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招待

 有本京子(ありもときょうこ)は山田リーコと話を終えるとファミレスを後にした。

 そして、ドーナツ店で休憩をしていた一月蒼士(ひとつきそうじ)高山秋斗(たかやまあきと)と合流をした。


「ごめんごめん。なかなかお腹の調子が治らなくて」


 京子は席に着く前に購入してきたドーナツを片手に二人に謝った。


「まあ全然大丈夫なんだけどさ、それ、食べて大丈夫?」


 秋斗は京子のドーナツを指差した。


「あっ……! これね、うん。お店来たら買ったほうがいいし、出したらお腹空いちゃって」

「出したらって……。食事中にやめような」


 蒼士と秋斗はとっくにドーナツを食べ終えていた。京子が来るまでお店に居座るために、注文したドリンクの溶けた氷の水まで飲んでいた。

 京子が食べ終わるのを待ち、三人はお店を後にした。地下鉄はまだ運転を再開していなかったのでしばらく時間を潰すのによさそうなボウリングをすることにした。


 ボウリング場に着くと、他にも自分たちと同じ境遇であろう高校生たちがたくさんいた。京子はその光景に安心感を覚え、三人でしばらくの間ボウリングを楽しんだ。


***


 家に帰った京子はそのままの勢いでご飯を食べ、お風呂を済ませ、自分の部屋に戻ると、ベッドに倒れ込んだ。


「ふぅー。疲れたー」


 少しゲームセンターに寄るつもりだったのに予想外の出来事が続き、心身ともに疲れ果てていた。お風呂に入り少しは疲れが取れたが、その脱力感が眠気を誘う。


「いかんいかん。明日の勉強をしなきゃ」


 京子はテスト勉強をするために机に向かった。そして、ノートを開くと、蒼士に関するメモが書き連ねてあった。

 このノートはもう持ち出せない。ノートを新しくする必要があると思うのと同時に、勉強よりも蒼士について調べたい気持ちが強くなった。


 京子はすぐにスマートフォンを手に取り、一月製薬について調べ始めた。まず最初に目に入ったのは、一月製薬の公式サイトだった。京子は一月製薬のサイトを開くと、ページを一通り確認した。


 一月製薬は市販薬ではなく、処方薬の製造を主に行う会社であり、売上はおよそ2兆円もあった。思っていたよりも大きい規模に京子は驚いた。

 他には一月製薬の行う研究や取り組みについて知ることができたが、どれも人々の役に立ちそうなものばかりであった。


「そりゃそっか。裏があったとしてもサイトに書くわけないよなあ」


 そう呟いて、京子は一月製薬のサイトを閉じた。


 一月製薬の社長の名前は、一月幸成(ひとつきゆきなり)。つまり蒼士の家が一月製薬なら、蒼士の父親ということになる。

 有益となり得るかもしれない情報はそれだけだった。


 次に京子はSNSを開き、一月製薬について検索をした。しかし、一月製薬はSNSアカウントを開設しておらず、一般ユーザーの投稿にも役に立ちそうなものはなかった。

 それから、SNSで龍の血脈を検索した。内容は今まで話題になっているのと同じものばかりで、やはり一月製薬との関係性について言及した投稿はなかった。


 京子は一応、動画サイトで一月製薬や龍の血脈を検索したが、やはりどちらも関連づけるような情報について言及したものは見当たらなかった。


「はぁ……。これじゃあリーコから聞いた裏話から何も進展してない……」


 やはり、リーコの考えすぎではないのだろうか。京子は一旦そう思うことにし、新しいノートを取り出すと勉強を始めた。


 翌日、その日のテストを全て終えた放課後、京子は思い切って蒼士に質問をした。


「一月ってさ、間違ってたらごめんだけど、一月製薬なの? 苗字が珍しいからもしかしてって思って」

「うん、そうだよ」


 意外と軽い返答に、京子は少し気が抜けた。


「や……やっぱりそうだよね。だからと言ってどうってわけじゃないんだけど、気になっちゃって」

「高校に入ってからは誰にも言ってなかったかな」


「うぇ!? そうなの!?」


 前の席で聞き耳を立てていた秋斗も会話に加わった。


「すげーな。ということは将来は社長か。よろしくお願いします!」

「あはは、やめてよ。そんなすごいものでもないよ」


 蒼士は苦笑いをしながら頭をかいた。


「昔から一月製薬の御曹司だって特別扱いされることが多くて……。でもそれってあまり居心地のいいものだとはどうしても思えないんだ。だから黙ってた、ごめんね」

「いや、謝ることじゃないだろ。それになんてできたやつなんだ。俺ならふんぞり返ってるね。ふんぞり返りすぎて地面に後頭部ついてる」


 秋斗の冗談にくすりと京子は笑った。

 蒼士の様子を見る限り、後ろめたい感じではなさそうだという安心感も混じっていた。


「これからも今までと同じように接してくれると助かるよ」

「「もちろん」」


 二人は快く返事をした。

 ただ、蒼士が一月製薬の御曹司であることと、あの日パーティーで見せた底知れぬ強さが関係あるのか、二人の頭の中で結びつくことはなかった。


「そういえば……。お父さんの友人から遊園地の招待券をもらったんだけどみんなで一緒に行かない?」


 蒼士から京子と秋斗を誘うのは初めてだった。二人は喜び、遊園地へ行くと即答をした。

 こうして三人は、夏休みに遊園地へ遊びに行くことが決まった。


***


 7月も下旬となり、高校は夏休みに入った。


 夏休みの間、風紀委員会の活動は週に二回か三回ほど行われる。夏休み期間の活動は基本的に役員だけが出席することになっている。役員といっても委員長、副委員長、書記の三人だけである。

 そして、この時期から学園祭に向けた準備が本格的に始まる。風紀委員会は、校内の巡回や来場者の案内、誘導、トラブル対応などの運営としての役割が大きい。


 夏休みに入ってすぐ副委員長の佐々木豪(ささきごう)が風邪をひいてしまったため、夏休み第一回目の風紀委員活動は蒼士と神野七莉(かみのななり)の二人だけだった。


「そういえば神野さんって家族旅行とか、夏休みは何か予定あるんですか?」


 書類の準備に少し疲れた蒼士が、肩の力を抜こうと七莉に雑談の話題を振った。


「家族旅行ね……。そういった予定はない。そもそも両親もいないし」

「え……?」

「私の両親は私が小さい頃に事故で亡くなって、それ以来遠い親戚に育てられてきたの」


 両親がいない。思ってもいなかった回答に蒼士は言葉を失った。


「大丈夫。気にしてないし、育ててくれた親戚も親みたいなものだから」

「そうですか……」

「今は、高校に入ったのを機に一人暮らしをさせてもらってます」

「じゃあ、友達とどこかに遊びに行くとか……?」

「そういった予定もない。風凪高校には特に親しい友人がいなくて」


 少し前までいじめられ、友人が一人もいなかった蒼士は、風紀委員会への加入をきっかけにいじめがなくなって友人もできた。それなのに、その恩人に友人がいない。蒼士は心苦しくなった。


「風凪高校では風紀委員長という立場が私の全て。だからこの役割を貫き通したいって思ってる」


 蒼士は、その強い意志に感心するとともに、少し寂しくもあった。


「僕や佐々木さんはどうなんですか? あくまで風紀委員会での付き合いというだけでしょうか」

「どうだろう……。一月君や佐々木先輩とは、他の生徒より関わってるけど……」

「確かに僕たちって委員会の活動でしか会ってませんね。でも、それでも仲が深まれば友達って言えると思います」

「基準は私には分からないけど、一月君が私のことを友達だと思ってくれるなら嬉しい」

「……! 僕たちはもう友達ですよ! 同じ学年ですし、何でも気軽に僕に話してください」


 七莉は書類を作成するために開いていたノートパソコンを閉じ、完全に作業の手を止めた。


「じゃあ今日活動が終わったら私の家に来ない?」

「へ……? い……家ですか!?」

「そうよ。私たち友達でしょ?」


 いくら友達といっても、女子が男子をいきなり家に招くということは普通ない。蒼士にもそれは分かっていたが、七莉の気持ちを考えると断るわけにはいかなかった。

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