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第二話 豊穣の聖女

今思えば、あれこそが運命だったんじゃないかなあ。


あたしはある日、父ちゃんと母ちゃんから村外れの畑を任されることになった。なんか、国の取り組みで新しく小麦をたくさん作るんだってさ。えらい人からお金もたくさん出たみたいで、村のみんなも張り切っちゃってる。


「そんなに自信があるなら、お前の好きにやってみろ」

父ちゃんは言った。……いいよ、このジネットちゃんが美人なだけじゃない、できる女ってところも見せてやろうじゃないの!


だいたい、生まれた時からこのフルリ村に住んでんだから、麦を育てるのなんてお手のもんよ。親の顔より麦の穂のほうがよく見てきたくらいだわ。


おせっかいなティボーがときどき様子を見にきたけど、無視してやった。朝畑に行くと、先に来ていて、驚いたように逃げていくこともあった。


もしかして、あたしの気を引こうとしてるわけ?……もじもじしてる男ってウザいのよね。用があるなら自分から話しかけてくればいいのに。あたしは察してなんてあげないよ!甘やかして、調子に乗られても困るんだからね。


* * * 


いや……あたしが天才だってことはわかってたよ?でもさ、さすがにこれはびっくり。あたしの麦、驚くほど実ってるんですけど。うん、どう考えても普通じゃない。


その夏、あたしの畑は麦だらけ!もう、ぎゅうぎゅうに実っていた。もしかして、今年はどこの畑もすごいのかなって見に行ったら、そんなことなかった。こんなに実ってるのはあたしの畑だけ。両親の畑はもちろん、村人たちの畑とも全然違うの。豊作も豊作よ!


(やばい……あたしってもしかして、農業の天才かな?)


確かに雑草もあまり生えなかったし、間引きをしなくてもちょうどいい具合だった。虫も全然つかなくて、今回の畑はかなりうまくいっていたんだよね。


畑を見た父ちゃんと母ちゃんはぽかんと口を開けてた。

「ま、まさかこんなことが……」


二人は、しばらく無言で麦を見つめていた。


(そうでしょうそうでしょう。あなたたちの娘はすごいのよ。誇りなさい!)


ティボーも見にきて、口をパクパクさせた後何か言いたげな顔をしたけど、結局黙ったままだった。


……相変わらず、気の利いたことの一つも言えないんだから。ほんと、将来が不安だわ。


村長の息子も、酒場のエリックも、薬屋の次男も、その親たちも、みんなあたしの麦を見にきて、目を丸くしてた。


村長の息子が小さな声で漏らした。

「豊穣の……聖女様だ……」


みんなが、私を見た。その顔には、今までの憧れだけじゃない、尊敬の念が加わっていた。


その日から、村人たちとすれ違うたびに。


「あの麦をたくさん実らせた、聖女さまだ……」

「そうか!他の女とは違うと思ってたんだ」

「まるで、黄金色の麦みたいな金髪だもんなあ」


みんなが、そうささやくようになった。


(やっぱり、あたしって特別だったんだ)


ずっと思ってた。あたしって村の中でちょっと浮いてるっていうか——他の娘たちとは、全然違うなって。


かつては、それで陰口を叩かれることもあった。

「あの娘、ちょっと顔がいいからって」

「ちやほやされて、調子に乗ってるんじゃない?」


でも、あたしが『聖女』だって言われはじめてから、そんなことを言う女はぴたりといなくなった。


まるで、あたしの悪口を言うことは神への冒涜みたいに。—–みんながあたしを崇め称えた。まあ、気分は悪くないよね。美しいって褒められることには慣れていても、尊敬を向けられることは今まであまりなかったから。


「神父さまも、あの麦を見にいらしたんだそうよ」

「ジネットさまを気にかけてるんじゃ……」


そんな日々の極めつけは……村の神父が、ある日、私の家に尋ねてきたことだった。


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