式挙げようか、えっちゃん
デュークス達は里を出て、花探しの旅を再開させていた。
「マナもグラスも、無事に着いてて良かったね」
エミリッタも頷く。
クラルが荒らしてしまった墓も元に戻し、祖母達にもシャードの行方は伝えてきた。
ひとまず、里の方は一段落だ。
「次はどこに行こうか。龍竜族の事だし、竜とかドラゴンを探す方が知ってる人もいるかと思ってたけど……いっそお花屋さんとかの方が良いのかな?」
エミリッタも次の場所を考えている。花のありそうな場所は検討もつかないし、手がかりも何もない。
森の中を歩いていると、横の小道から歓声が聞こえて来た。
「何か祭りでもやってるのかな。ちょっと覗いてみようか」
木の陰に隠れつつ、人の声がする方を覗く。
目の前に建っていたのは、教会式場。真っ白いドレスを着た女の人が、ピンクの花束を持っている。その隣にいる男も真っ白い服を着て、涙をこらえていた。
行われていたのは、結婚式だった。
人々は皆、幸せそうにしている。
デュークスが横目で彼女を見ると、エミリッタは興味深そうに花嫁を見ていた。
「羨ましい?」
エミリッタは無意識に頷いていた。
頷いてしまった事に気づいたようで、すぐに照れ始める。
デュークスはそんな彼女を愛おしく感じていた。
ふと、ハンスが前に言っていた言葉を思い出す。
『つまり――アイツら結婚したわ、今』
そう。マフィアから追われ、エマリコズ学園に入学してしまった事であやふやになっていたが。
エミリッタはデュークスの石を噛み、竜になっていた。
相手の石を噛む行為は、龍竜族にとって結婚しているも同然。
デュークスの石を噛んだエミリッタは、彼の嫁であるも同然。
ならばもっと、イチャついても良いのでは? だってほら、今とか二人きりなワケだし。
と、デュークスは思っていた。
「えっちゃん、俺達も上げようか。結婚式」
デュークスはそう言って、彼女の手を握る。
突然手を握られて、エミリッタは驚いていたものの。すぐに笑顔になって、ぎゅっと握り返してきた。
「と言っても、まずは花探すのが先だろうし。結婚式挙げる資金もないんだけどさ」
申し訳なさそうなデュークスだが、エミリッタは首を左右に振る。
彼女も花探しをするのが先だと思っているようだ。
とはいえ、このまま歩き始めるのも寂しい気もしたデュークスは。
特に深く考えずに、思いついた事を口にしてみる。
「あれなら出来る。誓いの言葉ってやつ。あれだけでもやる? なーんて」
デュークスの問いに、エミリッタはコクコクと頷いた。
「あ、や、やる?」
エミリッタはコクコクと頷いた。
自分で言っておいて照れたデュークスだが、エミリッタはやる気満々だった。
覚悟を決めたデュークスは、すぐに彼女と向かい合った。
「じゃあ、えっと、エミリッタ・レティウェルズ。貴女は、デュークス・リングライトの事を」
エミリッタは手のひらをビシッを見せてきて、NOを示す。
「ちょっと待って」と言いたいらしい。
「えっ、何。結婚嫌!?」
エミリッタは首を横に振ると、リュックサックの中を漁りだす。
デュークスもリュックの中を覗き込む。
「これって、売り物用の?」
彼女が取り出していたのは、小さな石を繋げた指輪だった。
エミリッタはデュークスの手を掴み、指のサイズを確認する。どうやら指輪の交換がやりたかったらしい。
だが彼女が作った指輪ではサイズが合わなかったようで、エミリッタは悲しそうな顔をしていた。
デュークスは慰める事しか出来なかった。結婚式を挙げる金がないのだ、指輪の金だってない。
「あー……しょうがないよ。突然の提案だったし。そうだ、本当の指輪の交換は、本番まで取っておこう。今はほら、練習みたいなもんだしさ」
その言葉に、エミリッタは笑みを取り戻す。売り物のアクセサリーを取り出し、自分をかわいく着飾り始めた。
ウキウキな彼女の様子を見ていたデュークスは、小さく呟いた。
「えっちゃん……喋らないわりに、動きで喋るよな。まぁ、かわいいから良いけど」
彼女がたまに変な動きを見せるのも、彼にとっては愛嬌の内だった。
しばらくして、エミリッタは満面の笑みを彼に向けた。
「お待たせ!」と言いたそうだ。
「おぉ。これは随分と可愛くしてきたね」
エミリッタの髪には、赤いリボンがついている。リボンの中央では大きめの石が輝いていた。腰元にも同じリボンをつけて、ドレスに見立てているようだ。
左手の薬指に自分だけ指輪をつけたのは、交換のためではなく可愛く見せるため。
近くで摘んで来たのか、手には白い花の束を持っている。
と言っても、雑草と大差ない小さな花だが。
「そんなに可愛くしたのは……俺のため?」
エミリッタは顔を赤くさせた。否定するには、あまりにもウキウキな恰好すぎた。
だが素直に認めるのも、なんだか恥ずかしい。
「それはそれはありがたいよ。可愛らしい奥さん貰って、俺は随分と幸せもんだ」
デュークスはエミリッタと向き合って、花束ごと彼女の手を包み込んだ。
「じゃあ改めて。エミリッタ・レティウェルズ。貴女は、病める時も健やかなる時もデュークス・リングライトを愛し、敬い、共にいる事を誓いますか?」
観念して素直に認める事を選んだエミリッタは、笑い、頷いた。
続けて彼女は、首を横に傾けた。
「デュークスも、誓いますか?」と聞いているらしい。
デュークスは嬉しそうに笑って、はっきりと宣言した。
「当然! 誓いますっ」
観客もない、声援もない。ドレスもない、指輪もない。けれど。
幸せだけは、確かにそこにあった。
誰もみていない木陰の中で。
二人は誓いのキスを交わした。




