(デュークス、ほっぺだからいいよね)
『エ――ッタ――に―――ん―――ろ!』
日の光がまぶしくて、エミリッタは目を覚ました。夢の中で、懐かしい声を聞いたような気がした。けど、すぐに忘れてしまった。
枕にしていたデュークスは、いびきをかいて寝ている。
今日は堂々とスーパーえっちゃんタイムを堪能できたなぁ、と嬉しさを感じ。
枕にしていた尻尾に、頬ずりをする。ザラザラな肌触りではあるが、枕としてはちょうどいい硬さがあり。体内にマグマがあるからか、とても温かかった。
幸せを噛みしめている中、ふと視線を感じ、エミリッタは顔を上げる。
「あ、気付いたー?」
見ればデュークスの横に座ったロンが、こちらに目を向けている。
その隣にはウミが座っていたが、眠っているのか目は閉じていた。
一体いつから見られていたのか。まさかデュークスに頬ずりした所から見られていたのではないか。
そんな不安がエミリッタを襲う。
「あ、気にしなくていいよ。まぁ好きな人には触りたいもんだよねぇ」
やっぱり見られてた!
エミリッタの顔が、一気に赤くなる。気にするなという方が無理な話だった。
「そうやって赤くなると、白い髪が目立つよね。ねぇ、アンタ白い竜になれた?」
エミリッタは首を左右に振った。
龍竜族が生まれて来る時に握っている石は、人によって違っていた。
デュークスのように髪色と同じ色の石を持って生まれて来る子もいたが、髪色とは違う石を持って生まれて来る子もいた。
エミリッタは後者だった。
青と緑色の石しか持っていなかった彼女が竜になっても、髪色と同じ石を持つデュークスに勝てる事はない。男女だからは関係なしに、そもそも能力の違いだ。
だが不自由な思いをした事もないし、コンプレックスに思った事もなかった。
そもそも里に、白い竜へ変身出来る者はいなかった。
ロンが何故そんな事を聞いてくるのか分からないエミリッタだったが、マフィアの言う事だしなぁと、あまり気にしていなかった。
「ふーん。まぁいいや。せっかくだし、俺も触っとこー」
ロンはそう言って、ウミの頬にキスをする。ウミも目を覚まさない所を見ると、深く眠っているのだろう。
言動から察するに、ロンはウミの事が好きなのか? と疑問を抱いたエミリッタだったが。
そのわりに彼女を物扱いするなんてひどい、とも思っていた。
エミリッタに見られていようとも、ロンは気にせずウミにキスをし続けた。
頬、唇、首筋、喉、髪の毛。
やりすぎじゃない? とエミリッタが思うほど、彼はキスを送り続ける。
むしろ普段より、ウミに対する扱いが優しい気もした。
エミリッタが見ている事に気づくと、ロンはようやくウミから唇を離した。
「何? こういうのは、起きない方が悪いんだから。そっちはそっちで、楽しくやれば良いのに」
エミリッタは悩んだ。
楽しくやればというのは、自分もデュークスにキスしてしまえという事だろう。
マフィア達とは違って自分達は恋人同士。罪にはならない。
とはいえ、起きている間は何の進展もない。それなのに。
勝手にキスして良いのかなぁ、と。
「もうすぐ朝だからね、早くしないと起きちゃうよー」
ロンはエミリッタを煽りながら、ウミを抱き寄せ。優しく彼女の頭を撫でている。
感化された訳でもないが、思う所がなかった訳でもない。
エミリッタだって、デュークスの事が大好きで。
言葉が伝えられない分、行動で示したかった。
けどやっぱり、起きてる内は恥ずかしい。から。
エミリッタは寝ているデュークスの頬に、キスをした。
バレない内に、すぐ離れる。
ほっぺだからまだ良いよね! ロンなんて色々な所にしてたしね!
なんて自分自身に言い訳をしているエミリッタの顔は、かなり赤くなっていた。
「ははっ、超ウブじゃん。さぁて、そろそろ起こすかー。っていうか、マフィアと寝るの怖いとか言ってた割にガッツリ寝てるよね。腹立つわぁ」
ロンはそう言いながら、デュークスの腕を蹴とばした。
「はーい、起きてくださーい。さもなくばお前の女を売り飛ばしまーす」
「……んん、絶対許さねぇ……」
デュークスはエミリッタの姿を見て目を覚ました。
彼の顔を見るのが恥ずかしかったエミリッタは、地面の上でうずくまっていた。
「おいロン、えっちゃん苛めてないだろうな!?」
「おれっちが苛めてたのはウミちゃんだけだよぉ」
「それなら……いや、それはそれでどうなんだ」
デュークスは人型に戻り、エミリッタの頭を撫でた。ウミの事は可哀そうだが、まずはエミリッタの方を心配した。
「えっちゃん、大丈夫? どうした?」
大丈夫ではないけれど、大丈夫だと言わなければ自分のした事がバレてしまう。
エミリッタは右手を上げ、左右に振った。問題ないを表している。
ロンはウミの頬をつねった。
「ほらウミちゃんも起きてぇ。じゃないとコイツらの前で抱くよぉ」
「止めてあげろ!」
脅迫されたウミも目を覚ます。
エミリッタは顔の熱が冷めるまで、その場にうずくまったままでいた。




