表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/32

黒い星だ、えっちゃん

「その石、どこで手に入れた!?」

「教えないよぉ、来てくれるわけでもないのに。メリットないでしょ」

「ふざけんな!」


 デュークスが手を伸ばし石を奪おうとするも、ロンはすぐさま手を引いて。胸ポケットの中へ石を戻す。


「ふざけてないよ。おれっち、いつでも本気だもん」


 そう言いながら取り出したのは、三本のナイフ。小型とはいえ、刺される場所によっては死ぬ可能性だってある。

 他の客や店員も異常事態に気づいたようで、机の下に隠れていた。

 デュークスはエミリッタを横抱きにし、店の外へ連れて行こうとする。

 

 ヒュンッ。


 背後から何かが飛んでくる音が聞こえた。

 デュークスはエミリッタを抱きかかえたまま、その場にしゃがみ込む。

 頭上を飛んだナイフが、目の前の壁に刺さった。


「本気で投げて来るんだから、タチの悪い奴だ。ひとまず外に出るよ、えっちゃん」


 エミリッタは頷いて、デュークスの肩に腕を回す。


 立ち上がったデュークスは、店の扉を足で開けた。その瞬間、かすかに血の匂いがしたという。

 店を出ようとしていたデュークスは、急いで体をそらせた。

 それとほぼ同時に、扉の前で薙刀が振り下ろされた。あのまま店の外に出ていれば、デュークスの首が切られていただろう。間一髪、デュークスの前髪が少し切られた程度で済んだ。


「……仕留め損ねたか」


 そう呟いたのは、薙刀を持ったポニーテールの少女だった。スタイルの良さが、丈の長いボディコンワンピースによって際立っている。


「あれま。ウミちゃんの薙刀をかわすなんて。やるじゃん」


 背後から聞こえたロンの呟きで、デュークスは薙刀の少女もマフィアの仲間だと判断した。

 ウミと呼ばれた少女はデュークスの後ろにいるロンに目を向けた。


「ロン、命令は?」

「殺すのは後からでも出来るからね。まずは生け捕りの方向でいこう。殺しちゃったら殺しちゃったでどうにかするから、気にしなくていいよ」

「御意」


 ウミは薙刀を振り回し、デュークスの首を狙う。

 デュークスは薙刀を避けながら、ウミの目を見つめた。ロンと同じく、冷たい目をしていた。


「お前もマフィアか。命令って事は、あのサングラスの部下か何か?」

「喋る暇があるのか、舐められたものだな」

「まぁ、ねっ!」


 デュークスは薙刀を持つウミの手を蹴り上げた。薙刀が一瞬だけ、彼女の手から離れた。

 直後、背後からロンの投げたナイフが飛んでくる。

 デュークスもウミも避けたため、そのナイフはすぐに地面に落ちた。 


 ロンはデュークスを軽蔑の目で見ている。


「なんて野蛮な奴なんだ。女の子には優しくって教わってないのか」

「殺そうとしてきてる奴に男も女も関係あるもんか。それに俺は、えっちゃんが一番大事なんでね。えっちゃんを危険な目に遭わせようとしてる奴は、女の子だろうと優しくできない!」

「へぇ。バカは死ななきゃ治らないってやつだね。ウミちゃんの良さが分かるように、殺してあげようか」

「お断りだね、っと!」 


 デュークスの首めがけて、再びウミの薙刀が振り下ろされる。それを避けると、すぐさまロンのナイフが飛んできた。


 薙刀とナイフの攻撃を、エミリッタを守りながら避け続けるのは流石に難しく。

 デュークスは眉間にシワを寄せた。


「くそ、人の命を軽く見やがって。えっちゃん、手伝って」


 頷いたエミリッタは、デュークスの胸元で揺れていた赤い石をつまむ。そしてそのまま、デュークスの口元へ近づけた。

 デュークスは彼女の手ごと、甘噛みで石を噛む。


 瞬時、デュークスは赤い竜になった。

 竜体の方が腕が短いせいで、エミリッタは右腕にしがみつく形になっていた。


 ロンは手に持っていたナイフを、すぐに仕舞った。


「あーあ。そっちになっちゃったか。それだと勝算低いんだよなぁ……よし、ここは逃げるが勝ちって事で! ばぁい!」


 マフィア二人は、走ってその場を逃げだした。

 

「あっ、おい!」

 

 デュークスはすぐさま人型に戻った。

 赤い竜の姿は体が大きい分、走るには不向きだった。特に赤い竜体はマグマの胃液の分、デュークスが変身出来る中で一番重い姿だった。翼こそあるが、飛べてもニワトリ程度。飛ぶだけなら一番軽い、緑の竜の方が向いているのである。


 だが今は、むやみやたらと目立つのも良くない。

 そう考えて人型に戻り、再びエミリッタを抱きかかえる形になってマフィアを追いかけた。


 正確にはマフィアを追いかけているのではない、マフィアが持っていた石を追いかけているのである。

 

 しかしその願いはかなわず、街角を利用されて見失ってしまった。


「何だったんだ、アイツら……」


 悔しそうにしているデュークスの顔を、エミリッタが心配そうに覗き込む。


「うん。大丈夫。ありがと、えっちゃん」


 エミリッタのおかげで、彼のイライラが落ち着いた。恋人が心配してくれることが、非常に嬉しかったのである。


「ひとまずパンケーキのお金を払いに戻らないと。荷物も置いてきちゃったし」

 

 店の中に戻ると、店員達が散らかった店内を片付けていた。

 他の客はいなかった。既に帰って行ったのかもしれない。

 店員はデュークスとエミリッタを、怯える目で見ている。マフィアに狙われた奴らとして認識しているのだろう。

 デュークス達は荷物を回収し、店員にお金を払う。


「これパンケーキ代。俺達も襲われた側だから、店の修理費は勘弁してほしいんだけど」

「あっ、ありがとうございます……」


 デュークスは決して謝る事なく店内を出て行った。

 マフィアたちの方が悪いと思っているのが一番の理由ではあるが。

 ここで謝ってしまえば、自分達が生きている事を否定しているみたいで嫌だった。



 店を出たデュークスは自分の石を見つめた。


「俺達の命もだけど、石も狙われる可能性あるよな。前にハンスに切られた事あるし、紐じゃない方が良いかな。いっそ体の中にしまっておいた方がいいのかな」


 エミリッタは首を左右に振った。それだとすぐ変身出来ないんじゃない? そう言いたいらしい。


「うーん。じゃあ、えっちゃんの作るネックレスみたいに、チェーンでつけてみる?」


 エミリッタは頷いて、同意を示した。


 二人は人目を避けて歩き、近くにあった森の中に移動する。エミリッタは地面の上に、アクセサリー作りのための道具を並べた。


「じゃあ、よろしく」


 デュークスはエミリッタに三つの石を渡す。

 他人が噛むのはキス以上の意味がある石に、彼女が手を入れていく。

 他意はないとはいえ、デュークスは妙にソワソワした。


 五分後、デュークスの石は太めのチェーンで繋がれた。


「ありがと。これで簡単に奪われる事はない……と、思いたいんだけどね」


 わざわざマフィアを名乗って来たような奴らだ。油断はできない。二人はそう思っていた。

 デュークスはロンが持っていた、黒い星形の石を思い出す。


「アイツが持ってたのは、シャード兄ちゃんの石だ。あの星形、間違いない」


 デュークスは確信していた。あれは絶対に――死んだ兄の石だった、と。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ