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芋が花に見えるよ、えっちゃん

「あぁ何だ全然オッケー、えっちゃんとつが」


 最初はニコニコと笑っていたデュークスだったが、言葉を途切らせたと同時に笑みが薄れていく。最終的にはカーッと、顔全体を赤く染めた。


「なに、なん、つ、何!?」


 飛び上がったデュークスは、赤い顔を両手で隠すように抑えながら後退する。


「お前には難しい言葉だったかい? エミリッタと結婚しろと言っている。いや、それだけじゃないな。お前の子をエミリッタに産ませろ。子の作り方は理解しているか?」

「分かってるよ! いや待って分かんないわ。話の展開についていけない!」


 祖母はその場から動く事なく、真剣な顔つきで言った。


「……うちの孫、かわいいじゃろ?」

「それは分かる! えっちゃんがかわいいのは分かる!」

「じゃあ結婚しな」

「それが分からない!」

「なんだ、うちの孫が不服だとでもいうのか!」

「そんな事ないです! えっちゃんはかわいいです!」


 動揺するデュークスとは対照的に、エミリッタの祖母は落ち着いて話を進めていく。


「ワシだってわざわざ頼む事じゃあないなと思ってるさ。だが……里が襲われ、生き残っているのは今やワシとお前らしかおらん。我ら一族の血を途絶えさせる訳にはいかない。他種族との混血よりも、一人でも多く同じ一族の者同士の子を残すためにも。それに、かわいい孫が変な奴に奪われるよりかは、お前の方が良いと思ってな」

「……俺は運よく生き残っただけだよ」


 デュークスは自身の顔についた傷を、指でなぞる。平地を掘って川を作ったかのような、ボコボコとした深い傷。

 その傷がついた時の事を思い出して、少しだけ冷静さを取り戻した。


「それに、お前エミリッタの事好きじゃろ。旅人から守ったのだって、少なからずそういう気持ちがあってじゃないのか」

「なっ、いや、まぁ、それはぁ」


 せっかく取り戻した冷静さを、すぐに崩される。

確かに彼は、エミリッタを好いてはいた。祖母にも幼馴染にも絶対言えないが、過去には幼馴染の卑猥な姿を妄想した事もある。

 祖母相手にそんな話をするのも気恥ずかしく、目線をそらす。

 だが祖母はお構いなしで話を進めた。


「だったら良いだろう。なに、子供が出来たら金や食料はワシがどうにかする。十人でも二十人でも、お前らは作れるだけ作りな。本来お前のようなアホにかわいい孫娘を任せたくはないが、こうなってしまった以上お前しかいないからな」

「ま、待って待って。子って、まず付き合ってすらいないのに早いって! それに、そういうのって、せめてえっちゃんがまた喋れるようになってからの話じゃないの?!」


 なんて言っているデュークスだが、本当はエミリッタがずっと喋れなかったとしても構わないとも思っていた。


「そんな流暢な事言ってられないよ。お前も知ってるじゃろ。我々の一族は悪さをしなくとも命を狙われる。だから里が襲われた。エミリッタの声を取り戻すには、何年、何十年とかかってしまうかもしれない。そこまでお前らが生き残れる確証も、正直どこにもないんだ」


 祖母があまりにも真面目な顔で言うので、デュークスも一応真剣な顔で聞く。だが彼の頬はまだ赤いままだった。


「そりゃあ、そうかもしれないけどさ……」

「何、まずは二人の仲を深めるのが先だ。むしろ大して付き合ってもないのにすぐ孕ませるような奴は踏みつぶしてくれるわ」

「付き合ってもない奴に子を産ませろとか言うばーちゃんもちょっとどうかと思う……」

「仕方なかろう。まぁどうしても無理だと言うなら諦めるさ。だが幼馴染なんだ、まったく知らない相手でもあるまい。悪い話じゃないと思うんだが」


 確かに悪い話ではない。むしろデュークスからしてみれば、願ったりかなったりだった。

 だが彼は今まで恋人がいた訳でもないし、当然経験もない。


 ちなみにエミリッタの方もデュークスとばかり遊んでいたせいか、モテてはいたが誰かと付き合ったりした事はなかった。


 幼馴染として接してきた彼女と、いきなりそんな関係になれるだろうか。そんな不安が、デュークスの胸に積もる。


 そもそも俺達って普段どんな風に遊んでたっけ。そう思ったデュークスは再び正座し、幼い頃の事を思い出す。


『えっちゃん遊ぼうぜ! 崖の上からバンジーしよう。え? 危ない? 大丈夫だって、俺頑丈だし!』


『骨折れたわ……えっちゃんの言う通り止めておきゃあ良かった……え? えっちゃん看病してくれんの? ありがとう!』


『えっちゃんが看病してくれたおかげで元気になった! もう大丈夫、追いかけっこして遊ぼう! え? お絵かきして遊びたいの? しょうがないなー』


『えっちゃんの作ったクッキー、マジうめーっ!』


『えっちゃんが転んだ! えっちゃん大丈……え? パンツ見えたか? うん、ピンクのでしょ? でも可愛いから大丈夫だよ、えっちゃん良い尻してるし! ん? 何で怒るの? えっちゃん?』


 幼い頃の日々を思い返したデュークスは、過去の自分のアホさ加減を恥じた。

 それと同時に、エミリッタが嫌がる可能性が高いのではないかという疑問も抱く。


「俺はまんざらでもないし。その誘いは魅力的だけど、えっちゃんが嫌なんじゃない?」

「嫌って事はないと思うぞ」

「……そう?」

「最も兄弟みたいなもんだと思ってる可能性の方が高いがな」

「それはあんまりよくないやつでは?」


祖母はデュークスを指さした。


「とにかく、引き受けてくれるのであれば後は任せた。正直……ワシはエミリッタが一人になるのが怖いんだよ。お前だけは、あの子の隣にずっといてやってくれ。お前はエミリッタの事を助け、守り抜き、好意を抱かせろ。あぁ、言っておくが、愛もないのに無理やり抱いてエミリッタを傷つけでもしたら、ワシはお前をボコボコにする。容赦なく絞める」

「直球だな……ちなみにこの話、えっちゃんには」


 祖母は頭を抱え、ブンブンと首を左右に振る。


「ワシからは可愛い孫にそんなおぞましい話出来ない! 話して嫌われたくもない、お前から誘え!」

「待って、それじゃ俺が嫌われるかもしれないじゃん!」

「どうせうまくいかないならそれでいい!」

「良かないよ!」


 騒ぐ二人の前に、エミリッタが戻って来た。手には蒸かした芋の乗った皿を持っている。

 何話してたの? そう言いたげに首を傾げている。


「あぁえっちゃん、何でもないよ。い、良い芋だね。ほんと。めっちゃ芋……」


 彼女の事を意識し始めたデュークスには、エミリッタの仕草がただただ可愛く見えてしまう。持っている芋も花に見えるレベルに、輝いて見えた。

 エミリッタは二人の間に座り、布の上に芋の皿を置いた。


 改めてエミリッタを前にして、デュークスは気づいた。何を言ったところで、彼がエミリッタを好きな気持ちは変わらない。だったら今は、この話を引き受けてみよう。そう、覚悟を決めた。


「えっちゃん……俺頑張るから!」


 顔を赤くさせたデュークスは、彼女の手をギュッと握った。いくら何でもいきなり子の話をする勇気はなかったようだ。

 祖母はデュークス背後に回り、彼の頭を殴った。


「いった! ばーちゃん何すんだよ!」

「すまん、孫を襲うクソ野郎に見えてな。反射的に、つい」

「ついって、人にあんな事頼んでおいて!」


 エミリッタは首を傾げて、デュークスを見つめた。あんな事ってなぁに? といった顔をしている。

 頭は悪いデュークスだが、空気やムードを読む事は出来た。正直に言うべきは今ではない。そう判断して、適当に誤魔化す。


「うぐ、っと、その、えっちゃんがまた喋ったり歌ったりできるようになるまで頑張ろうねーっていう」


 真実を知らないエミリッタは、小さく笑って頷いた。

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