜ。犬は車だ」
犬が車? 馬車牽くくらいでかいのかよ。凶暴な猫ってどんなだ?
「あいつらなら、人間噛み殺すかな?」
じいさんが最終兵器だったり猫が人間噛み殺したり、まともなのは居ねぇのか? 天使ん家はやっぱ違うな。
「ま、良いじゃないか」
で、この音何なんだ?
「猫が喉鳴らすのと同じ原理さ。低周波ってのを骨振動で伝えてる。骨の再生を促すんだ。喋ると声で低周波を阻害するから黙ってろってことさ」
ふぅん。
「ものすごい技術の結晶を惜しげもなく使ってやってるってのに、感動薄いよな」
判らんから感動のしようがねぇし。
「これがクラなら、ワクワク嬉しそうに聞いてくれるのにな」
旅の間も、お前が何かしら出す度に質問攻めだったな。
「ああ、懐かしいな。ってことで奴さんから手紙だ」
そうきたか。あいつら何て言ってきた?
「まずリアからの文句で、自分たちを仲間外れにして楽しそうな事するなとさ」
妊婦が何言ってやがる。
「クラからは、嫁さんが安定期に入ったからこっちに来るって」
あそこん家には、赤ん坊の心配する奴は居ねぇのか?
「ウチの子ォなら、ちゃんとお腹ん中にしがみついとく根性持ってる。って言うんじゃないか? あのカミサン」
間違いなく言うだろ。で、クラが迎合するんだ。
「そこまで尻に敷かれてたか? ま、次の満月に移動魔方陣使うそうだ」
それ、何時だ?
「五日後」
賑やかになりそうだ。
「リハビリ頑張らないとな。明日はトパが手伝いに来るそうだぜ」
ちょうどいいな。勘がどれだけ狂ったか試せる。
「おいおい。手合わせかよ」
無理はしないさ。
「せっかく順調なんだから頼むぜ」
ああ。
さてと、動く床で走り込みするか。
「まだ歩け! 傾斜負荷掛けてやるから」
ったく。煩せぇ天使だ。
「言うこと聞くなら良いものやるぜ」
なんだよ?
「じゃ~ん! レイニーちゃん特製弁当だ」
「なにぃ!?」
「声出すな。お前に会えたら届けてくれってな」
ならそもそも俺のだろうが!
「お前が我が儘こいて体壊すなら、見つからなかった、ってことで俺が食う」
てめえ……天使の勇者が居る場所に直で瞬間移動できるだろうが!
「レイニーちゃんには、その説明はしてないからな。『羽でパタパタ飛び回るのは大変ね』って労られちまったぜ」
どこの渡り鳥だよ。お前の羽の速さなんざ、普通の鳥の十倍だろう。
「残念、三十倍だ。ほれ、歩くか走るか決めろよ」
……歩けば良いんだろ?
「おぉ。さすがレイニーちゃん。効果絶大だな」
煩ぇ。
ほれ、早く調整しろよ。
「ほいほい。じゃ、がんばれよ~」
( *´ー`)犬が車。RED SONIC参照すると、ネプチューンが元気に走ってますが、スルーでも大丈夫。
我儘な患者をアリィがからかってるだけです。
そしてレイニーの弁当は最強