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喋れない幼馴染とイチャイチャしながら、花探しの旅に出ます ー龍竜深紅ー  作者: 二木弓いうる
旅立ちと海賊編

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18/75

(デュークス、怖かったよ)

 エミリッタはレンガで作られた壁の部屋に閉じ込められていた。周りには燭台が並べられ、全てに火がともされている。

 

 彼女を動けなくさせているのは、揺らめく火だけではない。ベッドと呼ぶのもおこがましいような堅い台に繋げられた、銀色の鎖。

 

 手首と足首に鎖を着けられたエミリッタは、ベッドの上に寝かされ拘束されている。

 

「やはり普通の人間の女と変わらないようだな」

 

 隊長と呼ばれていた男は、エミリッタが寝ているベッドの真横に立ち。手袋をした左手でエミリッタの顎を押さえつけ、右手をエミリッタの口の中に入れ。

 指で彼女の歯をなぞり、彼女の舌を撫でた。

 

 両手が離されえたエミリッタは、口の中にあった唾液を全てベッドの横に吐き出す。ただでさえ何年も変えてなさそうなシーツが、唾液で汚れる。

 

 潤むエミリッタの瞳に、にやりと笑う隊長の顔が映る。

 

「お前の事は調べ上げたら殺す予定でいる。服の上から分かる事は全て調べ上げた。残るは……中の方だな」

 

 隊長はそう言ってエミリッタの上に馬乗りになると、手袋を外して床上に落とした。ガサガサに荒れた手で彼女の服を無理やり脱がしていく。

 

 青い顔になったエミリッタは抵抗するも、繋がれた鎖のせいでうまく動けない。下着を見られた時には、思わず涙が出た。


 怖い。嫌だ。助けて。

 

 何度も口を動かしたが、誰にもその叫びは届かない。

 

 そんなエミリッタの表情を見て、隊長は汚い笑みを浮かべる。

 

「やはり人間の女と同じだ。大抵の女はこうすれば泣くんだ」

 

 他の女性にも同じような扱いをしたかのような口ぶりに、エミリッタは心が痛んだ。

 

「もう少し胸もデカけりゃ色々出来ただろうに。色形は悪くないがな」

 

 バカにされただけでなく、辱めまで受けたエミリッタは、体のあちこちを触られ、見られ。思い描いているような動きがうまく出来ずに。抵抗すれば殴られ、髪を引っ張られた。


 せめて純潔だけは守ろうと、必死になって太ももに力を入れる。

 男も彼女の両ひざを掴み、外側へ開こうとしている。

 

「悪くないな、声が出せないってのは。おら、諦めて足開け!」


 エミリッタも諦める事なく戦う。

 だが男女の力の差か。むなしくも彼女の両足を広げられた、その時だ。


 壁を破壊したのは、緑色の竜の頭。

 

 デュークスの目に映るのは、泣いているエミリッタの姿だった。

 

 緑竜はエミリッタが寝ている台のく下に頭突きする。その強い衝撃で台は崩れ、エミリッタを拘束していた鎖も外れた。

 狭い空間の中、竜の体ではめいっぱい動けないと思ったデュークスはすぐさま人型に戻り。

 

「汚ぇ手でえっちゃんに触ってんじゃねぇ!」

 

 隊長の顔面を、力強く殴る。簡単に吹き飛んだ隊長の体は、崩れた壁と台の中に埋もれ動かなくなった。

 

「えっちゃん!」 


 デュークスは、すぐさまエミリッタに近づく。

 恐怖と安心感で涙を流したエミリッタは、デュークスに抱きついた。今の自分の姿など気にする余裕もない。

 

 助けに来てくれて本当に嬉しい。それなのに。

 

 良かったも怖かったも、ありがとうすら言えない。

 

 お礼を言えない事が、彼の名前を呼べない事が、とてつもなく苦しくて。

 伝えられない想いを涙として流す事しか出来ない自分が、すごく嫌になった。

 

 デュークスもそんな彼女の想いを肌で感じとってくれたのか、力いっぱいエミリッタを抱きしめた。


 エミリッタも幼馴染とはいえ、真正面から抱きしめられるのは初めてなような気がした。彼から与えられた温もりに、酷く安心して。

 同情でも何でもいい。とにかく今だけは、そのまま抱き締めていて欲しかった。


                     ***


「……えっちゃん、そろそろ離れませんかね」

 

 エミリッタは首を左右に振る。


 時間経過と共に怒りも落ち着いてきたデュークスは、現状にとても困っていた。

 

「あの、えっちゃん。せめて服直してくれると助かるっていうか。俺としてはすごく光栄な事だし、えっちゃんが嫌じゃなければこのままでも構わないんですけど。あ、な、何なら目ぇ閉じてるし!」

 

 デュークスは両目をギュッと閉じた。いつもの彼なら生着替えを拝みたいと考え、薄く目を開けていたかもしれない。だが今は彼女を余計に傷つけさせてはいけないと、紳士の気持ちを心掛ける。

 

 涙目になったエミリッタは、仕方なくデュークスから離れる。エミリッタも先ほどよりか気持ちが落ち着いてきていて、恥じらいの気持ちも戻っていたようだった。


 それでもまだ、離れたくない気持ちもあって。

 服を正しく着用し、再びデュークスに抱きつく。

 

「えっちゃん!?」

 

 エミリッタから抱きしめられ、デュークスは思わず目を開ける。

 彼女は抱きしめる事で、感謝の気持ちを伝えているつもりだった。


 デュークスの心拍がどんどん早くなっていく。心の中で「俺は紳士だ、紳士になれ」と呟いた。だが彼女の体を抱きしめ返しはする。

 

 他に気がまぎれるような事はないか、デュークスは顔を赤くさせたまま目を動かす。そこでようやく、あるものが無くなっている事に気づいた。

 

「えっちゃん! アイツいない!」

 

 デュークスの目の先にあったレンガの山。そこに伸びていたはずの隊長がいなくなっている。気づかぬうちに、音もなく逃げたらしい。

 エミリッタは先ほどの事を思い出してしまったようで、体を震わせていた。

 

 彼女から伝わって来た悲しみに、デュークスの怒りが再熱する。彼女を抱きしめる力を強め、決意を決めた。

 

「次会ったらギタギタにしてやる!」

 

 エミリッタは心配していた。その気持ちは嬉しいけれど、それでデュークスが傷ついたら嫌だ、と。



 そこへ、アンナとハンスが合流する。

 

「えっちゃん無事!?」


 エミリッタはアンナに顔を向け頷いたが、デュークスと抱き合ったままだ。

 

「無事ならアンナとギュってして!」

 

 無事だと伝えるためにはアンナにハグしなければならない。エミリッタは静かにデュークスから離れ、アンナに抱きつく。

 

 いつもなら奪い返そうとするデュークスだが、傷ついたエミリッタに負担を与えたくなくて、今は仕方なくアンナに譲る。 

 アンナはエミリッタの頭を撫でながら質問した。

 

「酷い事されてない? もしかして無理やり乱暴されたとか!」

 

 エミリッタは首を横に振った。半分は正解だが、純潔は未だ守られたままだ。そこまでは言えないけれど。


 アンナにはエミリッタが苦しんでいるように見えた。

 

「無事なら良かった。全く、乙女の体を軽率に扱う奴らって最低よね!」

 

 エミリッタから離れたアンナは、ハンスを睨みながら言った。

 

「はいお嬢。オレの場合は同意の上だと思うんです」

「うるさいわね! 言っておくけど、これっきりなんだから!」

「そう言われても、オレだって海賊だしな。本当に欲しくなったら奪いに行く気でいるんですけどねぇ」

 

 アンナの顎をクイっと上げたハンスは、柔らかく笑う。

 顔を背けたアンナは、彼の指から離れ。

 

「う、奪わせないから!」

 

 これ以上触られないように、エミリッタの胸の中に顔を埋める。耳まで真っ赤になるくらいには、アンナも心身共にまだまだ未熟な乙女。

 ハンスはクスクスと笑うと、アンナを指さしてデュークスに顔を向けた。

 

「聞いたか尻派。オレ一言もお嬢の事だって言ってないのに、勝手に奪わせないとか言ってる。ウケる」

「人の顎触っておいてアンナじゃないってどういう事よーーっ!」


 騒がしくするアンナ達を見たエミリッタの顔に、ほんの少しだけ笑みが戻った。

 デュークスにはそれも少し悔しくて、だからといって何も出来なかった。

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