契約の儀
とある国の第二王子もめでたく5歳を迎え、儀式を受ける事になりました。
王子様ですから、一般人とは比べ物にならない荘厳な儀式となりました。
儀式の中心で、緊張しきった王子は教え込まれた言葉を唱えます。
「我、契約を望む者。我が半身、我が守護者よ、我の呼び声に応え姿を顕し給え」
暫しの静寂の後、契約は失敗かと誰もが思い始めた頃、それは起きました。
強大な力の渦が巻き起こり、空間に亀裂が走ったのです。
力の渦に巻き込まれ床に落ちていた埃が舞い上がります。
力の強い聖獣の現れる前兆です。
小さい聖獣の場合は、殆ど前兆と呼べるものはありません。
荒れ狂うその風に、皆は期待に目を輝かせました。
王子の目の前にふわりと一つの影が降り立ちました。
その姿に誰もが驚愕に目を見開きます。
なぜなら、その姿は人型をしていたのです。
聖なる獣というくらいです。
記録上に人型を取ったものが現れた事はありませんでした。
ついで起きたドカンガトンという派手な音に、半ばパニックとなってしまいました。
音の正体は大型の家具で、それらが落ちたり倒れたりする音だったのです。
周りで固唾を呑んで見守っていた面々は、降って沸いたそれらを避けようと逃げ惑います。
ただ一人王子だけは目の前の人物に釘付けでした。
周りの騒ぎに気が付いてもいませんでした。
小柄な成人女性の姿をしたそれは、見たこともない不思議な衣装を身に着けていました。
広がった袖が風に煽られまるで蝶のように泳いでいます。
とても美しい姿でした。
王子の心は女性に囚われてしまいました。
女性の閉ざされていた目がゆっくりと開かれていきます。
王子は頬を昂揚させてそれを見守っていました。
完全に開ききり、その目が王子を捕らえます。
引き込まれそうな黒いその瞳にうっとりとしつつも、王子は大事な手順を思い出していました。
「僕……私はクラウスです。貴女の名はなんと言うのですか?」
目をキラキラさせた子供の姿に女性は目をパチクリとさせ、それに答えました。
「私?私は莉奈。菅原莉奈よ」
「リーナ、これからよろしくね」
女性は首をかしげ、そのまま眠るように目を閉ざしてしまいます。
グラリとその体が倒れかけるのに、王子はあわてて腕を伸ばします。
しかし通常より小柄とはいえ成人した女性を、五歳の幼子が支えられるはずはありません。
王子を押しつぶしてしまうかと思われたその女性は、見る間に縮んでいきます。
王子の腕の中に倒れこんだときには、王子と殆どかわらないほど小さくなっていました。
よろけて尻餅をついてしまいましたが、どうにか抱きとめる事が出来た王子様は腕の中の少女を大事そうに抱きしめました。