第十五話 神託
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神は見ておられる。
聖衣の下に罪を隠し、欲にまみれた者どもを。
祭壇は穢され、祈りはもはや空に届かぬ。
よって、ここに告ぐ。
聖なる務めは、もはや教会にはあらず。
神の名において——
信仰を、民の手に返す。
麦を育て、命をつなぐその手こそ、神に選ばれし者なり。
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神託の声が、静寂の広場に響きわたった。司祭たちは、何か信じられないことが起きたとばかりに、目を見開いておろおろとしていた。
民たちも一体聖女の言葉はどういうことなのだと、焦った様子で周りを見渡していた。
場の動揺を鎮めるために、私は一歩進み出た。
「本日より、教会は解散します。聖務は祭壇に仕える者の手を離れ、民の手に返されます。村ごとに、祈りを司る者を選び、季節の祭と共に神をお思いください」
皆が私をじっと見ている。
「それを支えるため、私は旅に出ます。各地に新たな祈りの場を築くために。——聖堂は閉ざされます。けれど、祈りは死にません。これからは、麦と共に、大地に満ちていくでしょう」
広場は、異様に静かだった。けれど、誰かがぱらり、と拍手をした。少しずつ、拍手の波が広がっていった。
司祭たちが、私を睨みつけている。若い司祭は泣き崩れ、老司祭はぶつぶつと呪詛をつぶやいている。トマ司祭は、ただ呆然とした顔で突っ立っていた。だが今更、彼らに打てる手などない。嘘と欲にまみれた教会は、ようやく終わりを迎える。
* * *
私は数日前、密かに国王陛下に面会していた。陛下は神権政治に疑問を抱き、乗り越えようと密かに取り組まれていた方。だからこそ、私のこの提案を理解してくださるとわかっていた。
「この国の歴史を、見直す時なのかもしれませんね」
陛下はそう言い、力強く頷いた。
ソレイユ神教は初代国王によって、民の統治のための道具として作られた。国と教会は癒着し、神の教えは常に国家のために都合よく操作された。
その成り立ちを考えれば、当然のことだ。“神の試練”はない。“聖女の奇跡”も……あるはずがない。全ては私たちが民を操るために作り上げたまやかしだ。
神は教会にはいなかった。大司教の心にも、司祭の心にも、聖女の心にも……いなかった。なのに、農民の心の中には確かに神が生まれたのだ。
(何という皮肉だろう)
聖女制度も解かれ、少女たちはそれぞれの場所へ帰っていった。若き者たちは、新たな学びの場として王立学園へ送られた。
——そして、教会に最後まで残ったのは、“豊穣の聖女”と“大司教”の二人だった。




