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門番と食事しようか、えっちゃん

 宿を出た二人を、夕日が出迎える。

 エミリッタはいつもと違う場所から見る夕日に、心を奪われていた。彼女の髪は夕日の光を反射させて、キラキラと輝いている。


 そんな彼女の姿を見たデュークスは、思わずトキめいていた。

 彼は周辺の店に目を向けて、平常心を保とうとする。


「えっちゃん何食べようか。俺肉がいいな」


 エミリッタは同意するように頷いた。だがデュークスはエミリッタの方を向こうとしない。

 なんでこっちを見ないのか。エミリッタはデュークスの服の裾を引っ張ったり、頬を突いたりしてみた。


「やめて、えっちゃん、やめて」


 エミリッタに触れられて、デュークスはソワソワし始める。彼女が動く度に、揺れる髪が気になって仕方がないらしい。


「おーい、そこの二人ー」


 二人に声をかけてきたのは先ほどの門番だった。彼の隣には、中年の女が立っている。女の首には先ほどエミリッタが門番に売ったネックレスが下げられていた。

 助かった! と、デュークスは安堵の笑みを彼らに向けた。

 エミリッタが彼の頬を突くスピードが上がる。何で私の方だけ見ないの、と言いたいらしい。

 門番はエミリッタが何をしてるのか疑問に思いつつも、要件を述べた。


「やっぱり宿三日分じゃ割に合わないと思うんだ。今夜の夕飯代くらい出させてくれ、何ならうちの嫁も一緒にどうだ」


 門番からの親切な提案に、エミリッタも手を止める。デュークスと顔を見合わせ、微笑み合った。


「じゃあお言葉に甘えよーか。丁度探してた所なんだ。俺肉食べたい」


 デュークスの要望に応えるべく、門番は己の胸を叩く。


「あぁ、そこまで高い肉は食わせられんがうまい店なら知ってる」

「いいね。えっちゃん、ご馳走になろうか」


 エミリッタは門番にペコリと頭を下げた。




 店の前に近づくほど、食欲そそる香りが強くなる。


「この店は目の前で肉を焼いてくれるんだ。香ばしい匂いが漂ってきて、それだけでも白米一杯いけるってもんよ」


 カウンター席の向こう側には、黒い鉄板が置かれていた。

 じゅうぅと音を鳴らして焼かれた肉。赤い炎が揺らめきを見たエミリッタは、顔色が青くなった。

 彼女の様子がおかしい事に気づいたデュークスは、支えるように両手を広げる。


「えっちゃん大丈夫? ぎゅってする?」


 首を左右に振ったエミリッタは、おもむろに立ち上がり。部屋の隅にある化粧室へと逃げ込んだ。門番の妻は心配そうに後を追いかける。

 デュークスは、肘を机に乗せて後悔した。


「しくった、そりゃ逃げるに決まってるわ」

「何だ、どうしたんだ彼女は」


 心配そうに聞いてきた門番に、デュークスは一部の真実を隠しながら答えた。


「えーとね。えっちゃん火でもって親亡くしてんのね。それだからか火を見るのが怖いみたい」

「そうだったのか……ずっと喋らないなと思ってたが、もしかして」

「あぁうん。喋れなくなっちゃったの」


 怪我のせいで出なくなったのか、親を亡くしたショックで声が出なくなったのか。どちらにせよ辛い事だと想像した門番は、頭を下げる。


「それはすまない事をしたな。他の店って手もあったのに」

「いやいや、門番さんは悪くないって。俺が肉とか言ったから連れてきてくれたんだろ、気にしないで。むしろ俺が悪いわ」

「そうか……」


 デュークスもうっかりしていた。里では温泉の熱で調理したり、エミリッタの祖母が何か作ってくれたりしていた。

 エミリッタがまともに火を見るのは、里が襲われた時以来だったかもしれない。

 デュークスは門番を気遣い、話を替える。


「ところで門番さんに聞きたい事があるんだけど」

「あ、あぁ。何だ? 俺が答えられる事なら何でも答えるよ」


 門番にはそれがせめてものお詫びだと思った。

 デュークスは真剣な顔つきになって質問を述べる。質問したかった事も嘘ではなかった。


「えっちゃんってさ、可愛いよね」


 お詫びになるんだろうか。門番はそう思いながらも、素直に感想を述べた。


「えらい美少女だよな」

「だよね。この国の人間から見てもやっぱりそう思う?」

「あぁ、うちの国だけじゃない。世界的に見ても美少女だろう。あんな美少女と二人旅だなんて羨ましい。やっぱりあれか、恋仲だったりすんのか」

「そうだと良かったんだけどねぇ。残念ながらまだそういう関係じゃあないんだな」

「なるほど。じゃあお前さんの頑張り次第だな。そういや、宿は決めたのか?」

「あそこの、お姉さん呼びを強要してくるオバさんのいる所。ドラゴンの情報を聞き出そうとしたら、金を要求されたよ。代わりにアクセサリー渡したけど」

「図々しいババアだなぁ。そういや、それもあの子が作ったのか?」


 門番はデュークスが首に下げていた石を指さす。

 一見エミリッタの作るアクセサリーに使う石と同じ見た目をしているが、よく目を凝らして見るとデュークスの持つ石は石そのものが若干の光を放っている。太陽や外灯の光を反射させている石とは光り方が異なっていた。


「あぁ、これはえっちゃんのじゃないよ。俺が……俺が作ったのを母ちゃんが手直ししてくれたやつ、かな」

「ほう。それも綺麗な石だな。でも俺、なんかどっかで見た事あるような気がするんだよな」

「気のせいでしょ。ある意味一点ものだもん」

「手作りならそういう事になるよなぁ、やっぱり気のせいか」


 エミリッタが門番の妻に支えられながら戻って来た。顔色は元に戻っている。


「えっちゃん大丈夫?」


 エミリッタは頷きながらデュークスの隣に座った。デュークスは「ごめんねぇ」と言いながら彼女の頭を撫でた。

 首を左右に振るエミリッタ。デュークスが悪い訳ではないと言いたいらしい。

 落ち着いた様子のエミリッタを見て、門番もほっとしていた。


 火が見えない場所にエミリッタを座らせ、そのまま食事を始める。出てきた肉はかなり柔らかく。肉汁に舌鼓をうつ。エミリッタも小動物のようにちまちま食べ進めている。

 二人は肉を食べながら、門番夫婦からこの国の歴史や旅人の話を聞いたりした。デュークスも一族の事は内緒にしつつ、家族と過ごした楽しかった日々の話をする。エミリッタも話す事は出来ないが、相づちを打ったり表情を変えたりして会話に混ざっていた。

 楽しい時間はあっという間に過ぎ、食事を終えた四人は店を出て行く。


「今日はありがとう」

「こちらこそ。まぁ短い時間かもしれんが、うちの国を楽しんでってくれ。と言っても、アンタらは楽しんでる場合じゃないのかもしれんがな」

「まぁね。でも俺達はどうしても行かなきゃだから」

「そうか。それじゃ、良い旅を!」


 門番達と別れたデュークスは、エミリッタと共に宿へと戻って行った。



 宿に戻る間も、近くを歩いていた旅人達に話しかけた。けどドラゴンの情報は得られないままだった。

 しばらくして、エミリッタがデュークスのシャツの裾をクイっと引っ張った。


「どしたの、えっちゃん」

 

 エミリッタは顔を赤らめ、もじもじしている。まるで告白前の乙女のように。

 いやまさか。デュークスはそう思ったが、期待も捨てきれずに。

 

「え、えっちゃん。もしかして」

 

 俯いたえっちゃんは、デュークスの後ろを指さした。そこにあったのはトイレを表すピクトグラムだった。



 エミリッタは一人でトイレへ向かった。残されたデュークスは壁に寄り添い、変な妄想をしてしまった事を反省した。

 そんなデュークスの所に、エミリッタより少し背の低い少女が近づいて来た。

 

「ねね、お兄さん。宝石屋さんでしょ? さっき見ちゃった、門番さんに売ったネックレス」

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