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喋れない幼馴染とイチャイチャしながら、花探しの旅に出ます ー龍竜深紅ー  作者: 二木弓いうる
学園とネクロマンサー編

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絶対に帰るよ、えっちゃん

 ハック達と別れたデュークスは、空飛んで戻ろうと紫の龍に変身した。

 エミリッタとマナを背中に乗せて、大きな体をふわりと浮かせる。


「やっぱり見た目が良いのは気分か上がるよね」


 気分よく空を飛ぶデュークスだったが、途中で塩の香りが鼻を通り。下を向く。


「お、海だ。太陽が反射してキラキラし」


 かすかに火薬の匂いを感じた、その時。

 バァン、という重い音が聞こえてきた。

 目の前を通過する銃弾。

 間一髪、デュークスに当たる事はなかったが少しズレていたら撃たれていただろう。


 斜め後ろを見てみると、海の上に見覚えのある船があった。


「あの船……アリシア達の!」


 デュークスはゆっくりと船の前に降下し、甲板の上に着地した。人型に戻って、目の前にいる海賊たちに文句を言う。


「おい! 危ないだろ!」

「喋ってるって事は、やっぱりデュークスね」

「やっぱりじゃないんだよ、何すんだアンナ!」


 船の上には海賊――アンナとハンスが仁王立ちで立っていた。


「撃ったのはハンスよ」

「そりゃそうだろうけど、他の龍だったらどうする気だよ」

「倒すわよ。ハンスが」


 全ての責任はハンスにあると言いたげなアンナ。

 だがハンスは鼻で笑って、手に持っていた銃を仕舞った。


「面倒だから嫌ですよ。デュークスじゃなけりゃお嬢を餌にしてましたって」

「なんでよ!」


 喧嘩に発展しそうな勢いの海賊たちを、エミリッタが止めに入る。

 久々に親友に会えて嬉しかったのか、アンナはニンマリと笑って。エミリッタの腕に抱き着き、豊かな胸を押し付けた。


「流石はえっちゃん、アンナの味方をしてくれるのね。元気してた?」


 素直に頷いているように見えるエミリッタだったが、心の内ではアンナの胸を羨んでいた。

 デュークスは二人を引き離すと、エミリッタを背後に隠す。エミリッタがアンナの胸を羨んでいる事にも気づいたらしい。


「とにかく、むやみに竜を撃つな!」


 デュークスが叱るも、海賊たちは納得していなさそうな顔をしていた。

 そこに、マナがひょこっと顔を出し。不思議そうな顔でアンナ達を見ている。


「お兄ちゃん、この人たち知り合い?」

「あぁ、海賊のアンナとハンスだよ。友達」

「ど、どうやったら海賊と友達に?」

「えっちゃんの花を探した結果だよ」


 デュークスの言葉を聞いて、アンナはエミリッタの方を向いた。


「えっちゃん、まだ花探し終わってないの?」


 話せないエミリッタに代わって、いつものようにデュークスが喋る。


「あぁ。でもその前に、一度里に帰ろうと思って。マナを送る」

「マナって、その女? お兄ちゃんとか言ってたけど、デュークスの妹?」

「そう。色々あって、再会できた」


 アンナは「ふーん」と言いながら、ジロジロとマナの事を見回す。

 マナは視線にも海賊の船にも安心できておらず、居心地の悪さを感じていた。


「妹だか何だか知らないけど、えっちゃんの一番の仲良しはアンナなんだからね!」

「お、お兄ちゃん」


 兄に助けを求めるマナだが、兄も解決のしようがなかった。


「まぁ、悪い奴らじゃないよ。何だかんだ助けてくれたりしてるし」


 デュークスの紹介に、アンナは胸を張った。


「当然。アンナ達は正義の海賊なんだから。いいわ。里まで連れてってあげる。ママに言えばきっと乗せてくれるわ」

「じゃあ船で行けるな。正直助かる」

「待ってなさい。今ママを呼んで……ねぇ、あれ何?」


 アンナはそう言いながら、空を見上げていた。他の皆も、一斉に空を見上げる。

 

 空の上を飛んでいたのは――赤紫色のドラゴンだった。

 そのドラゴンに見覚えのあったデュークスは、思わず声を上げる。


「グラス!」


 デュークスの声に気づいたのか、ドラゴンは大きく翼を動かしながら、海賊船の前にゆっくりと降りて来る。


『良かった。無事に見つける事が出来た』

「里に行ったんじゃ」

『あぁ。休ませてもらって、すっかり元気になった』

「そっか。良かった」


 グラスは首を左右に振って、深刻そうな顔を見せる。


『全く良くない。サハラから伝言を預かっている』

「サハラって……えっちゃんのばーちゃん?」

『あぁ。お前らの里で……というより、里の墓が大変な事になっている』

「里の墓!?」

『あぁ。誰かに荒らされた跡があるらしい』

「そんな!」


 グラスの言葉を聞いて、エミリッタもマナも悲し気な表情を見せた。

 ドラゴンの言葉が分からない海賊だけが、困惑の表情を浮かべている。


「何なの? このドラゴン、あの時のドラゴンでしょ?」

「あぁ。俺達の里に行ってたんだが、その里の墓が大変な事になってるんだと」

「里のお墓って事は……えっちゃんの里がピンチって事ね!」


 エミリッタだけの里でもないのだが、デュークスも細かい事を気にするのは止めた。

 

『見てもらった方が早いな。すぐ戻れるか?』

「戻れるかというより、向かおうと思ってたところ」


 アンナはグラスが何と言ったのかを察し。サッと手を上げ、自身をアピールする。


「アンナも行くぅ!」


 無計画なアンナの言葉に、流石の武器も黙っていない。


「お嬢。流石に団長が許さないから。まずは許可取って」

「ハンスが取って来て。アンナはえっちゃん達と先に行くから、追いかけて来て!」

「俺がそんな面倒な事する訳ないでしょ」

「何で当然みたいに言ってるのよ!」


 このやり取りを少し懐かしく思いながらも、デュークスはアンナ達の喧嘩を止める。


「はいはい喧嘩しないで。じゃあ一度アリシア達の所寄っていいから、一緒に来てくれる? もし荒らした奴と鉢合わせにでもなったら、戦力が欲しいからね」

「じゃあお嬢いらないだろ」

「それは……いるよ! えっちゃんの暇つぶしに!」

「そんな気ぃ使わなくていいよ」


 アンナが失礼な男どもを殴ろうとし、エミリッタが必死で止める。


「とりあえずアリシアの許可を得よう。グラス、悪いけどそこで待ってて。すぐ行くから」

「待ちなさいよデュークス、ママにはアンナが自分で言いに行くんだから!」




 船の中に入ったデュークス達は、海賊帽をかぶった女の前に立った。


「おぉ、久しぶりだね」


 アンナの母、アリシアに挨拶もそこそこに。デュークスは自分達の里の異変をアリシアに説明した。


「という訳で、連れてっていい?」

「うーん。可愛い子には旅をさせろって言うしね。いいよ。ただし、三日でカタを付けて帰って来させな。それまではアタシらもここにいてやる。ただし三日経って帰って来なかったら、置いて行くからね」


 アリシアの言葉を聞いて、アンナは勢いよく首を横に振った。二つに結んだ髪も、大きく揺れる。


「置いて行かれるなんて嫌! 何が何でも帰って来る!」

「あぁ。ちゃんと武器も持って行くんだよ」

「分かった!」


 デュークスは可哀そうなものを見る目でハンスを見た。


「当然のようにハンスも追い出されたな」

「まぁ、それは想定内だけど……団長、一つ質問」


 アリシアは、小さく手を上げたハンスに顔を向けた。


「何だい」

「もし三日で帰れなかった場合、オレは武器じゃなくなっても良いんスか」

「……ま、本当に三日で帰れなかったらね。それまでは武器でいるんだよ。いいね」

「うぃっす」


 ハンスから目を離したアリシアは、何故かデュークスの肩を掴んだ。

 アリシアの表情は、にこやかに笑ってはいるものの。その目はまさに、殺し屋の目だった。


「デュークス。絶対に三日で帰って来させなよ。じゃないとアタシらが里を破壊しに行くからね」

「な、何で急に敵になるの!?」

「ほら急ぐんだろ。早く行きな」


 部屋を追い出されたデュークス達は、早速グラスの元へ戻った。



「とりあえず急ごう。ハンス、俺の背中に乗って。悪いけど、グラスはえっちゃんとマナとアンナを乗せてあげて」

「何でオレだけ仲間外れなんだよ。人数的にお嬢もこっちの方がいいだろ」

「お前に前科があるからだよ」


 前科というのは、以前デュークスの背中の上でアンナにいかがわしい事をしていた件だ。


『何でもいい。急ごう』


 デュークスは急いで紫龍に変身する。ハンスを乗せて、エミリッタ達を乗せたグラスの後を追いかけた。

 空を飛び、喜んでいるアンナの声が聞こえてくる。

 その様子を見たデュークスは、こっそりとハンスに問いた。


「なぁハンス、何でアリシアはあそこまで怒ってたんだ?」

「オレが武器やめたら、どうなるよ?」

「アンナが丸腰になるけど……アンナを守るためって事?」

「それもあるけど……オレがお嬢に手ぇ出し放題になる」

「……お前!」

「三日過ぎても構わないんだよね。オレは」

「俺が殺されるからダメだ! 絶対帰るからな!」


 デュークスの背中の上で、舌打ちが聞こえた。

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