第十話 巡行
それからは、真面目に聖女としての務めを果たす日々を過ごした。いや、今までだってふざけていたつもりはないけれど……何だか今のままではいけないような気がした。
大司教の言葉を全て信じたわけではない。けれど、否定もしきれなかった。
教養で分からないことは、ドナに積極的に質問した。彼女が一番、言葉遣いも所作も美しかったから。最初だけは戸惑った様子を見せたが、淡々と、でも丁寧に教えてくれた。細かいところまで気を配って、彼女と同じようにできるようにした。
決して、誰にも侮られないようにならなくてはいけない。気乗りしないことや、腹が立つことも、そのためには乗り越えなくては。
そうしていると、コラリーヌは気圧されたのかあまり絡んでこなくなった。ノラとはいつも通り話していたが、今まで以上に尊敬のまなざしを向けてくるようになった。
あっという間に季節は流れ、巡行の日が訪れた。
* * *
大司教から手渡された純白のローブには、太陽を思わせる細かな紋様が、美しい黄金色で刺繍されていた。思わず見惚れた。
「まあ……せいぜい見栄えだけでも整えて、教会の名に恥じないよう振る舞ってください。私も、王都に近い村には帯同しますが……他の村でも粗相をしないように」
相変わらず、皮肉な言葉だったが、前ほど冷たいとは感じなかった。不思議なものだ。
教会からは、トマ司祭と私の他にノラも同行することになった。記録官、侍女、護衛もいる。ノラの衣装は銀の月が縫い取られた美しいもので、彼女も華やいだ様子を見せていた。
意外なことに、ドナが見送りに姿を見せた。
「私……バイエ子爵家に嫁ぐことになりましたの。ですから、最後にご挨拶をと」
彼女は、そう言って笑った。
「最初は、変わった方だなと思っていましたけれど……でも、嫌いにはなれませんでした。案外、あなたみたいな聖女もありなのかもしれませんね」
「え……?」
彼女の言葉は、強い風に遮られて、最後はよく聞き取れなかった。
こうして、私たちは旅に出た。
* * *
最初の村は、王都を出てほど近いところだった。私たちは、驚くほど歓迎された。
「わあ、聖女さまはたいそうお綺麗だなあ……」
「足をお運びいただき、ほんとにありがとうごぜえます!」
「これでうちの麦は、神さまに守ってもらえる……」
農夫たちの言葉に、少しだけ胸がズキンと痛んだ。全然違う場所なのに、フルリ村のことを思い出す。
ドナに特訓してもらった、姿勢と所作を思い出して、できるだけ丁寧に。
私とノラが麦畑に祈りを捧げると、賑やかだった村は静まり返った。ただ、風の音だけが聴こえている。
長い祈りが終わると、村人たちは眩しそうに目を細めてこちらを見た。
「ありがたや……」
誰からともなくこちらを拝み始め、その流れが村人全体に広がっていく。それは、圧倒的な眺めだった。
私の髪は陽光を受けて、キラキラと光っていた。まるで、実った麦の穂のような黄金色に。
(ふふ、やっぱり私って、特別……なのかもね)
「……ジネットさまは、やっぱりすごいです。村人たちみんな、あなたを見ていますよ」
「さすが、“豊穣の聖女”ですね。これだけでも、来た甲斐があるというものです」
ノラとトマ司祭も、感嘆したように言った。
(……けれど、もう、誰も寄っては来ない)
村人たちは、遠巻きに私を崇めるだけ。あれほどの笑顔で迎えてくれた村人たちが、祈りを終えた途端、まるで別人のように距離を置いていた。
——聖女という仕事は、私が思っていた以上に特別で……そして、孤独なものなのかもしれなかった。




