(デュークス、覚えてないの!?)
朝日が昇り始めた頃、マフィア二人はデュークスの動きを止めようと奮闘していた。
二人に追いついたエミリッタではあったが、止める力を持っていない彼女には見ている事しか出来なかった。
ウミが黒い竜の尻尾を掴む。尻尾は大きく振り上げられ、ウミの体も宙に浮く。その威力を利用して、ウミはデュークスの背中に蹴りを入れた。
黒い竜は自身の背中に、ウミに向かって黒い炎を吐く。
ウミの履いているスカートの裾が、少し焦げた。
「ウミちゃんに何すんだバカ、こっちに来な!」
ロンが大声を出して、デュークスを誘導する。
黒い竜は牙を見せ、ロンに向かって突撃した。
ロンはニヤリと笑って、両手でペンを握り締める。
目の前に迫って来るデュークスに、ペン先を向け。体制を低くした。
「マフィアになる気がないんだったら、破壊行動とか止めてよね。じゃないと、おれみたいになっちゃうよっ!」
ロンはそう言いながら、デュークスの腹部分にペン先を刺す。突撃してきた勢いが加勢して、ペン先からは赤い線が伸びる。たれ落ちた血は地面に零れだした。
本能が働いたのか、デュークスは人の姿に戻り止血していた。
地面に寝転び、そのまま動かなくなった。
ただ寝ているだけだと確認したロンは、ホッと一息をつく。
「これで一安心、かな。あの石の力のせいなんだろうけど、少しそこで頭冷やしなよね」
あの石って何だろうと思ったエミリッタだったが、それを言葉にする事は出来なかった。
ロンはウミに顔を向ける。寝ているデュークスの事は、本当にその場に放置するつもりらしい。
「よぅし、戻ろうか。ウミちゃん、避難してきた人にもひとまず大丈夫って伝えてあげてねー」
「御意」
「その後は卒業証書もらえるまで、今まで通りにしてね。ちなみに、どのくらい進んだ? 石削るとこまでやった?」
「石なら削った。あと二日もらえれば、何とか……」
「上等上等。おれもそれ位で行けるはずだから、何とかしてね」
「御意」
真顔で返事をするウミを見て、ロンは少しだけ寂しさを感じていた。
「おれと一緒にいないの、寂しかったりする?」
「寂しい……?」
「あーごめんごめん、今のなし。変な事聞いた」
「よく分からないが、今のがロンの素直な言葉だというのは分かった。ロンが無理していないのなら、私は嬉しい」
ウミはそう言うと、柔らかく微笑んだ。
自分の事を考えてくれているウミの優しさに触れたロンは、ついうっかりトキめいてしまう。
「ウミちゃんのバカ! 無理なら今もしてる!」
「す、すまない。しかし、何故……?」
ロンはウミの顎を掴んで、その唇を奪う。
流石のウミも恥ずかしそうにはしているが、嫌がっている様子はない。
唇を離したロンは、照れながら怒っていた。
「分かったぁ!?」
「何が……?」
「あぁもう、ここまでして気づかないんだから困るよね! 早く出るよ、おやすみ!」
ロンは怒りながら自分の部屋へ戻って行った。心の中で悲しんでいるのは内緒の話だ。
彼を追いかけようかと躊躇ったウミだったが、また怒られると思い黙って自分の部屋へ戻った。
エミリッタはデュークスの体を揺する。こんな所で寝ては体を痛めてしまうと心配していた。
ぱちっと目をあけるデュークスだったが、正気ではない感じがした。
「寒……」
そう呟いたデュークスは、突然のハグをしてきた。しかも暖を求めてなのか、体を弄ってくる。
エミリッタは嬉しさよりも戸惑いを感じてしまった。
今のデュークスは絶対おかしい、いつものデュークスが良い! と、彼女は彼の頬をペチンと叩く。
そこまで強く叩いてはいないのだが、デュークスはエミリッタの膝上に崩れ、再び眠りについた。
エミリッタは困った顔をしながらも、彼の頭を撫でた。
しばらくして、目を覚ましたデュークスは寝転んだままエミリッタの顔を見つめた。
「一緒に住んでるんだっけ……?」
デュークスはいつも通りに寝ぼけている。
正気に戻ったと安堵するエミリッタは、まだだよー、と首を左右に振った。
「だよね。まだだよね……えっちゃん!? 何でここにいんの!?」
何でと言われても、ここに来たのはデュークスのせいだった。エミリッタは頬を膨らませている。
体を起こしたデュークスは、周囲を見渡す。
「あれ違う、俺の部屋じゃない!? っていうか、俺も何でここに? シャード兄は……ちょっと待って。俺、えっちゃんに何かした?」
エミリッタは戸惑いながら頷いた。自分にだけじゃない、学園の壁も壊しているし、ウミのスカートも焦がしている。
青い顔をしたデュークスは深々と頭を下げた。
「ごめん。全然覚えてない!」
あんな事をしておいて! エミリッタは大きく目を開いた。
「課題で削った石を噛んだんだけど、それが原因かな……」
エミリッタも課題で石を削りはしたが、龍竜族の石のような輝きは見られなかった。
偶然なのかもしれないが、人工的に龍竜族の石が作れたのかと驚いていた。
それに、シャードから首を絞められた事も伝えるべきかと悩んだ。
だが兄に攻撃されたなんて聞いたら、デュークスも良い顔はしないだろう。
ましてや、自分が彼の兄に何か嫌な事をしてしまったかもしれないのに、と。
そこまで考えて、ある可能性に気づく。
私も、何か忘れてる? なんて。




