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地下に向かうよ、えっちゃん

 デュークスとエミリッタ、アンナとハンスは街の中を歩く。住宅街なのか、周囲には多くの家が建てられていた。

 

 アンナもハンスも堂々と街中を歩いている。周りには多くの住民が歩いていた。二人ともパッと見ただけでは海賊と分からないとはいえ、デュークスは一応人目を気にする。アンナの隣に立ち、こっそりと問う。

 

「海賊って堂々としてんだな。もっとコソコソ行かなくて大丈夫? 捕まらない?」

「海賊様がコソコソしてどうするのよ。戦いを挑まれたら勝てばいいだけじゃない。何をコソコソする必要があるの?」

「まぁそうだね。勝てばね」

 

 アンナに勝ったデュークスは、ついにんまりと笑う。

 

「何よ、嫌味!?」

 

 デュークスに食って掛かりそうなアンナを、ハンスが止める。

 

「お嬢、あんまり怒るんじゃないよ。戦闘になった場合お嬢は全くと言って良いほど役に立たないんだから」

「失礼ね。いずれアンナは指揮官としてアンタ達を従えるのよ。今だってハンスをうまく使って、えっちゃんを守るんだから」

「もしもの時はオレお嬢に従う気全くないけどね」

「アンタ本当に生意気なのよ!」

 

 足を止めたアンナは、ハンスの胸元をポカポカと叩いた。


 デュークスも足を止めて、二人の間に入る。言い争いが始まったのは自分のせいでもあるので、ちょっとした罪悪感もあった。

 皆が足を止めたので、エミリッタも足を止める。デュークスと一緒になって、アンナとハンスの間に入り込んだ。

 

「ストップストップ。でもさ、喧嘩するほど仲が良いって言うよね。お前らの方が付き合ってるんじゃないの?」

「そんな訳ないでしょ。コイツはアンナの武器よ」

 

 否定したアンナに同意するように、ハンスも頷いた。

 

「そうだそうだ。お嬢がオレと付き合うなんざおこがましい。オレはお嬢に勿体ないくらい良い男だぞ」

「自分を過大評価するんじゃないわよ! 逆でしょ逆、アンナがハンスには勿体ないんでしょ」

「お嬢は自分を理解してないんだな、可哀そうに」

「何ですって!?」

 

 アンナは間に入っていた二人を押しのけて、再びハンスに噛みつく。

 エミリッタに顔を向けたデュークスは、二人を指さす。

 

「仲良いよなぁ」

 

 エミリッタはコクコクと頷いた。

 

 アンナを宥め歩き始めたデュークス達は、広場に出た。円の形に並べられたレンガの床は、オシャレなデザインになっているにもかかわらず。高さある建物で囲われてしまっているせいで日陰になっていて、どこか寂し気だ。

 

「あ、こっち」

 

 ハンスは建物と建物の間を指さす。三人は目的地に向かうため、彼の後をついて行った。狭く細い道に入ったせいか、デュークス達の周りには一斉に人がいなくなった。

 これなら普通に話しても大丈夫だろうと、デュークスは疑問を口にした。

 

「しかしあの隊長とやら、自分の国で龍が売られてる事を知らないのかね」

「蒼竜が出たって話を聞きつけてすぐに来たんだ、知らないとは思えないけどな」

 

 ハンスの答えに納得したデュークスは、頭の後ろで腕を組む。

 

「それもそうか。あとは無事でいてくれると良いんだけど。尻尾切られてるし、そのまま死んでたらどうしよう」

「えっちゃんさんが必要なのは花だけなんだろ。だったら本体が死んでても花さえ無事ならいいんじゃね?」

「何て事言うんだ。俺ら龍竜族だから、あんまり知らない奴だとしてもドラゴンには生きててほしいよ」

 

 デュークスの発言に、ハンスは違和感を抱いたようだ。眉を顰め、首を傾けている。

 

「お前ら龍竜族って何なの? ドラゴンとは違うの?」

「龍竜族は龍でもあるし竜でもあるし、普通に人間でもある。ドラゴンにはなれないけど、似たような存在だから親近感はあるんだよね」

「もしかして龍竜族って学名?」

「難しい事はよく分からない。ただ石によって変身出来る種類が違うんだよ。俺の石は竜にしか変身出来ないんだけどさ。えっちゃんのばあちゃんが持ってる茶色い石は、龍になれるやつ」

「オレはお前らの方が分からない」

「そう言われても困る。それよりハンス、えっちゃんって……呼べば? えっちゃんもそのが良いでしょ」

 

 デュークスの提案に、エミリッタも頷く。ちなみにエミリッタの腕にはアンナが抱きついている。

 

「オレもえっちゃんなんて呼ぶの馴れ馴れしくない?」

「だからって他人行儀も何か違う気がする。それか他の呼び方してみるとか。レティウェルズとかね」

 

 ハンスはエミリッタに目を向ける。彼の半目には、エミリッタの小さな胸が映っていた。

 

「じゃあヒンさん」

 

 ハンス以外の三人が揃って首を傾けた。エミリッタの名前の中に、ヒンなんて言葉は入っていない。

 

「ひん? 何で?」

「見た目的に」

「見た目?」

 

 デュークスとアンナは改めてエミリッタを見つめた。エミリッタは皆に見られて恥ずかしいようで、ほんのりと頬を染めている。

 アンナが表情を明るくさせて、ポンと手を打つ。

 

「分かったわ、品格のヒンね! 東洋ではレディの事を、品格があるって言うのでしょ」

 

 デュークスも納得したのか、同じように手を打った。

 

「なるほど。確かにえっちゃん、礼儀正しいからね」

「そうね。えっちゃんならきっと、一緒にお高い店に行っても恥ずかしくないわ。えっちゃん、今度アンナとお買い物デートしよ。アンナ、友達といーっぱいお買い物しに行くのが夢なの」

「えっズルい、えっちゃん。アンナとだけデー……お出かけするのはズルいから俺ともして」

「ズルくないわよ。えっちゃんはアンナとデートするの、デュークスとはしないの!」

「そんなのアンナが決める事じゃないだろっ」

 

 デュークスとアンナの間で喧嘩が始まる。

 ハンスはエミリッタに顔を向け、申し訳なさそうに言った。

 

「あー……なんかごめんね?」

 

 エミリッタは謝られた理由が分からず、首を傾けた。


 

 喧嘩はほどほどにして、四人は先に進む。やがて細い道の幅が広くなり、道の端では敷物の上に商品を乗せた出店がちらほら見られるようになった。

 

「ほら、アイツよ」

 

 アンナが示した先にいたのは、長い髭の生えた痩せこけた男。薄汚い御座に商品を並べて座っている。その商品の中に、葉に包まれた肉の塊が並んでいた。

 デュークスは男の前にしゃがみ込み、肉の出どころを訪ねた。

 

「おっさん。この肉はどこで手に入れた?」

「それは企業秘密さ。何だってそんな事が気になる?」

「ドラゴンの居場所を知りたいんだ」

 

 男は鼻で笑って、シッシと追い払う仕草をする。

 

「何、お前には関係のない話だね」

 

 エミリッタはリュックサックの中から何かを出そうとしていた。

 デュークスが「無理に出さなくていいよ」と止めようとする。だがエミリッタは大丈夫と言いたそうに、首を左右に振りながら掌サイズの石の塊を出した。


 アクセサリーにしていない、石の塊。日陰のせいで光は鈍いが、高価なものに違いないという事はよく分かった。アンナも少し欲しそうにしている。


 エミリッタから宝石を奪うように受け取った男は、すぐさま口を割った。

 

「城の地下に幽閉されているんだ。仲間のドラゴンが来る事を期待して、殺さずに生かしている。尻尾を切っているのは、逃げられないよう衰弱状態を保つためらしい」

 

 デュークスとエミリッタは酷い扱いを受けているドラゴンを想像し、体を震わせる。

 

「酷い! いつまでもそんな状況には居させられない。その城の地下ってのは、どうやって行ける?」

「他にも宝石をくれたら教えてやるよ。それか、体で払ってくれてもいい」

 

 男はエミリッタをバカにした目で見ながら掌を広げた。

 デュークスは自身の手からボキボキと音を鳴らす。嫁になるかもしれない幼馴染をバカにする者は、絶対に許さない。

 

「調子に乗るなよ、おっさん」

 

 男を素手でボコボコにしたデュークスは、地下へ繋がる通路の存在を聞き出した。お詫びにとライト二本を差し出されたので、ありがたく頂戴する。

 特に手を出す事なく見ていたハンスが、感想を述べる。


「お前、竜にならなくても強いじゃん。喧嘩慣れしてるっていうか」

「確かに喧嘩慣れはしてるかな。うち兄妹多かったから」

「ふーん、何人兄妹?」

「18人、俺10番目」

「想像以上に多いじゃん……」

「うん。だから今はちょっと寂しい時もあるっていうかさ。俺も将来はいっぱい欲し……そ、そんな事より、早く行こう!」

 

 デュークスはその場を誤魔化しつつ、すぐさま地下へと向かった。

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