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1 出会いの前夜

はじめまして。本作をお読みいただきありがとうございます!

この物語は、中世ヨーロッパ風の異世界を舞台に、ひとりの少年と王女の邂逅から始まります。

冒険と成長、そして仲間との絆を描く長編ファンタジーを目指しています。どうぞお楽しみください

歓声が上がった。

街中を紙吹雪が舞い、その人を一目見ようと中央通り沿道を人々が埋め尽くしている。


前後を親衛隊に護衛され、中央には白い馬二頭に牽かれた豪華な馬車が一台。

馬車は濃紺のボディに金で縁取られ、扉には紋章がやはり金で描かれている。


パレードなどではオープンカーのように天井のない馬車が用いられるが、これはパレードではなく、大陸の北にある最大国家オベール王国から第一王女がこの街ヴィルサントルに到着したことによるものであった。


「なんかすごい歓迎ですわね」

「そうですね」


馬車に一緒に乗っている親衛隊長が素っ気なく答えた。

思いもよらぬこの騒ぎの中で万が一何かあったならば、姫をどう守るかを思案しているのであった。


ヴィルサントルの兵士も沿道で警備にあたっているが、この人数では警備しきれないだろう。


「もう間もなくヴィルサントル城へ到着いたします」

「わかったわ。もうお腹ぺこぺこだわ」


なんとも緊張感のない姫君であった。


* * *


ヴィルサントルは、このルボンディユ大陸のほぼ中央に位置し、永世中立国となっている。


大陸にはヴィルサントルの他、六つの国が存在している。その六つの国は三百年前の大陸大事変において、原初神アイテールの介在により定められた。


ヴィルサントルは平和の象徴として、大陸中央に永世中立都市国家を他の六国が均等に出資し設立させるよう、アイテールから全種族へ向け神託が届けられた。そして神歴という暦が新たに制定され、今に至っている。


この国は議会政治の方法がとられており、国の長を国王とは呼んでいるが王制ではない。

この国の王は五年周期で交代し、六国が順番に自国から代表をヴィルサントルの長として送り込むのである。


そして今は、オベール王国の大使がヴィルサントルの王として就任していた。


* * *


王宮に着き、部屋へ案内された途端――


「あ〜疲れた!」


と、なんとも王女らしからぬ言葉を吐いたのは――


オベール王国第一王女、

リシェル=フォン=オベール、十五歳。


肩まで伸びた金色の髪。白い肌。空のように突き抜ける青い瞳。そして完璧とも言える体型。

大陸一の美しさと言われる所以である。


「姫様、はしたのうございます」


リシェルの親衛隊隊長であり、幼馴染でもあるフランソワーズ=クレマンがすかさず注意する。


栗色の肩までの髪、貴族らしい白い肌と緑の瞳を持ち、大陸でも五本の指に入ると言われる剣士である。


「いいじゃない。私とあなた二人しかいないのだから」

「いえ、私はあなた様の従者でございます。その面前でそのような気の抜きようはいかがかと存じますが」

「あなたの前でなら問題ないでしょ? 私とあなたの仲じゃない。あなたの前でも気が抜けないのなら、私、死んでしまうわ」


「それに……そんなこと言うなら、これからは二人で甘いものを食べながらのお茶はできないわねぇ」

「わ、わかりました。姫様の思うがままに……」


大陸で五本の指に入ると言われる騎士フランソワーズは甘いものが大の好物なのだ。

そしてそれ以上に、リシェルとの二人の時間が至高のひとときであった。


「夕食まで、少しゆっくりするわ」

「かしこまりました。暖かいお茶を持って来させましょう」

「ありがとうフラン。それと、お腹ぺこぺこだから夕食を早めに食べたいと伝えてくれる?」

「お伝えいたします。夕食ができましたらお呼びしに参ります」

「うん、よろしくね」


フランソワーズはリシェルの部屋を後にした。まず夕食時間の件で執事長のところへと向かうのであった。


夕陽がもう半分ほど街の向こうに隠れはじめていた。

リシェルは一人、お茶を飲みながら「明日から何をしようかしら」と考えていた。


* * *


同じ頃、市場に近い商業地区で、木剣を振るい空を切る音が僅かに流れていた。


それを振るうのは少年で、その青い瞳はしっかりと目標を捉え、鍛錬を積んでいるようであった。


「おーい。飯にしようぜ」

「わかったよ父さん。あと百回振ったら終わりにするよ」

「随分と頑張るじゃねぇか。だが、あんまり無理すんじゃねーぞ」

「うん!」


そして木剣を振るう音が再開された。


* * *


テーブルにはスープやサラダ、肉、パンが並び、二人は食事を摂り始めていた。


「ねえ父さん。今日って王宮の方で何かあった?」

「ああ、なんかどこぞのお姫さんがこの街に到着したんだと」


エールを飲みながら、父親は興味なさそうに答えた。


「それでなんか騒がしい感じだったんだ。オレも見たかったなぁ」

「へっ、それを見たからってなんだって言うんだ?」

「ええ、だって王族なんて見たことないから、見てみたいなって……」

「見たからってなんの足しにもならんぞ」

「それはそうかもしれないけど……」


まっ、これ以上何か言っても無駄だろうと、その話はそれで終えた。


そのあとは剣の修行の話や、街での出来事など、他愛もない話で食事の時間は終わっていった。


「じゃ、明日も早いからオレはもう寝るよ」


食器の片付けを終えて父親にそう伝え、二階にある自分の部屋へと向かった。


* * *


少年の部屋は質素ながらも落ち着いた空間で、木の香りがほのかに残る机と椅子、小さな本棚、そして窓際には使い慣れた寝台がある。


着ていたシャツを脱ぎ、壁のフックにかける。棚の上のランタンに火を灯し、部屋の明かりを少しだけ落とす。


少年はベッドに腰を下ろすと、ゆっくりと足を引き上げて毛布をかぶった。あたたかな布の感触が、じんわりと身体を包んでいく。


天井を見つめながら、今日の出来事をぼんやりと思い返す。

そしてふと、父と交わした会話が頭をよぎった。


「王族かあ……いったい、どんな人なんだろ」


ぽつりと、誰にともなくつぶやく。


この少年が、まもなくあの姫と出会うことになる。

それは、ただの偶然ではなかった。

未来を紡ぐ一筋の光となる、この出会いの意味を──

誰もが知らぬまま、物語は静かに動き出す。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

この第一話は「出会いの前夜」と題し、舞台と人物を紹介する導入部分でした。

次話では王女リシェル視点でのエピソードを描き、いよいよパン屋〈ブラハム堂〉での小さな邂逅へと繋がります。


もし面白いと感じていただけましたら、ブックマークや感想をいただけると励みになります。

それでは、第二話でまたお会いしましょう!

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