31.パーディタ家の秘密。
話が通じない方。もう一回30話から読み返してください。改訂してあります。
おお
勇者カルバン・クライン
雄々しきますらお
広野を進み山を駆け
魔王の魔手を打ち払い
我らに希望を与えたり
ジェブの爆弾発言に店中が静まり返ると、通りの方からカルバン・クラインの歌が聞こえたわ。
あれ何番まであったっけ?
カルバン、早く帰ってくればいいのに。
いけないいけない。また頭が明後日に行ってたわ。
それにしても、ご愛妾って結婚するものだったの?
「兄貴、ちゃんと説明してくれ」
「長くなるぞ?」
「構わん」
またまたため息吐いて、ジェブがゆっくり語るのは、伯爵様とマイウおばさんの知られざる真実。とパーディタ家の秘密だったわ。
そもそも、没落した男爵家の最後の生き残りだったマイウおばさんと、伯爵様が出会ったのは四十年近く前の十代前半、お互いが近衛騎士の見習いをしてた時なんですって。
女性が騎士って驚くかもだけど、シアルには少ないけど居るの。主に王妃様や王女様に仕えるんだけどね。
先輩見習いの子爵家の息子(そう、後の変態おじさん)に嫌がらせされて困っていたマイウおばさんを、伯爵様が庇ったのが馴れ初めなんですって。
リンフェルが『いやん、ステキ』ってうっとりしてたけど、話はそんなにロマンチックじゃなかったのよ。
伯爵様に庇われたマイウおばさんがよっぽど気に入らなかったのか、先輩見習いの子爵家の息子は、あろう事か訓練にかこつけておばさんの腕の筋を傷つけて二度と剣が持てないようにしてしまったんですって。なんて奴!
しかも、子爵家の力を使ってただでさえ没落していた男爵家を追い詰めて、完全に潰したんですって。酷いわよ。仲間に故意に怪我をさせたって事で騎士様から破門された程度じゃ足りないわ。伯爵様どうして黙ってみてたのよ!
そりゃ皆怒ったわよ。
ジェブの話だと、当時、親の反対を押し切って騎士見習いを始めた伯爵様は半ば勘当されてたんですって。元々次男坊で跡取りでも無いから放り出されていたみたい。
ついでに師匠の騎士様のお使いで、魔法都市カイエンタに行っていてオルブランを留守にしていたのね。
帰ってきて事情を知った伯爵様が男爵家に行ったら、屋敷は売りに出されててマイウおばさんは姿を消していたの。
伯爵様は、男爵家の親戚筋や知り合いをまわって探し回ったけれど、その行方は杳として知れず。
そんな中で、子爵家の息子も探し回ってるのを聞いて、未だ嫌がらせしたいのかって文句を言いに行ったら、マイウおばさんが自分のモノにならないから懲らしめただけだ、なんてふざけた事抜かしたんで殴り飛ばしたの。もっと再起不能にすればよかったのに。
伯爵様も若かったのね。
でもこのままだと探し出されて妾にでもされかねないから、伯爵様は必死で探して、ついに乳母の家に身を寄せていたマイウおばさんを見つけ出したんですって。
実はこの時点で、二人は恋人とかじゃなくて純粋にお友達。
まだ十三-四だもんね。
んで。伯爵家が実家とはいえ、勘当同然の次男坊と、片や公爵家とも縁のある子爵家にしては有力な家の力を思う存分使える、甘やかされまくった跡取り息子。
家格と人格と頭のできは伯爵様が上でも、権力の点では劣ってた。
そしてその馬鹿息子は執拗にマイウおばさんを探し回ってる。
『そんな頃からストーカーだったのか』ってアリィさんが呆れていたわ。すとーかーってああいう変態の事なんだって。いやねぇ。
だから伯爵様は、自分の乳母の再従姉妹におばさんを預けたの。アマルーティアにお嫁に行ってた人。
お陰でかおばさんは子爵に見つからずに、穏やかに暮らせたらしいわ。
それから約十五年ちょっと。
おばさんはお針子から自分の店が持てるくらいになっていて、伯爵様は騎士として色々名を上げたの。家の父さんやポレール様と知り合って、冒険をあれこれしてたのがこの頃ね。酒盛りの時よく聞かされたわ。
その間二人はずっと文通していて、お互いの一番の相談相手で理解者になってて。いつの間にか深く愛し合ってたんですってぇ~~うん、やっとロマンチックよね。
やがておばさんの所に通うようになって、そしておばさんをオルブランに呼び戻して二人で家を買った。
そう、家の近所のおばさんが住んでいた家。だから、何があっても引っ越さなかったのね。
伯爵様は仲良しだった当時の仲間、つまり当時は王子様だった今の王様と家の父さんと騎士ポレール様の立会いで、しっかり神殿で結婚式を挙げたの。
この結婚を見て、家の父さんも母さんとの結婚を考え始めて、王様も許婚だったお妃様との婚礼を真剣に考え始めた転機になったんだと思うわ。だって二人とも、それから一年以内に結婚してるんだもの。ポレール様は二年後だけど、きっと相手探しからはじめたんで遅くなったのよ。
で、ここからが本題。
結婚した二人を、伯爵様のご両親は許さなかった。
でもまぁ、ほぼ勘当されてたし、とっくに独り立ちしてるんだし、跡取りでも無いんだからって気にしなかったんだそうよ。
なんだけど、伯爵様のお父さん。マリンピアとジェブのお祖父さんって、何でも思い通りにならないと気が済まない人だったみたいね。
とにかく言うこと聞かない次男坊にカンカンだったんだって。
知り合いには『次男は独身だ』と言い張って、縁談受けて、伯爵様に断られる事多数。
挙げ句にマイウおばさんが二度流産した事を理由に、勝手に離縁の届けを神殿に出したりしたの。それは立会人が王子様だったから、そっちに知らせが行って事なきを得たらしいわ。
この親子の攻防戦での一番の被害者は、ジェブのお母さん。
二十年越しな固い絆の夫婦の間に、無理やり捩じ込まれちゃった可哀想な人。
「じい様とばあ様が生きてたら、怒鳴り込みに行きたいよ」
「っていう事は、墓には怒鳴って来たんだな?」
ジェブはコクンと頷いたわ。
「うん」
お墓に怒鳴り散らすジェブ……凄い光景ね。
他に人がいなかったらいいけど。
何故に今頃過去話。
しかも勇者や魔王に関係なしwww