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15.魔法の林檎

おお

勇者カルバン・クライン

輝く戦士

全てを貫く弓を射て

全てを切り裂く剣を以て

白き翼を広げたり




 だからね、楽士さん。


 そこまで朗々と歌い上げなくたっていいってば。


 只でさえ衆目の的なんだから。


 的。


 そう! 的なのよ、今の私!


 王女様がに~っこり笑って『覚悟はよろしくて?』なんて言ってくれちゃったから、あれよあれよという間に庭園へ引き摺られ、大きなクリの木の下に居たりします。


 覚悟なんて無いです。助けてください。って言いたかったよ。でも予想外の事態になると、とんと回らない私の頭と口。


 昔から、レニーは大人しいわね、って言われるけど、全然そんなこと無いの。頭の中では慌てたり罵倒したり文句言ったりいっぱい考えてるの、でも口から出ないの、言葉にならないのぉ!


 おかげで木の幹を背にして突っ立ってます。


 少し離れた所には、近衛騎士の人達が検分役でいらっしゃたりします。逃げないように私の見張りもかねてるのかも。


 木の回り、ついでに庭園から会場まで魔法の光玉五つづつ放り込んだ篝で煌々と照らされてて、まるでお祭りみたいに明るいわ。


 さすがお城、贅沢よね。


 お抱え魔法使いが幾らでも作ってくれるんだろうなぁ。家なんて魔法具のお店でやっと七つ買って細々と使ってるってのに。


 いいなぁ、羨ましいなぁ…


 おっとっと、また横にそれちゃった。現状現状。


 私の隣には、宣言通り王女様。


 エルトンは途中でペリッと引き剥がされちゃって、今は庭園の向こう側でみんなと並んで……ないわね。こっちに来ようとじたばたしてるのを、伯爵様とジェブが必死に押さえてるわ。


 マリンピアとリンフェイとサニーが心配そうに私を見てる、それ以外は好奇心も(あらわ)にワクワクしてるのがはっきり判るわ。


 はぁ……


 ため息吐きたいのを呑み込んで、隣の王女様を見たら、バッチリ目があっちゃった。


「如何なさいまして?」


 いかがって言うか、どうして、って言うか。


「なぜ、私達。的なんでしょう?」


 とっても不思議なんですけど。


「まぁ、ほほほほ」


 素朴な疑問だったんだけど、王女様ってばころころ笑い出しちゃった。


 なんか、変な事言った?


「あの?」


 疑問いっぱいで首を傾げる。王女様ってば余計笑いながら私の真似して首を傾げるんだよ! それがすんごい可愛かった!


「貴女、子爵はお嫌いなのでしょうね」


 はい、変態は嫌いです。


「あの人気持ち悪いです」


 王女様の仕草に、ちょっとどきどき。


「その子爵の要求でしたのよ? うら若き貴婦人に傷をつけずに的を射てみよ、さすれば勇者と認め『てもいい』ですって」


 なにそれ。


「なんだか物凄く狡っからいですね」


 あの変態らしいけど、『てもいい』って事はしたくなかったら認めないって言ってる訳だもんね、やっぱりやな奴ね~


「ですから、(わたくし)が提案いたしましたの。貴女と私、二人が的になれば絶対に認めますね? と」


 貴女の度胸を少しください。


「それで、こちらに?」


「そうですわ。私が問い詰めましたら、しぶしぶ承知しましたわ。でも、ああいう輩は絶対に自分の言い分しか認めませんけど」


 だわよねえ。マイウおばさんから『おとといきやがれこの変態!』ってお店から蹴りだされても、『自分に恋焦がれるあまりの照れ隠し』って言い張る変態だものねぇ……


「心配には及びませんわ。だからこそこの大騒ぎですのよ。これだけ衆人環視の前で実力を披露されれば、子爵が何を言おうと、もう羽虫程にも気にされませんわ」


 なるほど、それで私たちは的なのね。


 納得してると、また王女様が笑い出したの。


 笑う王女様って可愛いのよねぇ……藍色の髪がふんわり結い上げられてて、後れ毛がくるくる巻き毛で線の細い顎を飾ってるから、笑うとそれがゆらゆら揺れるわ。


 紫の豪華なドレスと同じ色の瞳が、普通にしている時のキリッとしたのから柔らかなものに変わって、思わず見入っちゃう。


 ぼーっと見てたら、また目が合っちゃった。


「ですから、これだけのやり取りを真横でしていたというのに、まったく耳に入ってらっしゃらなかったご様子なので、子爵の声すら聞いて居たくない程お嫌いなのかと思いましたの」


 あちゃ! な……なるほどそこに繋がりますか。


 仰るとおり耳に蓋でした。


 あう、恥ずかしいよう。


「さ、この林檎をお付けになってくださいませ」


 恥じ入る私に頓着せずに、王女様がなんか差し出してきたわ。


 それは、妙におっきな輪っかのイヤリング。輪っかは林檎の形をしているわ。


「これ、何ですか?」


 言われるまま、付けてたイヤリングと取り替えたんだけど、耳の両脇に張り出すみたいな変な付け具合なの。


「それが的でしてよ。その輪の中を、矢が通って幹に当たる算段ですの」


 な・ん・だ・す・と?


「い……いや! は、外させて!」


 とっさに取ろうとしたけど。王女様にしっかり握られちゃった! うわぁん!


「ご心配には及びませんことよ。そのイヤリングを付けている限り、矢は私達には当たりません。輪の中から少しでも逸れれば、魔法が弾いてくれますの」


 ほ……ほんとう?


「大丈夫ですわ。私を信じてくださいませ。それに、弓を撃つのはカルバン・クラインですもの」


「でもあの人」


 あ、思わず声が出た。


 でも王女様、やっぱりにっこり頷いた。


「それもわかっておりましてよ。私は東の孤島で貴女の幼馴染にも会っているのですから」


 えええ?


「じゃあ、なんで?」


 偽者をカルバンにしたままなの?


 聞きたかったけど、『用意!』っていう騎士さんの声がして、幹を背に直立しないといけなくなっちゃった。


 う。


 正面は私がさっきいたバルコニー。そこにトパさんが弓を構えて立ってるの。


 体をこっちと水平にした基本形。押し手は真っ直ぐ弓を持ち、二本の矢をつがえた弦をきりきりと引き絞ってる!


 厳しい視線が、こんなに離れてても見えてきそうなくらいに気迫が膨れ上がってるのを感じるわ。


 できる。


 あの人間違いなくできるわ。


 そう思ったら、怖いのがすとんと消えた。まるでカルバンのナイフ投げの的で板の前で立ってる時みたいな感じ。


 カルバンは私に絶対当てない。それが判ってるから、ちっとも怖くなかった。


 それと同じ。


 トパさんが弦を離す。


 顔の両脇に軽い風を感じて、幹に何かが突き刺さる音が後ろでした。


 いつの間にかトパさんが第二の矢をつがえて、放つ。


 今度は王女様の方で音がした。


 目を横に流すと、顔の両横に突き立ってる二本の矢。


 思わずため息を吐いたのと、向こう側でものすごい歓声があがったのが同時だったわ。


 はぁ、やれやれ。

 

参考文献アーチェリーの基礎講座

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