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第十一話 帰郷

どの村に行っても、反応は似たり寄ったりだった。歓待してくる村人たちは、豊穣の儀式の祈りに呑まれ、最後は遠巻きに崇めるようになる。


(不思議なものね。まだ、奇跡なんて、何も起きていないのに)


——そして、故郷のフルリ村にも一年ぶりに立ち寄った。


「お父様、お母様、お久しぶりです。ジネットです。お元気そうで、本当によかった」

そう言ってにっこり微笑むと、二人は呆気にとられた顔をした。


「まさか、あのジネットがこんな……」

「本当に、聖女になったのね……」


村長の息子に、酒場のエリックも、薬屋の次男まで——もう誰も、私を口説いてはこなかった。ただ、届かないものを見るような目で私を見つめ、感謝の言葉だけを述べた。


(……この村は、特別、豊作になりますように)


本当は、順番なんてつけるべきじゃないのかもしれないけど、どうしてもそう願ってしまった。もう、この村で暮らすことは叶わないから、せめて。


お祈りをすると村いっぱいに静寂が満ちた。神聖さとは、もしかしたら静けさによって生まれるものなのかもしれない。


フルリ村の人々とも、やっぱり儀式の後は一段と距離が開いたような気がした。


だから、去り際にティボーに声をかけられたとき、驚いたけど嬉しかった。


——けれど。


「ジネット……さま、て呼ぶべきかな。久しぶり。俺、結婚するんだ」


ティボーの横には一人の少女が立っていた。赤毛を三つ編みにした、まだ幼さの残る素朴な娘。ふたりは顔を見合わせて照れくさそうに笑った。


確か彼女は、雑貨屋の……名前がなんだったのかは、もう思い出せない。


「……それは、おめでとうございます。ふふ。幼馴染のよしみで、祝福くらいはしてあげますよ」


簡単に祝福の祈りを捧げて、その場を離れた。


「あの村が、ジネットさまの育った場所なのですね。とても素敵なところです」

馬車の中でノラは笑顔で話しかけてきたが、曖昧に微笑んで誤魔化した。


(……なんで、私が振られたような気にならなきゃいけないのよ)


ティボーのことは、決して好きだったわけではない。それどころか、眼中になかった。たとえあの村に住み続けていたとしても、彼との結婚を承諾することはなかっただろう。


だから、こんな気持ちはおかしい。


でも、ティボーの結婚の知らせは私にとって、まるで……幸せな少女時代との、決別みたいに思えてしまった。


村に寄るたびに、私の聖女としての名声は高まっていく。トマ司祭の、言う通り……いや、それ以上だった。


祈りを捧げるたびに、私は私でなくなっていく。果たして私は聖女に近づいているのか、それとも……利用されているだけなのか。


トマ司祭は、ただ穏やかに私を見つめ、いつも優しい言葉をかけてくれていた。彼が悪人だとは、どうしても思えなかった。


けれど私は、気がつくことになる。すべては、ラファエル大司教の言う通りだった、と。



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