28.親孝行したい時には親はなし
帰ってたか、アリィ。
「よ、起きたか? おはよう」
お前がテンテキに眠り薬なんか入れるから、親父とお袋とエルと師匠達に殴られる夢見た。何をやっとんじゃボケってよ。五人がかりだぜ、ひっでぇ夢。
「ああ、そりゃマジもんだ。ゆんべはあの世に行った人らと話ができるように、俺のばぁちゃんが取り計らってくれたからな」
エルは死んでないだろ?
「親なら兄弟並べて逢いたいだろうが。夢を繋げたんだよ」
へ~そういう事もできるのか。
だから師匠達、殴って説教したらすぐにどっか行っちまったんだな。
家族のとこに行ったのか……しまった。判ってたら、もっとまじめに話聞けたのにな。
「俺も城に行く途中でティルクに遇えて、伝言もらったのさ」
エルの奴、俺を殴るわ親父やお袋にしがみつくわ。マジ泣きで参ったぜ。
「心配ばっかりかけてるからだよ」
まぁなぁ……
「昨夜はカルバン・クラインの説明したら、トパをぶん殴ってたしな」
トパの野郎、ワザと殴られたんだろうな。あのお人好し……って。まてよ。レニも聞いたのか?
「ああ、『女神の食卓亭』全員に話したぜ。『あれ』の事もな」
「馬鹿や……! いででで……」
「喋るなって、傷が開いたらどうするんだよ。肋骨もな、骨折は唯でさえ息するから治りがおせぇんだ。二ケ月は痛むから覚悟しろよ」
肋骨くらい何本も折ってらぁ! くっそ……いてぇ。
「お前は怒るけどよ。実際俺が駆けつけた時に、トパが刺されて魔方陣まで出てきてたんだぜ」
やっぱりか。
「ああ、お前の勘は確かだったよ。魔王に唆された馬鹿貴族が、死人を生き返らせるってな詐欺に引っ掛かってたぜ。マイウがどうしたって騒いでたから、ありゃ話しに聞いた、マイウさんのストーカーの変態だな」
あのおっさんかよ。すげぇ執念だな。
昔っからマイウおばさんの回りをうろちょろしゃがって、気味の悪りぃ。
ガキの頃、マリンを自分の娘だとか騒いで拐いかけたんだぜ、あの変態。
だからガストン師匠が、マリンに棒術教える事にしたんだ。
身を守れるようにな。
「ふぅん。パラノイアによくいるタイプだよ。あっぶねぇなぁ」
今度俺の仲間に何かしやがったら、叩っ切ってやる。
「北の塔とかに押し込めだとさ。もう何もできないんじゃないか?」
だといいけどな。
「ま、そんな訳で。そろそろレイニーちゃんもヤバいだろ? だからカルバン・クラインのカラクリと東の島の呪いの話をしてきたのさ。もうティルクを貼り付かせてあるから、異常があったらすぐわかるし、ちゃんと守れる」
じゃあ、仕方ねぇな。
けど、ティルク。当てになるのか?
「大丈夫大丈夫」
ほんとかよ。
それにしてもお前、楽しそうだなぁ。
「何しろ久しぶりに、お姫の『乙女の敵』を聞いて来たからな」
うわ。
まだ言ってるのかよ? 三年近く前の話だろうが。
「お前、本当に女の怖さ知らないな? レイニーちゃんは奥手だけど良い子だもんなぁ。羨ましいぜ」
はん。レニが良い女なのは当たり前だ、お姫が執念深いんだよ。
「それ、お姫の目の前では死んでも言うなよ。じゃないと、レイニーちゃんに有ること無いこと吹き込まれかねないからな」
げ。
脅かすなよ。
「大真面目だよ。だいたいお姫だって、かなり良い女だろうが。初っぱなから喧嘩腰なのは、お前が悪い」
うるせぇ。それこそ仕方ねぇだろう、俺にあんなのの返事ができるかってんだ。
悪かったとは思ってるし、何度も謝ったじゃねぇかよ。
俺にはほら、アイツがいるから。
「ああ、そういえば。あの話聞いたレイニーちゃんが『また女避けに名前使った』っつ~てたぞ」
……なぬ?
「ものの見事に男扱いされてねぇんじゃ無いか?」
じゃかぁしい! 帰ったら、口説く!
「……本気で聞いてくれればいいな」
ぐ……はぁ。どうしてアイツはああなんだよ。
「幼馴染は難しいもんだよな。ま、とにかく体が治ってからだ」
そうだな。
「ティルクがいいもの持って来てくれたんだぜ。点滴に混ぜといてやるよ」
おいおい、変なものじゃないだろうな?
「手持ちの無くなってた、医療用ナノマシンだよ。これで二倍の速さで治る」
ほんとか?! じゃんじゃん入れてくれ。
「用量用法は正しく使いましょう。数増やしても意味は無いだろ」
とにかく。俺はこの監獄からとっとと出たいんだ。
「へぇへぇ。こっちもお前が居ないと人手不足だよ。お姫が肝心な時に役に立たない。って怒ってたぜ」
クラとリアが居たらなぁ……妊婦引っ張りだしちゃだめか。
「だなぁ。まあ、とにかく大人しく治せ」
ああ、判ったよ。
なんかすげぇ眠くなってきた。
「マシンの作働で入眠剤が出されたのさ」
そか……じゃあ、寝る。
「ああ、ゆっくり寝ろ。治るまでは任せろ」
頼んだぜ。相棒。
「おやすみ」