(デュークス、あのね)
エミリッタにとっても、やはりこの部屋は寒かったらしい。
かといってデュークスと一緒に寝てもらったと他の人に知られたら、一体どう思われる事か。
恋人だと思われるならまだしも、子供っぽいと思われるかもしれない。それだけは嫌だったエミリッタ。
あと普通にちょっと恥ずかしいとも思っている。
声を取り戻すために旅立ったとはいえ、両親を失った傷はまだ癒えていない。祖母とも離れている今、エミリッタが甘えられるのは幼馴染のデュークスだけなのである。
だがデュークスはたまに余計な発言をする所があり、彼女は海賊達にバラされた胸の話を未だに恥じていた。
だから彼女が彼に甘えるのは、人々が寝静まった真夜中の数時間。またの名をスーパーえっちゃんタイムという。彼女が名付けた。
彼女は大の字になって眠るデュークスの右腕を枕にした。
今日の出来事を思い出しながら、眠りにつこうとしていた。
門番さん達と食べたご飯はおいしかったし、なんだかんだアンナとも仲良くなれそう。そう思っていた。
だが怖い事もあった。
今日見た火を思い出し、思わず涙目になる。
彼の体にぴとっと、くっついた。
本当はデュークスがお風呂(+水泳)からなかなか帰って来ない事も心配していたし、一人でいるのは心細かった。
かと言って覗きに行く訳にもいかないし、一緒に入る訳にもいかない。先ほどベッドへ誘われた時も、一瞬考えたくらいだ。恥ずかしさより寂しさが勝っていたら、素直に一緒に寝ていたかもしれない。最も、彼女は添い寝程度にしか考えていないが。
静かな暗い部屋の中、薄い布団の中はとっても温かく感じた。
怖かったよー、と言葉には出せないが、その分表情に感情をのせて。
エミリッタはデュークスに抱きついたまま、浅い眠りについた。
翌朝、体を揺すられたデュークスは目を覚ました。彼を起こしたのは、ベッドの脇に立っているエミリッタ。
着替えを終えて、ノースリーブのシャツと黒い短パン姿になっている。
その表情は非常に平然としたもので、もし仮に昨夜の事を問い質しても「甘えてないよ? 腕枕とか知らないよ?」といった態度を取りそうだ。
同じベッドで寝ていたとは思ってもいないデュークスは、今目の前で起きている出来事にだけ感想を抱く。
「結婚したんだっけ……?」
エミリッタは首を左右に振って、すぐさま否定。
「だよね。寝ぼけた。おはよ」
バレていない事に安堵したエミリッタは、特に気にした様子もなく笑顔で返事をした。