表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
喋れない幼馴染とイチャイチャしながら、花探しの旅に出ます ー龍竜深紅ー  作者: 二木弓いうる
真実とハッピーエンド編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

71/75

ごめんなさい

 エミリッタはデュークスの寝顔を見ながら、ニコニコと笑っていた。

 すぐ隣にあるぬくもりに幸せを感じ。

 デュークスと一緒になれて良かった。そう思いながら眠りについた。


           ***


「龍竜族の方ですよね! どうか研究の協力を!」

「そんな怪しいもん、出来っか!」


 エミリッタがいたのは、里の入口付近だった。

 彼女の前には、死体になる前の――健康体のシャードとヘングリーがいた。


 地べたに膝をついたヘングリーの前で、シャードが何かを断っている。

 シャードはエミリッタの存在に気づくと、すぐに追い払う仕草を取った。連動して、星形の石が彼の胸元で揺れる。


「エミリッタ、あっち行きな。この男、不審者だから。何も見なかった事にして、デュークス達と遊んで来い」


 ヘングリーはエミリッタを見ると、かなり興奮した様子で白い石を見せてきた。どんぐり程度の、小さな石だった。


「おぉ、おぉ! 白い髪を持つ龍竜族! お願いだ、僕を助けると思って、この石を噛んでくれ!」

「お前! さっきは俺に噛めって言ったくせに!」


 シャードはヘングリーからエミリッタを庇う。

 だがヘングリーは悪びれる様子もなく、ただ説明をしてくる。


「だって龍竜族は髪色と同じ色の石を噛むのが、一番力を出すんだろう? 何、心配しなくていい。この石は人工的に作ったものだ。噛んだからって、誰かと結婚になるなんて事はない!」

「心配してるのはそこじゃない! 出てげ!」


 シャードはヘングリーを追い払った。


 悲しそうにしていたヘングリーをみて、エミリッタは心が痛んだ。

 助ける事が出来るなら、協力してあげたい。そんな気持ちがあった。

 エミリッタはシャードが家の方へ帰って行った事を確認し、こっそりとヘングリーの元へ戻る。


「君はさっきの!」

「あの……石、噛みましょうか?」

「あぁ、ぜひ頼むよ! これで君が竜になれば、僕の研究の証明になるからね!」


 あくまで親切心のつもりで。彼女はヘングリーから石を受け取り。

 エミリッタは石を、噛んだ。

 

 途端に気分が悪くなり、彼女は意識が途絶えていた。




 気付けば、彼女は白い竜になっていて。

 気づけば、彼女は口から雪を吹きだしていた。


 周囲は季節外れの雪に包まれている。

 エミリッタの前には、ヘングリーと鎧を着た兵士が立っていた。


「これが僕の研究の成果だ。見たか、あの竜を! 予想通り、白い竜になった。雪も吹いた。これで僕が正しかったって、分かっただろう!?」

「あぁ、雪も降らせて素晴らしい。王に報告するといい、きっとお喜びになるだろう」

「やった、やったぁ!」


 ヘングリーは喜びながら、里を出て行った。

 それと入れ替わるように、多くの兵士たちが里へやって来た。


 兵士たちは竜の姿のエミリッタには目もくれず、里にいた人々を襲い始めた。


 エミリッタは体が動かない。

 というより、動かす気がなかった。

 無気力な彼女の前に、一人の男が走ってきた。


「エミリッタ! 何やってんだ、止めろ!」

  

 彼女があの石を噛んだと感づいたのだろう。シャードが切羽詰まった様子で戻って来た。

 シャードは兵士たちの攻撃を受けたのか、傷だらけだった。対抗するためか、手には短剣を持っている。


「まだ生きてやがったか!」


 一人の兵士が、シャードを追いかけて来た。

 兵士は剣を振り下ろし、シャードの石を奪う。


「返せ!」

「ぐぁっ!」


 シャードはすぐさま短剣を振り下ろし、自分の石を取り返す。その場に倒れた兵士は、そのまま動かなくなった。

 他にも兵士はいっぱいいる。そう思ったシャードは星形の石を噛むも、彼が竜に変身する事はなかった。


 変身出来ないのが雪の影響だと気づいていたのか、シャードはエミリッタを睨みつけて。


「里を守るためだ。悪く思うなよ!」


 短剣を持ったまま、彼女の体をよじ登り。

 

 首を、刺した。

 

 エミリッタは竜から人型に戻り、雪を止ませる。


「何するんだよ!」


 シャードの背後に、先ほど倒したはずの兵士が立っていた。

 兵士はシャードに斬りかかり、血しぶきを上げさせる。それが彼の最後だった。



 人型に戻ったエミリッタは、寒さを感じていた。

 兵士はエミリッタを見て、ニヤリと笑った。


「計画は実行されたし、竜にさせる必要はないか。石だけ確保しておけば、普通の女と変わらないし……後で可愛がってやろう。そこで大人しくしとけよ」


 そう言って、エミリッタが首に下げていた石を奪い。どこかへ行ってしまった。

 だがエミリッタは、どうでも良かった。

 それよりも、温かさを求めて。


 エミリッタはゆっくりと動き始めた。


 すっかり雪景色となった里は、あちこちに死体が落ちていた。

 皆顔見知りだった。

 だが彼女は、悲しめなかった。何もかもがどうでも良かった。


 気づいたら、自分の家の前にいた。いや、自分の家だった場所の前だろうか。

 放火されてしまったのか、家はすっかり黒焦げになっていた。

 エミリッタはその中に入り、死体を見つけた。

 一人の死体の上に、折り重なるように別の死体が重なっている。


 焦げてはいるが、間違いなく両親だと思った彼女は。

 親のぬくもりを求めて、その死体の間に入り込んだ。

 温かさに包まれて、幸せに包まれて。彼女は静かに、眠りについた。


 幼馴染の彼が見つけてくれるまで――。


                 ***


 エミリッタは目を覚ます。額には汗をかいており、心臓がバクバク言っている。

 今のは何だろう。分からない、けど、かなりリアルだった。

 そう感じていた。

 夢のはずなのに、寒さが残っている気がした。眠る前は、心も体も温かかったというのに。


 隣には、幸せそうに眠るデュークスがいた。


 彼の顔を見て、思い出した。デュークスが黒い竜になった時、覚えてないと言った事を。寒いと言った事を。


 エミリッタは恐ろしい仮説を立てた。

 もしも今見た夢が、夢ではなく過去の記憶なのだとしたら。

 覚えてない。思い出せない。けれど。


 彼女は狼狽えた。


 里が襲われたのは……自分のせいだ! と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ