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銃に助けられたよ、えっちゃん

「隊長!?」

 

 デュークスが驚きの声を上げた。


 聞き馴染みのあるワードが出て来たからだろう。アンナとハンスの肩が動く。

 デュークスは通訳になって、二人にもグラスとの会話を説明する。

 アンナは一度に多くの情報を聞いたせいで、若干混乱しているようだった。


「何なのそれ。隊長がドラゴン捕まえたいって言ってるって話はアンナも聞いた事あるけど、捕まえてたんじゃない。だったら声明出せばいいのに。何で出さなかった訳?」

 

 一方のハンスは全て理解したようで、予想を口にした。

 

「まぁ小物捕まえたーって言うより、デカいの捕まえたーって言う方が噂になるからね。大方このドラゴンじゃ満足出来なかったんじゃないの」

『その男の言う通りだ。奴は私を餌と呼んだ。恐らく奴はもっと大きなドラゴンを狙っていたのだろう』

 

 デュークスは再び通訳し、ハンスの予想が的中しているという事を伝える。

 

「ハンスの言う通りだってさ」

「あ、オレらの言葉は伝わってんだ」

「おぉ、そう言えば」

 

 人間の言葉がグラスに伝わっている事は、デュークスも今気づいたようだ。

 グラスは小さく笑みを浮かべた。

 

『我らドラゴンは人間と違って何千年と生きるからな、知識の量も倍だ。まぁ、この鎖の壊し方はどんな知識があっても不可能だったんだがな』

「こんなの、どんな天才だって一人で外すのは難しいよ。グラスをこんな目に合わせていい訳がない。他のドラゴンを捕まえようとしているのも腹立つ!」

 

 デュークスはそう言って、青色の石を掴んだ。巨大な蒼竜になり、体当たりをと考えている。しかし。

 

「いたぞ、あそこだ!」

 

 デュークス達が通って来た道から、兵達がやって来た。やつらが灯りとして利用していた松明の火を見て、エミリッタは顔を青くする。彼女の心臓が早く脈を打ち始めた。

 

「えっちゃん!」

 

 エミリッタが火に怯えている事に気づいたデュークスは、彼女を自分の胸の中に抱き寄せた。


 ハンスも状況を判断し、アンナの手を握る。彼の最優先事項は、アンナの安全だからだ。

 

「やっぱり、どっかしらでは見てたんかね」

 

 ウォオオオオオオオオオオオオっ!


 グラスは突然、翼を広げ大きな雄たけびを上げた。ビリビリと感じる怒りの覇気。兵達が持っていた松明の火は、翼を広げた時の風圧で全て消えた。

 兵達は怯んでいるようで、グラスに視線を向けたまま動けずにいる。

 

『行け。ここで全員掴まっては意味がない。あいつらは平気で我々を傷つけるような奴らよ』


 本当は兵達を巻き、今すぐにでもグラスを助けたいデュークス。

 

 だがあまりにも巨大な檻を壊すには、非常に時間がかかりそうで。蒼竜になって体当たりしたとしても、壊せる保証もどこにもない。その間に兵達の仲間も来るかもしれない。グラスの言う通り捕まってしまえば意味がない。


「……ごめんっ」


 デュークスは悔しい思いをしながらも、エミリッタの腕を引っ張って。兵の後ろを通り逃げた。ハンスもアンナの手を握りながら、デュークスの後を走る。

 

「ま、待てっ」

 

 動けるようになった兵達が皆を追う。

 洞窟内の道はグラスがいた場所よりも狭く、細い。

 デュークス達はライトのおかげで、辛うじて行く先を見ることが出来ている。だがそのライトが、逆に兵達にとっての道しるべにもなってしまっている。

 

 逃げる方も辛いが追う方も辛いため、距離が縮まる事はない。それでも追いかけられている事に変わりはなく、デュークスは苦い顔をする。

 

「くそ、こんな狭い所じゃ変身しても皆が潰れちまう」

 

 弱気な事を言うデュークスに、アンナも顔を青くさせる。


「そんなの嫌! 変身せずにどうにかして!」

「それが分かればもうしてるって」

 

 ハンスはあからさまに嫌そうな顔をしていた。走ってるのにかなり余裕そうだ。


「えー、やだー」

「やだじゃないのよ、アンナがピンチなのよ!?」

「だからどうした」

「アンタ、何のために来てんのよ。いいから早く助けなさいよ!」

 

 アンナは強い口調で命令を下す。

 

「はぁー……めんどい」


 ため息を吐きながらも、ハンスはその場に立ち止まり。


「おいデュークス、兵の手元に明かり当てろ」

「お、おうっ」


 言われるがままに立ち止まったデュークスは、一人の兵の手元にライトの明かりを当てた。

 ハンスはシャツの裾をめくりあげ、スキニーパンツに括りつけていた黒い拳銃を取り出し。


 ライトの光を利用して、相手の居場所を見極める。

 

 半目だった目を大きく開いて。

 

 バァン!

 

 穴の中で、銃声が反響した。

 

「ぐぁあっ」

「ひっ」

「お、おい。大丈夫か!?」

 

 一人の兵の手から、ボタボタと血の垂れる音がする。ハンスが撃ったのはただ一人だけだが、闇の中と反響した銃声音のせいで、兵達は多くの者が撃たれたのではないかと錯覚する。

 混乱し始めた兵達を前に、デュークスとエミリッタだけが銃口からの香りを感知した。

 

「ハンス!?」

「いや違うから。オレが自分の意思でお前ら助けるとかないから。お嬢が言うから仕方なくやってるだけだから」

 

 ハンスはそう言いながら、二発目を撃った。致命傷は負わせない。一人の兵の腕を撃ち、手に拳を握らせないようにしているだけ。

 

 今がチャンスだと判断したデュークスは。血の匂いで相手の居場所を判断し。力強い蹴りを入れ、気絶へと導いた。

 立て続けに攻撃を入れ、その場にいた全ての兵が気絶する。

 

「すごいじゃんハンス!」

 

 デュークスがハンスに顔を向ける。エミリッタもハンスの方へライトを照らした。

 

「お前に褒められても嬉しくなーい」

 

 ハンスの目は、もう半目に戻っていた。ハンスは銃をシャツの下にしまう。デュークスもエミリッタも、彼が着ていた長いシャツは銃を隠すためのものだったのだと気づいた。

 彼が褒められた事を、何故かアンナが誇らしげに答える。

 

「ハンスはうちの船唯一のガンマンだもの」

「ガンマンか、通りで火薬の匂いすごい訳だ」

「それ前も言ってたけど、ハンスそんなに火薬臭すごい?」


 アンナの疑問に、デュークスは自身の鼻をつついた。

 

「龍竜族って普通の人より鼻良いからさ、匂いには敏感なんだよ」

「そういうものなのね……」

 

 ふと、デュークスはあることを思い出して、ハンスに怒った顔を向ける。

 

「そういやお前、船で俺に銃撃ってきたよな。痛かったぞアレ」

 

 デュークスが蒼竜になって、船の上で撃たれた時の事だ。

 ハンスは悪びれもなさそうに、しれっと答える。

 

「仕方ないじゃん。お嬢が……間違えた。俺の乳がピンチだったんだ」

「間違えたのか?」

「だってオレお嬢の尻がどうなろうと知ったこっちゃないし」

「お前は本当にどうかしてる」

 

 アンナは怒りに任せてハンスの背中を殴っていたが、弱弱しいパンチだったのでダメージは当たっていなさそうだった。ぺちょんという音が良く似合いそうなパンチだ。

 彼女の気持ちなど一切気にしていなさそうなハンスは、俺の方を向いている。

 

「そういやお前、あの時撃ったのに人型に戻った時全然怪我してなかったな」

「いやしてるよ。ほら見ろ、内出血してる。謝れ」

 

 デュークスは着ていたシャツをめくり、腹を出してライトを当てた。腹の一部が赤紫色に変色している。

 ハンスは腹に目を向けているものの、謝る気はないらしい。


「その程度なのか。そもそも体に穴開いてなかった?」

「こう、体が小さくなる時にギュッと閉まるから。流石に全方位から撃たれてたら死んでただろうな。あ、そうだ。あの時の弾返す」

「は? 返す?」


 飴を舐めるように口を動かしたデュークスは、地面の上に何かを吐き出した。ほら拾えと言わんばかりにライトで照らしたのは、唾液で濡れた金色の弾丸。

 ハンスはものすごく嫌そうな顔をして、弾丸を拾いはしなかった。


「うわーいらねー。っていうかどういう原理ぃ?」

「どうって、普通に体内に仕舞い込んでたやつ吐き出しただけだけど」

「普通の人間には体の中に収納なんて出来ないし、簡単に吐き出せないんだよ。まぁそれも龍竜族だからか……」

「俺達的には普通に過ごしてるだけなんだけどねぇ」

 

 とは言いつつも。デュークスは改めて血の特別性を感じていた。

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