表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/9

6話

 気が付けば、保健室のベッドの上に横たわっていた。

 どうやらあの後意識を失ったらしい。


 頭に触れてみるが、痛みはない。保健医が治癒魔法を施してくれたのだろう、裂けていたはずの傷は跡形もなく塞がっていた。


 ゆっくりと上体を起こす。


 身に着けているのは血に染まっていた制服ではなく、新品のワイシャツとスラックスだった。

 手袋も、今はない。


 周囲は白いカーテンで仕切られており、外の様子は見えない。ただ、すぐ近くに誰かの気配があった。


 そっとカーテンを開く。

 そこには、椅子に腰掛けたオリバーの姿があった。


「目が覚めたか」

 オリバーは立ち上がり、隣の椅子に掛けてあった新品のブレザーを手に取ると、グレンへ差し出した。


「気分はどうだ?」

「問題ありません……。——シーラはどこに?」

「今は更衣室だ。水浸しだったからな。幸い、怪我はしていない」


 その言葉に、グレンは胸を撫で下ろす。

「そうですか……」

 受け取ったブレザーに腕を通しながら、深く息を吐いた。

 ひとまず、最悪の事態は免れたらしい。


 その後、オリバーはシーラの友人達から聞いたという、騒動の経緯を語ってくれた。


 どうやらシーラは、入学当初からあの令嬢に目をつけられ、何度も絡まれていたらしい。

 それでも彼女は、正面から取り合うことはせず、これまでずっと受け流してきたという。


 だが今回は違った。

 令嬢が、グレンを貶める言葉を口にしたことでシーラは激昂。口論に発展したという。


「なるほど……そういうことでしたか」

 グレンは静かに呟く。


 察してはいたが、やはりシーラに非は一切なかった。

 その事実に、胸の奥で張り詰めていたものが、ようやく少しだけ緩むのを感じた。


「まさかあんな凶行に出るとはな……。こんなことになるくらいなら、多少手荒な手段を取ってでも、早めに手を打つべきだった」

 オリバーは額に手を当て、悔しげに頭を振った。


「……なんらかの処罰は下るはずです。公子に近付くことも、もうないでしょう。幸い妹も無事でした。ひとまずは、憂いが晴れたと前向きに捉えては?」

「ああ、そうだな……。ただ、一つだけ君に言っておきたいことがある」


 前置きを入れると、オリバーは真剣な眼差しでグレンを見据える。

「さっきの行動はあまりにも無謀だ。防御魔法も張らずに飛び出すなんて……」


 彼の言葉にグレンは何も言い返せなかった。

 自分でも軽率だったとは思っている。

 だがあのときは、頭で考えるより先に——妹を守らなければ、という衝動が身体を突き動かしていた。


 ——(いたずら)に周囲に恐怖を植え付けてしまった……。


 今回の件で、また一段とマクニース家が忌避されるのではないか。

 そんな不安が胸を()ぎった直後、ガチャリ、と音を立ててドアが開いた。


「お兄様……。よかった。お目覚めになられたのですね」

 シーラが安堵の色を滲ませ、こちらへ駆け寄ってくる。

 その表情は、今にも泣き出しそうだった。


「それじゃあ、俺はここで失礼させてもらうよ」

 気を遣ってくれたのだろう。オリバーはそう言い残し、静かに部屋を出て行った。


 こうして、保健室には兄妹二人きりとなる。


「お兄様……申し訳ありません。私……」

「いい」

 俯くシーラの言葉を遮ると、グレンは迷いなく抱き締めた。


「お前が無事で良かった……」

 腕の中に伝わる確かな体温に、心が落ち着いていく。

 シーラがここにいる——その事実を、噛み締めるように実感して——。


 だが、ふと違和感を覚える。

 ——熱い。

 顔を覗き込むと、シーラの頬は赤く火照っていた。


「シーラ……?」

 途端、彼女の身体がぐらりと(かし)ぐ。


「シーラ!」

 慌てて抱き留め、額に手を当てる。

 手のひらに伝わってきたのは、異常なほどの高熱だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ