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3.麗しの君

今回は別視点

おお

勇者カルバン・クライン

無敵の英雄

魔王ガンドルを打ち倒し

我らに平和をもたらせり



 

宮廷楽士が市井で流行っている唄だと披露してくれた流行り歌は、彼の気分をどん底に突き落としてしまった。


 宛がわれた部屋の窓辺に立ち、紗の緞帳を僅かに開けて眼下に広がるオルブランの街を見る横顔。


 愁いを帯びた端正な眉目が、陰を得てより一層美しさを際立たせて目が離せない。


 ほう……とため息が聞こえて、一瞬自分が漏らしたのかとはっとしたが、それはすぐ後ろに控えた侍女が堪え切れずに漏らしたものだった。


 その事にほっとする。内心を表に出さず、まだまだ表面的には冷静に対処できてはいるのだろうから。


 それにしても、この二年。偶に極秘の訪問を受けて顔馴染みとなっていても、彼の美しさは見飽きるものではないと思う。


 女として嫉妬すら感じるほどに肌理の細かい白い肌。決して(たおやか)や女々しさを感じさせはしないのに、透明感すらある肌と色合いの良い唇。整いすっきりと通った鼻筋は涼しげな目元をさらに強調する。


 そして何といっても、精巧な金細工の様な豪華な金髪と、日差しを浴びる湖を思わせる澄んだ碧い瞳。どんな女でも、その瞳に映りたいと望むだろう。


 上背のある細くしなやかな姿は、少しの動作でも鋼のように鍛えられていると判る引き締まりを見せて、女心を惹き付けるのだ。


 ただこうして窓辺に佇むだけで、一幅の絵画を髣髴とさせてしまう。


 自分もため息をつきかけて、慌てて飲み込む。自分は、それをして良い立場にはいないのだから。


「カルバン様。お茶の用意ができましてよ」


 殊更さり気無く、すらりとした背中に呼びかければ、はっきり判るほどに肩が揺れる。


 いけませんわよ、そんな態度をなさっては。


「姫。貴女と二人でお茶の一時を過ごしたいと望むのは、出過ぎた望みでしょうか?」


 人払いをして欲しいのだろう。


 彼の立場ではしょうがない。


「まぁ。でしたら、庭の東屋でお茶にいたしましょう」


 未婚の男女が密室で二人だけになることはできないから、遠目でも人目が有る場所の方が良い。それぐらいの教養と分別は当然彼も持っている。お互い、そういう立場なのだから。


「今ならば、シャルトンの花が盛りでしょうね」


 軽く苦笑した彼の心に、私達が初めて言葉を交わした東の孤島の野原が甦っているのに違いない。


 あの野にも、シャルトンの花が咲き乱れていたから。


謎めくお姫様

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