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喋れない幼馴染とイチャイチャしながら、花探しの旅に出ます ー龍竜深紅ー  作者: 二木弓いうる
花嫁とマフィア編

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幽閉された竜だよ、えっちゃん

 竜はうずくまるように眠っている。茶色い肌はシワが多く、白いヒゲは地面についているせいで先端が灰色に汚れていた。


「えっと……じーさん?」


 デュークスが声をかけるも、竜は答えない。かなり小さな寝息が聞こえてくるだけだった。


「あれま、本当に竜が住んでたんだ?」


 デュークスの背後から、ロンとウミが現れる。朧族の姿はなかった。


「ロン、あの朧族ってのは?」

「ウミちゃんが負けるわけないでしょ」

「殺してはないよな?」

「生きていようと死んでいようと、きっとお前の人生には関係ないから気にしなくていいよ」


 そんな事ない、デュークスがそう言おうとした時。

 エミリッタが老いた竜のしっぽを指さした。


「枯れた……花?」


 尻尾の先に、花らしきものが咲いていた。見るからにカサついていて、葉と言われても納得する。


「もしかして……ケノアの花か!?」


 驚くデュークスに、エミリッタはコクコクと頷いた。


 デュークスは静かに竜の尾に近づく。

 グラスの背中に咲いていた花とは違い、茶色く変色している。


「いくら枯れてるって言っても、勝手に摘む訳にはいかないよな。グラスみたいに、愛着湧いてるかもしれないし」


 それどころか、摘んだらすぐ粉々になりそうだった。

 背後からロンが覗き込んでくる。


「この花が欲しいの?」

「まぁね。でも枯れてるし、あまり期待は出来ないかも」

「ふーん」


 興味のなさそうな反応をするロンに、デュークスは懸念の表情を見せる。


「まさかとは思うけど、この竜の事も殺そうとか考えてるのか?」

「いや? だって放っておいても死にそうじゃん」

「なんて事言うんだ」

「事実でしょ。それに、この竜を殺せって命令はなかったもん。おれっちが言われたのは、竜龍族を殺せって依頼と、捕まえて奴隷にさせろって依頼が来てるからどっちか実行させろって事だぁけ」

「どっちも嫌な話だな……」


 ロンに苦い顔をみせるデュークス。

 その時。


「お前ら! ゼン殿に何をする!」


 朧族のハックが階段を登ってやって来た。ウミとの戦いのせいか、先ほどよりボロボロだった。

 ハックの真剣な表情を見て、ロンがふざける。


「じゃあ殺すとするかな!」

「話をややこしくするな!」


 デュークスはロンを怒った後、咳払いをして。ハックの目を見て話す。得意な話術で、相手を落ち着かせようと試みた。


「まずいきなり入って来たのは謝る。俺達はここの持ち主だっていう貴族の花嫁に用があって来たんだ」

「主の……?」

「多分そう。でも、まずはこの竜についても話が聞きたい。元々はこの城に、竜が住む伝説もあるって聞いて来たからさ。俺達はケノアの花を探して旅をしてるんだ。お前も、何か知ってる事があったら教えてほしい」


 デュークスが冷静に話したからか、ハックは落ち着いていた。


「ケノアの花とやらは知らないが、ゼン殿……こちらの竜も最近の事は知らないはずだ。ゼン殿は五千年以上、この城に幽閉されているらしいからな」

「幽閉って、何のために」

「……何もしていなくても、竜というだけで怯える人間は多いものだ。かく言うお前らとて、きっと……」

「俺らも竜だよ?」

「お前らも竜…………竜?」


 しれっと言ったデュークスだが、ハックは目を点にしていた。


「まぁこっちの見た目だと信じられないよな。俺達、竜龍族っていう人間から竜や龍になる種族なんだよ。知らない?」


 ハックはデュークスの全身を見回す。目の前にいるデュークスは、どう見ても人間に見えたらしい。


「龍竜族については聞いたこともないが、そんな、にわかに信じられない!」

「じゃあそこはお互い様って事で。俺達も朧族って知らなかったし」

「……それは無理もない。朧族は数少ない民族だ。だからこそ、我はここで番人をしているのだ。里の者を守るために!」


 自分達と似たような民族がいた事に少し喜び、少し羨ましさを感じたデュークス。だが今は情報を聞き出すために、営業用スマイルを続ける。


「朧族の里があるのか。他の人なら何か知ってるかな、次はそこで話を聞くとしようか。連れてってくれない?」

「行ける訳ないだろう。我だってもう何十年と帰れてないというのに……」

「そうなのか? 門番の仕事って大変なんだな……あっ。もしかして俺達が侵入した事で怒られたりとか、燃やされそうになったりする?」


 前に立ち寄ったマリノスの国の門番は、竜龍族を国内に入れたからと火あぶりにさせられそうになっていた。その事を思い出したデュークスは、ハックを心配していた。


「燃やされるかどうかは分からないが、殺される可能性はあるだろうな」

「えっ! それはよくないな。もしそうなったら助けてやるからな」

「気遣い無用。全力で回避してみせる」


 ハックは首を左右に振った。

 二人の会話を聞いていたロンが不満げな顔を見せる。


「ちょっとぉ。さっきまで槍で刺そうとして来てたくせに、何仲良くなってんのー?」


 確かにハックは、出会ったばかりのデュークスに攻撃しようとしていた。

 だがデュークスはそこまで怒っていなかった。どちらかといえば、怪我をしているのはハックの方でもあり。


「まぁ、いきなり来たら警戒するよな。逆の立場だったら、きっと俺もそうしてただろうし。俺の方は気にしてない。ウミも怪我してないんだろ? むしろ謝るべきはこっちなんじゃない?」

「正論きらーい。あと、おれっち達も竜龍族みたいな感じになってるから。ちゃんと訂正してねー?」

「おぉ、そうだった」


 デュークスは自分とエミリッタを指さしながら、ハックに説明する。


「龍竜族なのは俺とえっちゃんだけね。そっちの二人はマフィアだよ」

「それで安心しろと言うのか」

「そうだな、出来ないな」


 デュークス自身も、自分の発言に無理があったと納得した。

 ハックは入口を指さし、デュークス達に冷たい態度を取る。


「とにかく、これ以上話す事はない。早く出て行くが良い」

「待って待って。そのゼンって竜のしっぽに生えてる花、ケノアの花かもしれないんだ。一応ゼンにも話を聞きたくて」

「断る。我は主から、誰も近づけさせるなと言われている」

「……その主ってのは、人間の貴族だろ? 何で人間に仕えてるんだ?」


 デュークスの質問を聞いたハックは、彼らを睨みつけ。


「好きで仕えている訳でもない!」


 怒鳴り声をあげた。

 何か事情があるのか、そう思うデュークスの隣で。ロンはハックに笑顔を向けた。


「だったらその貴族、殺しちゃえばいいのに。そうすりゃ自由だよ」


 彼の答えに、デュークスは呆れた顔を見せる。


「極端すぎるだろ。ホイホイ殺して良いもんじゃないぞ」

「正論きらーい」


 怒鳴った事を反省しているのか、もはや諦めているのか。ハックは目線を下に向ける。


「仮に殺せたとして……ゼン殿を置いて里へ行くなど、我には出来ぬ。ゼン殿を見張るようになったとはいえ、流石に情も沸いている」

「その竜も連れて逃げちゃう?」

「ここの出入口は、そこの階段しかない」


 デュークスは出入口とゼンを見比べた。一体どうやってこの建物の中に入ったのか。そう思うくらい、ゼンの体は大きかった。

 部屋全体を見渡すも、窓はなく。頭上と天井の間に広い空間があったが、太陽の光は一切入って来ない構造だった。


「まぁ、このくらいの広さあれば行けるかな」


 天井を見上げたデュークスは、緑色の石を掴み――噛んだ。

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