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喋れない幼馴染とイチャイチャしながら、花探しの旅に出ます ー龍竜深紅ー  作者: 二木弓いうる
旅立ちと海賊編

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仇は取ったよ、えっちゃん

「ぐぁっ……!」


 鉄で出来ているのか、異様に重い槍。バランスを崩した赤竜は、その場に倒れた。

 痛みよりも刺さったままの槍のせいで、うまく動けなかった。槍の刺さった部分から、じんわりと血が流れ出す。

 グラスもコレで捕まったのかと思うと、ひどく腹が立った。


 赤い竜の足元で、銀の床の一部が開いた。床下にも地下へ続く扉があったようだ。中から出てきた隊長は、地下からある物を引っ張り上げた。


「今だ、急げ!」


 隊長の掛け声で、怯えていた兵達も動く。隊長が先ほど引っ張り上げたのは、銀の床と繋がる足枷だった。兵達は複数人で巨大な足枷を運ぶ。


 固定された足枷が、デュークスの両足に付けられる。足枷についた鎖は張られた状態で鉄の地面と繋がっている。


「ふふふ、はははははは! ざまぁないな、これで、全てがこの手に!」


 隊長は汚い笑みを浮かべ、高らかに笑う。

 デュークスの歯が、ギリッと音を立てた。その直後だ。


 ズドンっ!


 聞こえて来た音と強烈な火薬の匂いに驚き、デュークスは海の方角に目を向けた。黒い大きな球が、こちらに向かって飛んで来る。それに気づいた兵達も一斉に離れていく。

 逃げられそうにないと感じたデュークスは、ギュっと目を瞑った。


 ドカァアアアン!


 赤い竜の右足に着けられた足枷の真横で、大きな爆発が起きた。


 兵達の体が軽々と吹き飛ぶ。デュークスには直撃しなかったが、彼に着けられた右の足枷はその衝撃に耐えられなかったようで。まるで砂の城のように、あっけなく壊れた。


 俺に当てるために飛んできた球じゃないのか? デュークスが疑問を抱いている横で、隊長も信じられないといった顔をしていた。


「何だ、今のは!」


 隊長と赤い竜は、その黒い球が飛んできた方角に目を向けた。


 美しい水平線をバックに、帆が揺らめいている。水面に下がっていたはずの大砲の口が、上向きに変わっており。船首に飾られたドクロの上に足を乗せて立っていたアリシアは、隊長を睨みつけていた。


「うちの可愛い娘の友達を傷つけるとは良い度胸だ。アリシア海賊団に喧嘩を売ったも同然だよ」

「一体何なんだ、関係ないだろう!」

「何だじゃねンだよ。関係あるっての。言ったろ、娘の友達だって。先に掴まってた方は初対面のドラゴンだからアタシら海賊にとってはどうなっても知らねぇけど、娘の友達はどうにかなっちゃあ娘が悲しむからな」

「貴様、何をバカげた事を!」

「何で友達助けてバカって言われなきゃなんねぇんだよ。それに、さっきの音で確信したさ。その槍、ドラゴンを捕まえた時にも使ったんだろ。その槍撃った音のせいでな、うちの船が大砲撃っただろとか言いがかりつけられてたんだよ。やってもいない罪を着せられるのは我慢ならねぇ。行くぞ野郎共ォ!」


 アリシアの啖呵が合図だったかのように、海賊達は再び大砲を撃ち込み。赤い竜を捕らえていたもう一つの足枷も壊す。


 短剣や銃を持った海賊たちは船から降りると、一斉に襲い掛かる。兵達も身を守ろうと、剣を構え向かい打つ。剣と剣が重なり合う音と、銃声が混ざり合った。


「アンタ達にはこれがお似合いよ!」


 アンナとエミリッタは、船の中にあった魚の骨や卵の殻などの生ごみをぶつけていく。

 赤竜の手足は自由になっていたものの、その体に槍は刺さったままだった。


「いいかデュークス、諦めるんじゃないよ! 掴め、踏ん張れ、奪ってでも生きろ! その資格がない奴なんていない!」


 アリシアの言葉が、デュークスに届いた。


 皆が自分達のために頑張ってくれているのに、エミリッタだって頑張っているというのに、自分だけ諦める訳にはいかない。

 横を向いて、口を開く。槍に炎を当て、熱を当てた。鉄で出来た槍は、熱によって変形し始める。

力を込めて、尻尾で地面を叩く。その衝撃で刺さっていた槍はスルリと抜けて。


 ガシャンっ! 槍は音を立てて地面の上に落ちた。

 体を動かせるようになったデュークスは、鋭い目で隊長を睨みつけた。

 兵達は海賊と戦っているため、隊長を守ってくれるような者はいない。

 流石に抵抗するすべがなくなったのか、隊長は体を震わせ始めた。


「ドラゴンの事も解放する、宝でも女でも何でもやろう。頼む、許してくれ!」


 愚かな男は急に命乞いをし始める。デュークスは今までの事全てを思い返すが、この男にくれてやる慈悲はなかった。


「えっちゃん泣かせた時点で手遅れなんだよ」


 赤い竜は大きく口を開け、男を丸のみにした。赤い星は地面に落ちて、カツンと音を響かせた。

 飲み込まれた隊長は、喉を滑り胃袋の中へ落ちていく。胃袋に落ちる直前、隊長は目を見開いた。

 赤い竜の胃液は、真っ赤に燃えるマグマだった。


「うわぁあああああ!」


 隊長は叫び声を上げながら、マグマの中に落ちた。


 一部始終を見ていた兵の一人が、震えた声の叫びを上げた。


「隊長が食われた……もうダメだ、逃げろ!」


 一人が逃げて、また一人逃げ出す。その場に残っていた兵士達は次々といなくなった。

海賊達は自分達の勝利に歓声を上げた。

デュークスは人の形に戻り、冷たい銀色の床に降り立った。唇を舐めて、呟いた。


「まっずい」


 その姿は、あまりにも普通の人間で。アンナは彼が本当に竜だったのかと疑問を抱いたくらいだ。


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