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16.讃えよ英雄

おお

勇者カルバン・クライン

輝く戦士

全てを貫く弓を射て

全てを切り裂く剣を以て

白き翼を広げたり



 広間は楽士の奏でる英雄の歌で満たされている。


 私とレイニー・ブルースが縫い止められたイヤリングを外して木から離れれば、会場からたくさんの人が溢れだし、英雄の腕前をこの目で見ようと押し掛けてくる。


 そんな集団とは別に、いち速く駆け寄ってきた一団が、レイニー・ブルースを取り囲んだ。


 小柄な少女と先程会場でレイニー・ブルースから引き剥がした少年が彼女に抱き付き、回りを二人の女性とパーディタ家の子息が取り巻く。


 皆青ざめたまま、彼女の無事を確かめているというのに、当の本人はけろりと笑っているのだから不思議なものだ。


 先程もそうだった。弓が射られる前まではあんなに怯えていたというのに、いざ射手が用意に入ると見たら、いきなり落ち着いてしまった。まるで当たり前の事でもするかのように。


 むしろ私の心音が聴かれるのではないかと危惧した位だ。


 さすがは真のカルバン・クラインが師の娘と言うべきか。


 ひとしきり無事を喜んだ彼らは、やがてふざけてレイニー・ブルースに抱き付こうとしたパーディタ家の子息とじゃれあいを始めた。


 皆が笑い、危険に巻き込んだ私へ、抗議の視線すら向けはしない。多分彼女が咎めないからだろう。強い女性だと思う。


 庭園を照す熱を持たない光玉に目を転じれば、懐かしい光景が脳裏に甦る。


 石化を解かれてから国に帰って来るまでの半年間、私にも仲間が居た。


 森で迷い、焚き火を囲み、ふざけ合い笑い合い。戦えぬ自分を悔しく思った日々。


 深い洞窟を、たったひとつの光玉を頼りに進む時に差し出された手……


 その手を思わせる、貴族的な長い指の手が、いつの間にか俯いた目の前に差し出された。


 はっとして顔を上げれば、銀に変わった髪を持つ初老の紳士が微笑んでいる。


「パーディタ伯爵」


「エスコートをさせて頂けますか? 姫」


 自慢のお髭はすっかり白くなってしまわれたけれど、悪戯を含んだ茶色の目は、幼い頃に抱き上げてくれた時と変わらない。


 懐かしさを覚えて、その手に自分の手を乗せた。


「光栄ですわ」


 導かれるままに歩きながら、幼い時から知っている冗談好きな貴族を見上げる。


 彼は父王の学友であり、幼馴染なのだという。近衛の長として常に父の傍に控え、守り支え、時にはその洒脱な気質で笑わせ、重荷を軽くしてくれるのだと、父王から聞いた。


 市井の事にも通じ、政務の助けにもなってくれる側近でもある。私も珍しい街の話を、胸躍らせて聞いたものだった。


 小さい頃、私はこの方を『私の緑の騎士』と呼んでいた。


 その豊かな緑の髪が、白くなってしまわれたのは三年前。


 私の誘拐、そして最愛の方と我が母、王妃の死。


 魔王の軍団からオルブランを守りきれなかった苦悩で、彼の髪もお髭も白くなってしまったと聞く。


 近衛騎士団を統べる将として、どれほどの辛さだったのだろう。


「……貴方の御親友のお嬢様を、危険な目にあわせてしまい、お詫びいたしますわ」


 思わず詫びが口を衝く。


 高名な傭兵ガストン・ブルースは、かつて伯爵と肩を並べて戦った戦友。その人もまた、三年前魔王の犠牲となった。


 それは全て、私を攫う為。


 私の罪悪感を察したのだろう、伯爵ははて? と首を傾げてみせる。


「レニーは別に怖がってはおらぬようですが。あれは父親より肝が据わっておりましてな、カルバンのナイフ投げの的に自分からなっては笑っている娘です」


 あの方のナイフの冴えは、レイニー・ブルースの協力あってこそだったのかと納得する。彼ならばレイニー・ブルースの白い肌に、毛の一筋ほどの傷も付けたくはないだろうから。


「本当に、強い方です……彼女ならば、耐え切れましょうか?」


 庭園の終わり、バルコニーへの階段を登る。


 軽やかに石段を踏み、伯爵は頷いた。


「はい、真実も受け止め切れましょう」


「……濃い霧の中で、光を見た気がします」


 他にどのような言葉があるだろう。私も覚悟を決めばならない。


 階上には、弓を剣に持ち替えた英雄が立っていた。


 伯爵の手を離し彼の前に歩み寄れば、流れるが如き優雅さで、彼は片膝を着き最上の礼を執る。


「勇敢なる姫君に、生涯の忠誠を」


 意外な言葉と共に、抜き身の剣が私に柄を向けて差し出された。


 騎士の宣誓。


 この私に?


 思わず伯爵を振り返れば、何時の間にか父王も並んで微笑んでいらっしゃる。そしてゆっくり頷いて下さった。


 震える指先を、深く息をする事で押さえつけ、しっかりと剣の柄を受け取る。


 ずっしりと重い剣は、今は亡き隣国アマルーティア王国の宝剣エイローズ。


 この剣に篭められている希望と使命を知っている。これを持つ責任の重さも知っている。


 彼が、自分に向けてくれる信頼が嬉しい。


 両手で持った剣の平で、傅く彼の両肩を叩く。


「貴方の忠誠を受け入れます。私がその忠誠に常に相応しくある様勤めましょう」


「貴女の信頼に、必ずやお応え出来るよう励みます」


 儀式を終え、剣を返す。


 鞘に収めつつ見上げる碧い瞳に微笑んだ。


「貴方はこれより、私の騎士です」


 ああ。


 名が呼べないとは、なんと辛い事か。


ジェブとマリンピアのパパとレイニーパパの意外な関係ww

姫様、実は自分の名前こそ、ひとっことも出ていないっての知ってるかい?( *´ー`)

彼女は勇者系RPG初期ゲストNPCだった模様ww

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