急変
その後も一月蒼士と神野七莉は会話を交えながら食事を続けた。
そして食事が終わると、蒼士も手伝って洗い物と片付けを行った。
「今日はありがとう。またいつでも遊びに来てね」
「こちらこそ。僕でよければいつまでも友達でいてください」
蒼士と七莉はお互いにお礼を述べ、解散となった。
まだ名残惜しい気もしたが、蒼士は七莉家を後にして帰路に着いた。
***
夏休みも少し時間が経ち、8月となった。
空には雲ひとつなく太陽が輝く青空が眩しい。
そんなある日、蒼士と有本京子と高山秋斗は遊園地にいた。
夏休み前に約束した通り三人で遊園地に遊びに来ていた。
遊園地は名古屋駅から直通バスが出ており、高校生でも容易に訪れることができた。
「暑い……。いくら夏休みだからって混みすぎでしょ」
ジェットコースターの列に並びながら、秋斗は暑さでうなだれていた。
「あと10分くらいで乗れるから。ってかそんなに待ち時間ないんだから少しぐらい我慢して」
「京子はいいよな。ジェットコースター乗りたいんだから」
「うん! 私はこのジェットコースター乗りたかったんだ。誘ってくれてありがとう」
「どういたしまして。でも、この暑さは辛いよね」
「おお! わかってくれるか一月!」
列は順調に進んでいく。
三人はちょうど屋根のない場所まで進んだ。
「うお、ここ暑さやばいな」
「大丈夫。ほら、ちょっとずつ進んでるからあと少しだよ」
京子が先を指差すと、ジェットコースターの乗降場まで残りわずかだった。
「秋斗ってさジェットコースター苦手なんだよね」
「仕方ないだろ。あのなんとも言えないふわふわ感が、こう気持ち悪いというか」
「でも一月が誘ってくれたからってすごく楽しみにしてたんだよね」
「ちょい! それは言わないって約束じゃん」
秋斗は照れくさそうに慌てていた。
「喜んでくれて嬉しいよ。でも、もうちょっと涼しくなってからにすればよかったかな?」
「大丈夫だって。ジェットコースターの恐怖を暑さで誤魔化してるだけだから」
秋斗は二人から目を逸らして、何も言わずにジェットコースターの乗降場を見ていた。実際、京子の言う通りだった。京子は秋斗のことなら何でも手に取るようにわかるのだった。
「はーい! 次の方こちらへどうぞー!」
三人は係員に呼ばれ、ジェットコースターに乗り込んだ。
そして、数分のジェットコースターが終了した。
秋斗の顔面は少し青くなり、口から空気が抜けていた。京子は「もう一回乗りたい」と楽しげだった。蒼士は特に響いていないように静かだった。
「乗ってる最中も一月のリアクション薄かったけど、ジェットコースター平気なの?」
「僕が思ったほどのスリルじゃなかった。もっとスリルがあるのはないのかな」
「まじ? 一月ってそっち派なんだ。それに今のがここで一番すごいやつみたい」
「今度お父さんの友達に感想話して、新しいの作ってって言ってみようかな」
「なんか一月が言うと本当に一つくらいジェットコースター増えそうなんだけど」
「あはは、冗談だよ」
ジェットコースターが怖い秋斗は、二人のやりとりに呆れていた。
それからも三人は遊園地を楽しんだ。その後は遊園地内で昼食をとり午後もはやいうちに遊園地を出て、名古屋の栄に向かった。
京子の行きつけのハンドメイド雑貨専門店が目的地だ。新商品の発売日ということで、売り切れる前にどうしても行きたいということでプランに組み込まれていた。
そのお店は大通りから少し離れた路地裏にあった。お店に到着し、扉を開けるとすぐに新商品が目に飛び込んできた。
「あった! これが欲しかったんだよー」
京子は緑色のガラス細工が装飾されたイヤリングを手に取って眺めた。
そして、耳にあて陳列棚の上に置いてある鏡で雰囲気を確認した。
「どう? 似合ってる?」
京子は秋斗にそう聞いた。
「似合ってるんじゃない? 緑色っていうのがまたおしゃれだな」
「分かってるじゃん!」
蒼士は二人で仲良くアクセサリーを試している姿を見て穏やかな気持ちになった。そして、いつまでもこの二人が一緒にいられることを願った。
新商品を買うことを決めると、京子はさらに店内を一通り見ることにした。そこでまで広くないお店だが所狭しと陳列がされているため、見るのに時間はかかる。
「有本さんは雑貨が好きなの?」
十字架のシルバーアクセサリーを手に取り眺めながら蒼士は京子に尋ねた。
「そうだよ。特にハンドメイド系はね。将来はハンドメイド雑貨に携わる仕事がしたいと思ってるくらいには」
「へえ、そういうのなんだかいいね」
「一月はなんかしたいこととかあるの?」
「僕は……。あんまり真剣に考えたことがないかな」
蒼士は手に取っていたアクセサリーを棚に戻すと京子の方を向いた。
「でも、今の話を聞いてそろそろ真剣に考えた方がいいかもって思えてきた」
「そうだよー。決まったら教えてよ」
なぜ京子はこんなに前向きで優しいのだろうか。それなのになぜ、つい数ヶ月前までは自分をいじめていたのだろうか。蒼士はどちらが本当の京子なのか、ふと分からなくなった。
***
京子がアクセサリーを購入した後はすぐにお店を出た。夕方に差し掛かる頃でも相変わらずの暑さだったが、少し歩いたところで三人は異変気づいた。
「あれ? 路地裏っていっても人が俺たち以外いないし、やけに静かじゃない?」
秋斗が足を止めて前後左右を確認しながらそう言った。
蒼士と京子もあたりを見回す。
やはり、三人以外には誰もおらず、環境音ですら聞こえなかった。
「何これ、不気味なんだけど」
京子は怯えていた。
そして気がつくと、三人の前には不審な男が二人立っていた。
そのうちの一人は首にドクロのタトゥーを入れていた。




