第十四話 収穫祭
告解室を出て部屋に戻ろうと歩いていると、トマ司祭に声をかけられた。動揺が顔に出ないよう、何とか取り繕う。
(大丈夫、二人でいたことは気づかれていない)
「こんな場所でお会いするなんて珍しいですね。いかがですか?いいワインが手に入ったので、この後ご一緒に……」
トマ司祭は嬉しげに誘いをかけてきたが、私は慌てて首を振り、用があると偽った。
……トマ司祭の目の奥に、何か妙な、執着のようなものを感じるようになったのはいつからだろう。
聖職者は禁欲を旨としているが、その実情は……密かに女を囲う者もいれば、教会の中に欲を向ける者もいる。二人でワインなど飲めば、どうなることか……。想像するだけで吐き気がする。
(あんな脂ぎったハゲた爺さんに、指一本たりとも触れられるなんて——ありえない)
「あなたの美しさが私を狂わせるんだ」
「その艶っぽさ……もう我慢できない」
若い頃は意図に気づかず、司祭たちの誘いに同席し、迫られたことが何度かあった。何とか逃げ延びたけれど、神聖な教会で貞操の危機など、心から笑えない。
美しいともてはやされたことは数え切れないが、結局……この容貌が私に与えてくれたものは、何一つなかったのかもしれない。
徒らに注目され、身勝手な欲望を向けられ、勝手に期待されて、勝手に失望される。
(もう、こんな日々に疲れた……)
権力欲と色欲に塗れた司祭たちを排斥する。それは、私の長年の望みのひとつでもあった。次の収穫祭が待ち遠しい。
* * *
陽が昇りきる頃、広場には人々がひしめいていた。年に一度の収穫祭は、長く厳しい労働の果てに与えられる、束の間の解放でもある。
木組みの家々は、麦穂の束や赤い果実で飾られ、風に揺れる小旗が、空を彩る。子どもたちは焼き栗や甘い蜜のかかった菓子を手に走り回り、女たちは色とりどりのスカーフで髪を覆い、男たちは酒と歌で気を大きくしていた。
すべてが音を立てて動き、熱を持ち、喜びに満ちている——そのように見えた。
収穫祭の日、“豊穣の聖女”の衣装は純白に金糸で麦と葡萄を縫い取った可憐なドレスだった。薄布のケープがひらひらと舞い、頭には麦で編まれた冠が乗っている。
一方、大司教の衣装は色味や刺繍は変わらないものの、より豪華な布や飾りがあしらわれている。
司祭たちも、同様にこの重大な祭事に向けて着飾っていた。祭礼用のローブは、日常のそれとは違い、見る者に威厳と神聖さを印象づけるものだ。
まるで私たちが“神の代弁者”であるかのようだ。……滑稽だ、と思う時もある。けれど、人は苦しみを生き抜く中でそうした「象徴」を求めている。
(——神の降臨を演出する、舞台は整った)
あとは、神託の時を待つだけ。——私は、大きく息を吸い込んだ。




