14話
「ど——」
息を呑んだ。
言葉が出なかった。
視線は硝子瓶から離れず、思考だけが空回りする。
「呪血よりも濃度は薄いですが、耐性のない方が飲めば、きっと酷くお辛いでしょうね。私も最初の頃は、本当に苦労しました」
シーラはまるで懐かしい思い出を語るかのように、クスクスと笑っている。
「……どうして」
理解が出来なかった。
何故彼女がそのように笑っていられるのか。
あまりにも危険過ぎる行為だ。一歩間違えれば命を落としかねないというのに——。
「オリバー様は、母の行いを酷いことだと思っていらっしゃるのでしょう。ですが、私にとっては——紛れもない愛なのです。私の身を案じてしてくれたことなのですから」
語りながら、シーラは小瓶を宝物でも扱うかのように、両手でぎゅっと胸元に抱きしめる。
「マクニース家との繋がりも、オリバー様にとっては呪縛なのかもしれません。けれど、私にとっては……」
静かに目を細めるその表情は、あまりにも幸せそうで、まるでここにはいない誰かとの思い出に、優しく触れているかのようだった。
その人物が誰なのか。
問いただすまでもない。
「……もう一度だけ聞く。実家と縁を切る気は、本当にないんだな?」
「はい」
迷いのない返答だった。
その一言を受け、オリバーは一瞬だけ目を伏せ、苦渋を飲み込むように小さく息を吐く。
「……分かった。ならば、先程の話は忘れてくれ」
「——こちらの気持ちを尊重してくださったこと、大変感謝いたします」
頭を下げるシーラに、オリバーは何も答えず、ドアへ向かう
部屋を出る直前——これだけは言っておきたいと、口を開く。
「一つだけ約束してほしい。葬儀が終わり次第、すぐにここへ戻ってくるんだ。いいね?」
「……はい。必ず」
芽生えた安堵はとても小さく、胸の奥に渦巻く不安と焦燥を掻き消せるほどではない。
それでもオリバーは彼女を信じて、部屋を出るほかなかった。
4章 了




