生き残りがいるかも、えっちゃん
龍竜族と聞いて、デュークスもエミリッタも驚いていた。
「そんな訳ないだろ。だって、龍竜族は、皆……」
「そうなんだよ。そのはずなんだけど、貴族の坊ちゃんが拉致ってきたってウワサが回っててね。しかも、わりと最近」
そんな訳ない、とは言いつつ。デュークスは期待してしまった。
里が襲われて、仲間は自分達以外殺されてしまった。そう思っていた。
とはいえ、あり得ない話ではないかもしれないとも思ってしまった。
仲間の死体は全て形が残っていた訳でもなかった。死体の中には人の原型をとどめてなかったり、体の一部しか見つからなかった人もいた。
もしかしたら、生きている者もいたのか。
期待が心拍数を早くさせる。
ロンはデュークスの気持ちなどお構い無しに、話を続けた。
「お前らじゃなくても、その女を捕らえるのでもいいかなーって。でもさ、無駄な争いしたくないじゃん。これで龍竜族じゃあなかったです、なんて事になったら面倒だからさ」
「……確認したら、石を返してくれるのか?」
「まぁ、考えなくはないよ」
つまり返されない可能性もある。それでも。
「……マフィアになる気はないし、捕らえるってのは乗れないけど、確認くらいならしてもいい。万が一、龍竜族だったら……俺達が知らない人だとは思えないからな」
竜龍族は元々数少ない希少な一族だ。旅立った者がいるとは聞いたこともないし、同じ里に住んでいて知らない者もいないはずだった。里の外へ嫁に行った者の話も聞いたことがない。
本当に龍竜族であれば、会いたい。その後はまたマフィアと戦う事になるだろうけど。
ロンも承知の上でいるようだ。
「まぁいいでしょ。じゃあ決まり。よろしく。一時的にだけど」
ロンはデュークスに手を差し伸べる。どうやら握手を求めているらしい。
あくまで一時的に協力するだけ。デュークスは仕方なさそうにロンと握手をする。マフィアと手を握る日が来るとは思ってもいなかった。
「じゃあ、明日ね」
デュークスはロンの言葉を疑う。貴族の嫁が竜龍族かどうか、早く確認したかった。
「今日じゃないのか?」
「この城、今じゃ貴族の別荘らしいんだよね。普段は誰もいなーいの。今日はお前らが来るかもしれないからいただけ」
「そりゃご苦労さま」
「素敵な嫌味をありがとう」
嫌味を軽くあしらわれてしまい、デュークスは少し悔しかった。
「……それで、その貴族の嫁が龍竜族かもしれないのか」
「そゆこと。そして明日、貴族のバースデーだからさ。ここに来るかも? 来ないかも? ってかーんじぃ」
「あいまいだな」
「少しでも可能性があるならってとこ。実際、今日の賭けには勝ったしね」
今日の賭けとはデュークス達が来るか来ないか、というところだろう。
やはりデュークスは悔しかった。
「ちなみにこの城、竜が住んでるって伝説があるらしいんだが何か知ってるか?」
「あぁ、それ五千年以上前の話」
「じゃあ今は」
「いないはずだよ。っていうか、その貴族も龍竜族殺しに関わってるはずだから。竜を殺すような奴らが、竜を飼うなんてあると思う?」
里を襲った奴らは、えっちゃんのばーちゃんが倒したはずだけど。生き残りがいたのかな。
どちらにせよ……許せない。
「……ないな。でもそれじゃあ、龍竜族を嫁にするなんて」
「だから分からんのよ。おれっちもお手上げ状態でさ」
ロンは両手を上に伸ばすポーズを取った。
「確認するまで分からないんだな」
「そゆこと。さ、今日は解散。本気で仲間になるか、奴隷になるなら、マフィアの寝床まで来てもいいよぉ」
「そこまで信用してない」
「ははっ、じゃあ明日の昼にまたここでね。ばぁい」
ロンは城と反対方向へ向かう。その背中を、ウミは黙って追いかけた。
デュークスは険しい表情をエミリッタに向けた。
「石のために協力する事にしちゃったけど、完全に信じたらダメだよな。アンナ達は海賊だったけど、敵意がなかった。けど、ロン達は違う。アイツらは敵意があった上で協力しようとしてるだけだろうから」
エミリッタは大きく頷く。分かってるよと言いたいらしい。
「……えっちゃん、俺あいつらと一緒なのかな」
うつむいたデュークスの顔には、怒りと悲しみが混ざっていた。
一緒にされたくないし、一緒だとは思わないけど。どうしても考えてしまう。
エミリッタは少し背伸びをして、頭を撫でた。
私は分かってるよ、私のためにありがとね。ごめんね。
そんな想いを込めて、優しくなでなで。
「えっちゃん好き……!」
彼女の励ましのおかげで、デュークスの気分は晴れた。今は自分に出来ることをしようと、気持ちを切り替える。
「じゃあどうしようか。マフィアたちの言う事を信じずに城の中を調べるべきか、一応信じておいて今日はアクセサリー売りの方を頑張って資金を稼いでおくか」
それを聞いたエミリッタは、指で二を表した。二番目の方、つまりアクセサリー売りの方をしようと言う事だった。
エミリッタ的には、アクセサリー売りの方がデュークスの気が紛れそうだと思っての提案だった。
「ん。了解。じゃあ、もう少し人がいそうな場所に行こうか」
二人は街に出て、アクセサリーを売った。アクセサリーの出来の良さとエミリッタの愛らしさ、デュークスの話術が相まって、売れ行きは好調だった。
アクセサリーを売りつつ、デュークスは客から竜の伝説の話を聞いて回る。マフィアの言った事を本気では信じていないからだ。
誰に聞いても、竜に、ケノアの花に関する情報は得られなかった。
「確かに昔は竜が住んでるって話もあったらしいけど、もうおとぎ話さ! 今時、竜なんているわけない!」
こんな声も聞いた。まさか目の前に竜がいるとは思ってもいなかったのだろう。
情報は得られないまま夕方になり、デュークスは肩を落とす。
「やっぱり伝説は伝説だったのかな……」
エミリッタはデュークスの肩を優しく叩いた。励ましているらしい。
「まぁ、ここで諦める訳にもいかないよね。ありがと、えっちゃん」
頷いたエミリッタは、近くにあった宿を指さす。
「そうだね。今日はもう休もうか……えっ?」
今までは海賊達と一緒にいたため、デュークスとエミリッタは基本別の部屋で寝ていた。スーパーえっちゃんタイムも勿論なかった。
つまりだ。
今夜は二人が恋人になってから、初めての夜である。
デュークスの顔が途端に赤くなった。
「い……いいんですか……!?」
動揺のあまり、敬語になった。
何が? という顔をしているエミリッタ。彼女は今まで通り、普通に泊まる事しか考えていない。
「あぁいや、ごめん。そうだよね。宿がないと休めないもんね。行こう、行こうか……!」
デュークスはドキドキしながら宿に入って行った。




