13話
軽くノックをしてから、オリバーはシーラの部屋へ入った。
「あら、オリバー様。もうすっかり元気になりましたの。ご心配をおかけして申し訳ありません。明日からは学園にも——」
ベッドの上で本を読んでいた彼女の言葉を遮るように、オリバーはそっと歩み寄り、彼女の隣に手紙をパサリと置く。
「君の父上が亡くなったと、君の兄上から手紙が届いた。そのため一度君を実家へ戻してほしい、とのことだ」
説明を終えた途端に、シーラの表情が凍りついた。微かに震える指で手紙を取り、内容に目を走らせる。
「……」
「要求は受け入れるつもりだ。だが――」
オリバーは一拍置き、感情を押し殺すように静かな声で続ける。
「実家に足を踏み入れるのは、これを最後にしてほしい」
シーラはしばし瞬きを繰り返した後、意味が分からないと言いたげにオリバーを見上げた。
「どういうことでしょうか?」
問いかける声音には、戸惑いと困惑が滲んでいる。
「マクニース家と——兄と、縁を切れ」
あまりにも断定的な言葉に、張り詰める空気。
「君がマクニース家の一員である以上、ロット嬢のように、君を〝呪われた一族〟だと罵る輩はいずれ現れるだろう。俺としても、そんなことは耐え難い」
言いながら、オリバーは近くの椅子に腰を下ろす。
「……君の想い人が、あの男であることには前々から気付いている」
その一言に、シーラの肩が僅かに震え、青い瞳が大きく見開かれる。
「あのときはああ言ったが……君のその恋心は、マクニース家と繋がる呪縛にしかならない。今ここで断ち切るべきだ。離縁した君の母君のように、君にもあの家と決別し、自分の人生を生きていく道がある」
静かに語り終えると、オリバーはそっとシーラの手を取り、逃がさぬように包み込む。
「俺は既に、君を政略結婚の相手としてではなく、一人の女性として愛している。……だからどうか、俺を選んでほしい」
真剣な眼差しで告げる声には、一切の迷いもなかった。
彼女を想う気持ちは誰にも——グレンにも負けないという自負がある。
「……そのようなお言葉、身に余るほどの光栄です。ですが——」
シーラは静かに返すと、そっとオリバーの手から身を離す。
「マクニース家と縁を切るつもりはありません」
一瞬、時が止まったかのように、オリバーは言葉を失った。
「何故……!?」
思わず漏れたその声には、動揺と苛立ちが滲んでいた。
これほどまでに愛しているというのに、どうして彼女は自分を選ばないのか。
胸を満たす想いが深ければ深いほど、その拒絶は鋭い棘となってオリバーの心を抉った。
「私の存在意義は、マクニース家の繁栄です。ただの女となってしまっては、何の益ももたらせません」
シーラはそう言って胸に手を当て、揺るぎのない声音で答える。
オリバーの表情が苦悶に歪んだ。
「何故そこまで固執する……! そんなにも、兄が大事なのか!? あいつは君が思っているような人間じゃない! 最近の様子を見るに……君を取り戻すためなら、危害を加えることすら躊躇しないだろう。あいつには——その手立てがある」
抑えきれない焦燥を露わにし、言葉を重ねるオリバーに対し——。
「それはあり得ません」
シーラはきっぱりと、迷いなく否定した。
そうしてベッド脇の引き出しを開ける。中から取り出した小さな茶色い硝子瓶の中には、錠剤が幾つも詰められていた。
「……それは?」
こちらの問いかけに、シーラは瓶を指先で転がしながら答える。
「幼い頃から、母に言われて毎日服用しているものです」
唇には、薄く笑みが浮かべられていた。
「これは、呪血と同じ成分を含む植物で作られたもの。すなわち——毒薬です」




