えっちゃん、声が
デュークスは改めて部屋の中を確認した。狭い部屋ではあるが、落ち着きのある部屋だ。
一つしかないベッドも、十分広く。二人で寝てもスペースが余りそうだった。
そこまで見て、デュークスの思考が停止した。
一つしかないベッド?? と。
エミリッタはそのベッドの上に座る。出られないのであれば、ここで過ごすしかないと思ったのだろう。彼女には意外と度胸があった。
デュークスも彼女の隣に座る。彼女が落ち着いているのなら、自分も落ち着こうと考えた。
「えっちゃん。アイツの言う事信じた方がいいかな? 俺個人的にアイツ好きじゃない」
エミリッタは首を横に振った。彼女もまだ、完全には信じていないらしい。
「そうだよねぇ。何より、えっちゃんをやらしい目で見ている!」
それはどうだろうかと思ったエミリッタだが、言葉にする事はできない。
デュークスは真剣な顔をして、これからについて口にする。
「でも、えっちゃんの声が治るなら……とも思ってるんだけど」
エミリッタは眉を八の字にしながらも頷いていた。花を探すための危険な旅が早く終わるなら、その方が良いに決まってる。
「とりあえず見てもらうだけ見てもらう、っていうのでも良いのかな。勿論、ヘングリーと二人にはさせない」
エミリッタはもう一度頷いた。ただの旅ならまだしも、マフィアから目を付けられ、人々からも恐れられるような旅だ。早く終わらせるために渋々、という感じだ。
「それで、その……先に俺に口の中を見せてもらうことは?」
デュークスはそう言いながらも、我ながら変な質問をするな、と思っている。
本当に見せてもらう必要もないのだが、やはりヘングリーにだけ見せるというのも嫌で。
エミリッタも変な質問をされたな、と思いつつ。
頷いて、小さく口をあけた。
デュークス相手に、嫌がる事でもなかった。
「あ、ありがとう」
なんとなく礼を言って、親指で彼女の唇に触れた。
柔らかな唇を、少し押すだけでもドキドキしてくる。
ぷにぷにしている感触は、ちっとも飽きそうにない。
「口っていうか、喉なんだろうけどさ……」
そう言われて、エミリッタはさらに口を大きく開けた。
せっかく彼女が見やすくしてくれたのだから、見ない理由はないだろう。
己の顔を近づけて、彼女の口の中を覗き込む。
小さな舌や歯が見えるも、喉の傷なんてものは見えず。むしろ暗くて、よく見えなかった。
「ちょっとごめんね」
彼女の口の端に指を当てて、さらに奥を見ようとするも。
ただ指先が生暖かくなっただけで終わった。
「顎疲れない? 大丈夫?」
そう聞かれたエミリッタは、口を閉じて。デュークスの指を甘噛みした。どうやら、顎は疲れていたらしい。
噛まれても嫌悪感はなく。むしろ心地いいとまで感じていた。
これ以上、変な気を起こす前に指を離す。
「ごめん。俺が見たところで、何の解決も出来ないや」
そもそも口の中を見るという流れになったのも、ヘングリーに対抗しての事だ。
見た所で、ただ可愛いなと思っただけだった。
エミリッタはズボンのポケットからハンカチを取り出し、デュークスの指を拭いた。
その気遣いが愛おしく、デュークスを余計にトキめかせた。
勝手に用意された場所とはいえ、せっかくの二人きりだ。
デュークスは、もう少し堪能しても良いんじゃないかと思い始めた。
「……えっちゃん、もうちょっと、イチャついてもいい?」
エミリッタは恥ずかしそうに頷いた。驚いている様子がないところを見ると、彼女もこうなる事を予測していたのかもしれない。
そう思うと、余計に感情が高ぶって。
「えっちゃん……!」
押し倒す形で、彼女にキスをする。
部屋の中がリップ音で溢れた。
外でヘングリーに聞かれてないかとか、マフィアに襲われないかだとか。余計な事を考えては、考えないようにしようと思い。
欲のままに回数を重ねると、エミリッタはデュークスの手をギュっと握って来た。
きっと彼女なりに、嬉しさを伝えたかったのだろう。
そんな彼女が可愛くて、つい舌を入れる。
エミリッタの肩が大きく跳ね上がった。
嫌がられてないかが怖くて、そっと彼女の表情を覗いてみれば。
恥ずかしそうにはしているものの、嫌がっている様子は一切なくて。
だったら、もう少しだけ。
そう思って、何度も唇を重ねた。
このまま終われるだろうか。そんな恐怖心さえ芽生え始めて。
「えっちゃん。ありがと。これ以上だと止まれなくなっちゃうから、ここまでにしとこう」
デュークスは心の中で、冷静に言えた自分をほめた。
エミリッタは頷いて、呼吸を整えている。
息の仕方が分からなかったのか、涙目になっていた。
その事に気づいたデュークスは、途端に後悔し始める。
「ご、ごめんえっちゃん。ちょっとがっつき過ぎましたかね!?」
エミリッタはすぐさま首を左右に振った。
嫌ではなかったと言いたげに、彼の顔を見つめ。
「……デュークス……」
小さく口を動かした。
デュークスは目を丸くした。
彼だけではない。彼女も自分自身で驚いていた。
エミリッタは久々に、声を出した。




