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20.俺たちは天使( の勇者)だ!‏

おお

勇者カルバン・クライン

稀なる強者

光集めし金の髪

その微笑みは闇拭い

瞳、碧き空を写したり



 天使さんはすっごく良い声で高らかに歌いながら、どっかからばかでかい草刈り鎌を取り出すと、消えた。


 ほへ?


「うぎゃゃあぁぁぎょえぁ!」


 消えた天使さんは、いつの間にか変態を大鎌とバルコニーの手摺の間に挟んでたの。素早いわ、さすが天使ね。


 あ~それにしても汚い悲鳴。


「ラッシャッテ オグネ スペランザ ウォイ チェントラーテ」


 何か呪文を唱えて、鎌を変態の首に掛かるように固定した天使さんがにやりと笑うわ。


「しばらくおとなしくしてな」


 変態は刃先を凝視したまま固まってる。あの鎌、刃先がちょんちょんでよく切れそうよね。


「大丈夫か? カルバン」


 え?


 ひ~ひ~言いながら固まってる変態はそのままにして、トパさんに駆け寄った天使さんまで、カルバンって呼ぶなんて。何で?


「ふぅん」


 長い燭台片手に仁王立ちのマリンピアが、天使さん見ながら目を細めてる。きっと、何かに気が付いたのね。


 でも私は頭悪いから、何が何やらさっぱり解んないわ。


 それにしてもあの天使さん、見たことあるんだけどなぁ?


「サーノー」


 厳かな声で呪文を言うと、トパさんの肩にかざした手が淡く光るの。


 あれが、天使の癒しなのね。


 ほど無くトパさんが立ち上がって、にっこり笑ったの。顔色も良くなって、さっきまで大怪我してたとは思えないくらいよ。


「傷は塞いだ。お姫も、もう気にすんな」


 トパさんの横で真っ青になっていた王女様の頭を、優しくポンポンって撫でてあげてるわ。金の目が柔らかでお兄ちゃんっぽくて優しい~


 あ、お兄ちゃんで思い出した、あの顔。


 羽がなくて、布巻いたみたいな衣装を普通な服にしたら、カルバンと一緒にお店に来ていた友達にそっくりだわ。


「もしかして、アリィさん?」


 思わず聞いちゃった。


 天使さん相手に失礼かしら? って思ったけど、何時ものように気さくに片手を上げてくれたの。


「よう。見違えたぜ三人とも、別嬪さんに磨きがかかってるじゃんか」


 ま~相変わらず口調がチャラいわ。


「アリィさんって天使だったのぉ?」


 リンフェルがぽやんと見惚れて聞くと、アリィさんは銀色に光ってる羽をバサバサさせてみせたわ。


「そ。黙っててごめんな。」


 普通、天使でございって宣伝はしないと思うわ。


「気にしてないさ。だいたいもし先に聞いたとしても、冗談だと思うだけだ」


 そうそう、マリンピアの言う通り。


「天使騙る奴には、ロクなのいないもんな」


 ケラケラ笑いながら頭を掻いてたアリィさんは、バルコニーの掃き出し窓に向かって、ゆっくり腰を折ったの。


 右手を胸に当てて、左手は背中に。右足を引いて軽く後ろで左足と交差させるっていう、あんまり見たこと無いけどかなり優雅なお辞儀なのね。


 ついでに右の羽で体を包み、左の羽は後ろに伸ばして広げる、なんて芸当まで見せてて綺麗なの。


 なんでかな? って窓を見たら、そこには王様が立ってたわ。なるほど。


「ユアハイネス」


「そなたが勇者を見出だした天使か?」


「その通り。でも、そろそろ羽根しまって良いすか? あっちの連中が戻ってきたら煩そうだから」


 アリィさん、恭し態度はポイッと捨てて、何時も通りの気安い口で後ろを示すの。さっきの異変に、泡食ったお貴族様達が帰ってくるのが見えるわ。


「その方が良いだろうな。許す」


 天使に許すってのもどうなのかな?


 なんて首を傾げてる間に、銀色の羽根はするすると背中に収納されていくじゃない。


 あの羽根伸び縮みするわけ? 骨は硬くないの? どうやってあの背中に入るの? 今度いっぺん背中がどうなってるのか見せて貰おうかな?


 私があれこれ考えているうちに、羽根は収納完了。ついでに服も、トパさんみたいな白い騎士服に変わってるわ。天使って便利ねぇ。


「んで、こいつどうする? あんたらとしちゃあ、ザコ過ぎて詰まんないだろうけどな」


 カツンと踵鳴らして向きを変えれば、その先にはすっかり大人しくなった変態。


「とりあえず、北の監獄棟に幽閉だ」


 忌々しそうに王様が言うと、アリィさんはニカっと笑ったわ。


「ま、それしかねぇか。な?」


 最後に話を振られたトパさんも、ゆっくり頷く。なんかさぁ。美形が二人も並んでて、やたら絵になるんですけど。


「はぁ……目の保養ねぇ」


 ほんとにそうね、リンフェル。


 あら? 伯爵様の指示で駆けつけてきた衛兵さんが、変態を連行しようとして、大鎌に困ってる。


「アリィさん、鎌で困ってるみたいですけど」


 私が言うと、アリィさんあははと笑って、指をパチンと鳴らしたわ。それだけで鎌が消えちゃうんだから、天使っていい加減よね。


「クーヴルール子爵。追って沙汰する、魔王などに魂を売った愚か者が」


 引っ立てられた変態に、王様が重々しくそう仰ったわ。律儀よねえ。


「王こそ何故わかりませぬ! 魔王は失った者を返してくれるのですぞ!」


 変態が懲りずに叫んだんだけど、それにはアリィさんが肩を竦めたわ。


「あ~それはもう100%無い。なんでかっていうと、俺が、この俺様が、王妃さんもマイウさんもその他魔王に殺された人間の魂を引率して、しっかり天国に連れてったからな。今頃は浄化転生までの保養期間で、エデンってところでのんびり過ごしてるぜ。魔王なんぞが取り戻せるはずが無い」


 変態のおじさん。口をパクパクさせててなんだか可哀想になってきちゃったわ。


 でもそうか。父さんも母さんも隣のおじさんも、リンフェイのおばさんも、みんな天国に行ってるんだ。


 消息が聞けて嬉しいって、こういう事でもあるのね。


 がっくり肩を落として、衛兵に連行される変態おじさんを、戻ってきた他のお貴族様が不思議そうに見ていたわ。


「皆、今宵は楽しい宴であった。これで閉会とする」


 王様の宣言で夜会はお終いみたい。


 なんだか、物凄い勢いでうやむやにした感じね。


アリィの反即技? いえいえ、17で説明済み

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