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19/42

19.変態はいけないと思います‏

|_・)今回ちょっと痛いです。

苦手な人は気をつけて。

おお

勇者カルバン・クライン

輝く戦士

全てを貫く弓を射て

全てを切り裂く剣を以て

白き翼を広げたり



 楽士さんじゃない。


 音痴って訳じゃないけどたいして上手くない歌が広間に流れて、バルコニーに居た私達全員がいや~んな顔になっちゃった。


 クリの木を囲んで大騒ぎしているお貴族様達とか、傍若無人な連中を一生懸命止めてる騎士さん達には、きっと自分たちの声しか聞こえちゃいないだろうけどね。


 だから、被害に遭ったのは私達『女神の食卓亭』一同と、ジェブと伯爵様と王様と王女様にトパさんに、近所で警護してる騎士さんと衛兵さん。


 あとは演奏している楽士さん達か。


 これだけの人間を一斉にいや~んにしちゃう威力だから、酷さ加減が判るわよね?


 べしゃべしゃした歌いかたで声には艶も伸びも無いし、部分的に音程外してるし、挙げ句に高音は掠れる低音は潰れる。声が出ないなら歌うなってのよ。


 各地から芸人が集まるオルブランは芸能も盛んなの、だからオルブランっ子は耳が肥えてるんだからね。


 ああ、耐えたくない。


「ジェブ。変わりに歌ってきて」


 両手で耳を押さえて、サニーが下僕に命令したけど、ジェブは慌て首を振ったわ。


「いや、この場合は父上の方が適任じゃないか?」


 玄人裸足で昨日もしっかり広場で一稼ぎしてた伯爵様なら、間違いなく勝てる。それどころか、逆に楽士さんの歌担当の人が気の毒だわ。


「と……取り敢えず、やめてもらってこようよ」


 穏便派のエルトンが提案した時、歌が止んだの。


 みんながほっとしたら、拍手が一人分パチパチ鳴り出したじゃない。


 どこの耳痴よ、あんなのに拍手送れる奴は。多分、バルコニーに居た私達の心は一つだった筈よ。


 そして広間から拍手しながら出てきた人に、やっぱりみんなきっと思ったわ。


『お前かよ』って。


 そう。一人でパチパチしている痛い人は、例の変態おじさんだったのよ。


「いやぁ、脱帽脱帽。思わず私の歌で讃えたくなりますねえ」


 あんなの聴かされないといけないなんて、どんな拷問? ひょっとして罰? そこまで嫌い?


「最高の英雄には最高の歌でないといけませんですからな」


 耳がおかしいのか、頭がおかしいのか……後者よね。


「我が歌は、今は亡き最愛の婚約者も聞きたいと強請る程でしてな。やはり敬意を表するにはご披露する他はありますまい。いや、惚気てしまいましたな、お恥ずかしい」


 ああ、マイウおばさんがよく店の前で変質者が歌って営業妨害するって、警邏の衛兵さん呼んでたっけ。


「なるほど勇者殿。貴方はすばらしい。王女様、もう認めるしかありませんなぁ」


 さりげな~く、認めてなかったのが王女様だったみたいな言い方ね。責任転嫁してんじゃないわよ。


「まあ、子爵もやっとお認めになられるのですね」


 さすが王女様。かっちり打ち返したわ。


「いやいや、私は彼はする方だと思っておりましたよ」


 あ~馬鹿らしい。こんなの相手にするのは人生の無駄よ。迫りモードのジェブと同じで無視に限るわ。


 頭から騒音を追い出してみんなを見たら、おんなじ気持ちらしいわね。


 王様は伯爵を促して、さっさと広間に入って行ったわ。エルトンは黙って伯爵様の後ろを歩き出したし、サニーはジェブへ手を突き出してエスコートを無言で指示。


 私はマリンピアたちに頷いたわ。


「私たちも行こう」


「そうね、楽士さんに別の歌を頼んで耳直ししましょ」


「リンフェイの言う通だな」


 王女様とトパさんには悪いけど、もうあのおじさんの声聞いていたくないのよ。


 でもやっぱり、王女様も同じ気持ちだったみたい。


「レイニー様、マリンピア嬢。ご一緒いたしません? パーディタ伯爵のお歌が聞きたいと、陛下が駄々を捏ねられる筈ですから」


 つ……強い! 言外に『耳直しをするわ』って言ってるのが判る!


 変態さんが顔色を変えて、トパさんがちょっと苦笑してる。でももっと強いのはマリンピアね、盛大に噴出してみせちゃった。


「それは有り難い。英雄殿、姫のエスコートはお任せいたします」


 にっこり笑って、優雅に礼なんてすると、口調はいつもの通りなのに伯爵令嬢らしくなるからたいしたものね。


 マイウおばさん、作法はきっちり教えてくれたもんね~私も便乗して教えてもらえたから、こういう所にも来れるのよ。感謝してるわ。


「では、参りましょう?」


 ちょっとフルフルしている変態おじさんは完全無視で、トパさんが王女様をエスコートして歩き出す……絵になる二人ねぇ。


「……まだ、私は英雄殿に送るものがあるのですがねぇ……」


 ん? なんだか嫌な感じ。ついでにザクって音しなかった?


「ぐ……」


 へんな声に振り向いたら、トパさんが右肩押さえて体を折ってるのが見えたわ。そして悲鳴を上げそうなびっくりしている王女様の顔と、二人の後ろでニタ~っと笑ってる変態。


「……貴様」


 トパさんが腰に佩いた剣を抜こうとするよりも、マリンピアが近所にあった燭台を引っ掴んで変態に躍りかかるのが早かったと思う。私も慌てて花瓶持って追いかけたわ。投げたらきっと痛いわよ、金属製だもん。


「これだこれだ!」


 変態は、なんと身軽にマリンピアの攻撃を躱してバルコニーの真ん中へ逃げながら、血塗れの短剣を振り回してる。


「これでマイウは帰ってくるぞ! 私の元へ!!」


 正気じゃないとは思っていたけど、ここまで変だったの?


 目は虚ろで口は笑いながら顔は引きつってて、もう気持ち悪いの。


 そして変態は、夜空に向かってとんでもない事を叫んだわ。


「魔王様! カルバンの血をお渡しします! どうぞ私にマイウと力を!!」


 叫ぶのと同時に、短剣が頭上高く放り投げられたの。そうしたら、庭園の上に大きな発光する魔方陣が浮かび上がったじゃない! なにあれ!?


「駄目だ! あれを渡すな!!」


 トパさんが叫んでいるけど、短剣はどんどん高く飛んで、魔方陣にまるで逆向きに落ちていくように吸い込まれ……る寸前で止まった?


「な……!」


 変態が空中で停止したままの短剣に驚いて、トパさんはほっとしたように微笑んだの。


「……来てくれたんだな」


 短剣に向かって、そんな事を呟いてる。


「魔王様! どうぞお受け取りください!」


 もう一回変態が叫ぶけど、これには返事がきたわ。


「渡す訳ね~だろ、バ~カ」


 あれ? どっかで聞いた声。


 短剣が融けるように消えて、代わりに別の大きなものが見えてきたわ。


 大きいのは月明かりを弾いて銀色に輝く翼。


 ゆったりと羽根が動く度に、魔方陣が消えて行くの。


 そして夜空に現れたのは、銀の翼を大きく広げた、黒い髪の天使だったのよ。


 うわ~綺麗。


やっと登場です。


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