22.カルバン・クラインの秘密
本人居ぬ間に暴露大会。
おお
勇者カルバン・クライン
稀なる強者
光集めし金 ちょっと、頭の中でまで歌やめて!
考えなくちゃなんだから~!
って思ってたらエルトンが立ち上がってトパさんを殴り倒しちゃった!
「お前ら俺の兄貴を!」
まぁ、なんて見事な右直拳。
モロに顔に入って、トパさんが壁までぶっ飛んじゃった。でも、避けもしなかったわね、トパさん。
「お止めなさい!」
王女様が鋭い声で止めたわ。
「エル! そこまでだ!」
マリンピアがもっと殴ろうとするエルトンの腕を掴んで引っ張った。
「ど~して顔を殴るかなぁ!」
リンフェル、顔じゃなかったら良いの?
「マリ姉止めるな! 俺はこいつらが許せない!」
腕に取り付いたマリンピアを引き摺る勢いで、トパさんに迫るエルトンの前に、何とジェブが立って前からエルトンを押さえたわ。今まで見たことが無いくらい真剣な顔をしてる。こうして見るとけっこう伯爵様に似てるわね。
「エル。僕も、全て知っていた」
えぇ?
「カルバンから聞いていたんだ。後でいくらでも殴って良い。どうせマリンに殴られるんだ、一人増えても同じさ。だから、今はアリィ達の話を聞くんだ」
すごい、ジェブがまともな事言ってる。一部情け無いけど、聞かなかった事にしといてあげよう。
それにしても、カルバン。ジェブとまともに会話もしてたんだ。
「……兄貴。なんで俺には」
エルトンが肩を落として呟いたわ。理由は判るけどねぇ、私にも黙ってるってどうなの?
「お前たちに言ったら。余計に心配するだろうが。カルバンは大丈夫。そうだろう? アリィ」
大騒ぎの最中、平然とお茶入れて小鳥に飲ませていたアリィさんが頷く。
「ああ、カルバンには呪いは効かない。それどころか大抵の魔法もな。あいつはマジックキャンセラーなんだ」
なにそれ?
「まじっく? きゃんせ?」
むくっと起き上がったサニーがコキリと首を傾げたわ、今の騒動で起きちゃったのね。
「あ、ここの世界の言葉じゃないか。つまり、魔法を受け付けないというか、無効にするのさカルバンは。しかも十分の一の確率で弾き返すっていうおまけつき。魔法使いには怖~い相手さ。自分じゃ欠片も魔法なんて使えないくせに、どんな魔法攻撃にもへっちゃらで、火の壁さえ越えて殴りに来るんだ」
カルバンにそんな力があったなんてびっくりだわ。騎士は基本魔法くらい使えないと、って父さんに言われて散々練習したのに、まるっきりのからっきしだったんだもん。
「魔法の中でも、呪いってのは相手を確定したほうが効きがいい。名前や容姿そういう情報があるほど相手を特定できるだろ? 金髪碧眼の戦士でカルバン・クライン。俺達がやつらに渡す情報はこれに限定したんだ。そうやって送り込まれる呪いは、みぃんなカルバンが消すか弾き返した」
だから、全ての呪いをカルバンに集めたってわけね。
「俺の防御魔法まで無効にしやがるのには困ったけどな」
あはははって……アリィさん。
「役立たずの天使だったんだ」
ぼそっとサニーが言う。ぐっと詰まったアリィさん、苦笑するしか無いみたいね。
「痛いとこ突くねぇサニーちゃん」
「蹴らないだけ、まし」
あ、サニーも怒ってるんだ。
「悪かったよ、黙ってて。まあ、そんなんで、俺達はいわばチーム・カルバン・クラインってか、カルバン・クライン組ってのだったのさ」
なるほど。それで全員カルバンなのね。
「その組も、カルバンが魔王の首を切り飛ばして終了した……筈なんだけどな」
と、ため息? そういえば、組解散してるなら、何でトパさんはまだカルバンなの?
「続きがあった。か」
マリンピア。目が据わってるって。
「そゆこと。首を抱えて逃げたザコが居るんだ。魔王復活を狙ってな」
え~何でそんな迷惑な事を。
「気が付いたのは、魔法使いと格闘家が離脱してからだった。せっかく本来の自分に戻れた二人を呼び戻すのも気の毒だってんで、残った俺達で追いかけてたんだ。ちょこまかと逃げ足の速い奴でさ、おかげでオルブランに追い込むまで半年かかった」
追い込む? 今追い込んだって言ったわよね?
「まだ捕まえてないの?」
お願い、終わったって言って。無理だろうけど。
「奴の最終目的地はシアルを越えてアマルーティア。首都エルラドだ」
王女様に介抱されてたトパさんが、レースのハンケチで少し腫れてきた頬を押さえてる。わぁ……リンフェイじゃないけど、美形がもったいないなぁ。
でも、なんでアマルーティア? 今はほぼ荒野で、エルラドに至っては毒の沼になってるっていう噂だわ。
「魔物によって滅ぼされた国が、魔王復活に必要なのか?」
まだ怒った声でエルトンがトパさんを睨みつけてる。エルトン、トパさんだけが悪いわけじゃないじゃない。
「そうだ。エルラドは街と城、そこに住まうすべての人間が魔物に殺された上に、魔王が放った炎の玉によって、魔物諸共瞬時に死滅させられた。彼らの魂は天へ還ったが、死の瞬間の苦痛や怨恨呪詛そして絶望は流された血を腐敗させた上に毒と変え、近寄る生き物を殺し続けている。まさに呪われた地だ。魔王復活に最適の舞台だろう?」
生まれ育ったところがそんな場所に変えられるのって、想像できないよ。辛いだろうな。トパさんには帰る家が無いんだ。王子様なのに。
「魔王の首をそこに行かせない為に、オルブランに追い込んだ。カルバン・クラインが故郷に凱旋するっていう情報もワザと流してな」
もう、アリィさん出し惜しみし過ぎ。
「細切れにして教えるな。うっとおしい。カルバンは呪い除去担当で、魔王の首をたたっ切った。だが魔王はエルラドで復活させられるかも知れない。それで追いかけてオルブランに追い込んだ。ここまでは判った。じゃあ、なんでオルブランに『追い込んだ』? なんで王子はまだカルバンを続けるんだ? それと、あの変態子爵が魔王に『カルバンの血』を捧げようとしたのはなんでだ?」
マリンピア。口調が地に戻ってるよぉ。静か過ぎて忘れてたけど、王様居るし。
「オルブランについては、私がご説明いたしますわ。マリンピア様」
剣呑な空気を柔らか~くするみたいに、王女様がマリンピアに言う。綺麗だなぁやっぱりこの人。
「このオルブランは、結界の街だからですわ。そしてその結界を作っているのは、私です」
復興がんばってるわよ~なんて思ってたけど。なんだか知らないところで、いろんな事が起きてたみたいね。
フライング掲載読んじゃった人、これが確定版です。
驚かせてすみません。
誤字脱字、日本語じゃないもの、発見したら教えてください。こっそり直します