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13.月は観ていた!‏

おお

勇者カルバン・クライン

輝く戦士

全てを貫く弓を射て

全てを切り裂く剣を以て

白き翼を広げたり



 外は満月風は爽やか。


 遠くで誰かが歌ってる。


 半分抱えられてなかったら、人いきれから解放されて、ほっとため息の一つでも吐きたいところなんだけど。


「そろそろ離して」


 ほっそりしてる割にはやたら力のある腕に抱えられてて、私の足なんて半分浮いてるのよね。


「失礼しました」


 お詫びと一緒にバルコニーの真ん中でそっと下ろされ……ダッシュで端っこに逃げ出したわよ!


「こんなとこに連れてきて、なんのつもりよ!」


 バルコニーは両脇が階段になってて、庭園に降りられるようになってるの。だから万一、また捕まりそうになっても逃げ道があるわけね。


 でも偽物カルバンは、追いかけてくる気はないみたいで、バルコニーの真ん中で肩を竦めてるだけだけど。


「そんなに怖がらすつもりはなかったのですが……僕はカルバンは貴女の所に居ると思っていたんです」


 え?


「帰って来てないわ」


 だからあんたがなんで偽物してるのかとっちめにきたのよ。


「カルバンは、帰ってるんです。少なくとも街の城塞の門は、一緒に潜ったのですから」


 真剣な顔で弁解(?)をする偽物さん。……トパさんって言った方が良いかしら?


「彼は王城の堅苦しさを嫌うから、舞踏会に乗じて貴女を呼べば、伝言を渡して貰えると考えたのです」


 まあ、確かにあいつは礼儀作法が死ぬほど苦手なのよね。ガラ悪いったらありゃしない。


 それにしてもこの人の言う通りなら、カルバンは間違いなくオルブランに帰って来てるのに、行方不明ってこと?


「あんたの言う事が本当だって、誰が証明するんだよ」


 静かな声がして、エルトンが来てくれたの。


 初めて見るような険しい顔でトパさんを睨み付けながら、私の横に歩いて来たわ。


 トパさんは困った顔でため息を吐いた。


「君は彼の弟君だね?」


 苦悩する美形って、一見の価値はあるわね。リンフェイが居たら間違いなくうっとり見惚れそう。


「証明はでき無いね。僕達の天使はもう天に還っただろうし、他の仲間とは魔王の城の前で別れた。彼女は他に使命があるから、カルバン・クラインとは袂を別つたんだ」


 うわぁ、さっぱり判んないわ。


 お願い、もっと詳しく教えて。ってな私の心の声は関係なく、目の前で話は進む。マリンピアみたいに、口が達者に生まれたかった。


「じゃあ、あんたが兄貴を嵌めて成り代わったんじゃないなんて話、信じられないぜ」


 エルトンの言い分も判るけど、追及へいちいち傷付いた顔をしているトパさんが、名声目当てだけの偽物って気がどんどんしなくなってきてるのよね。


「そうだね……一人だけ心当たりはあるが、今は無理だ。もし君の兄上が言っていたように君が賢い少年なら、もう少しだけ待ってくれないか?」


「少しって?」


 あ、エルトン苛ついてる。


「この舞踏会が終わる迄。別室を用意させよう」


 そう言いながら、やたらと視線が庭園に行くなぁ、って思ってたら、向こう側の階段の下から拍手がしたの。


 びっくりしたぁ。


 思わずエルトンにしがみついちゃった。


「誰だ!」


 エルトンが鋭く誰何したら、拍手は止まってゆっくり階段を登ってくる足音になったわ。


「覗き見とは、良い御趣味ですな、クーヴルール卿」


 トパさんが、冷たい声で振り向いた。この人、あんな声も出せるんだなぁ。でも、それも上がって来た人の顔で納得しちゃった。


 すっごくいや~んな顔してるんだもん。


 どんな顔かって? それはね。


 スケベ親父と嫌味親父を、足して掻き混ぜ合わせたような顔なのよ。判るでしょ?


 でも、どっかで見た気がするわ。


「さすがは英雄殿、お盛んですな。確かに美しいお嬢さんだ」


 顔と一緒に声までネバついてる。きもちわる……って、思い出した!


「マイウおばさんに付きまとってた変態」


「え? あの変なおっさん?」


 居たのよ、四六時中お店の近くをうろついていた気味の悪い人。おばさんも迷惑してて、一度なんて家の父さんが町内から叩き出した事もある変態よ。


 そういえば放蕩貴族だとか聞いたっけ。


 私の指摘に、変態の人は顔を真っ赤にした。


「マイウは私の妻になる筈だったのだ!」


 そういう思い込みが現実を見ない言い訳なのよね。


 なるわけないでしょ、おばさんが。


「卿もご盛んなご様子で」


 くすってトパさんが笑って、変態さんがそっちを見たわ。


「うぉほん。まあ、還らぬ者の真意は心通わせた同士にしか判らぬものだ」


 つまりあんたには絶対わかんないって事よね。


「私はね。一つ貴殿に聞きたくてここに来たのですよ」


 あ、いやな目の光り方。


「カルバン・クラインは、本当に魔王が倒せたのか?」


 トパさんが目を細め、エルトンが顔に血を上らせる。ヤバイ。この子にはそれは禁句よ!


「倒したに決まってるじゃねぇか! この変態!!」


 ほらね。


「おお、威勢のよい坊やだ。だが、私は一度もそこな英雄の勇姿は見ておらんのでな。信じ難い」


 言い返そうとしたエルトンが、一瞬息を呑んだわ。この血の上り方だと、勢いで『こいつじゃない』ぐらい言いそうなんだけど。


 この子も大人になったのねぇ……トパさんを偽者とすっぱ抜くより、後で教えてくれるって事を聞こうっていう判断ができたのね。


 うん、良い子♪良い子♪


 エルトンの頭を撫ぜたくてうずうずしていたら、軽やかな音がして掃き出し窓が開いたわ。


 そして。 


「見せて差し上げれば宜しいではないですか、カルバン様」


 鈴を転がすような声で高らかに言い放ったのは、シアルの藍華。つまりこの国の王女様だったりしたの。


 なんだか大事になってきたわね。


( *´ー`)いやーんなストーカー

誤字脱字、日本語じゃないもの。指摘してもらえたらウレシイです。

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