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2話 揺れる信念

エイビスの外れにある静かな洞窟。波に揺れる光が青白く照らすその場所に、深く蒼い色をした魚の怪人 イヲティスは佇んでいた。

彼の手には父から受け継いだという小さな石片が握られている。石の表面には、かすかに海藻のような模様が刻まれていた。彼はそれを見つめながら、耳の奥に響く言葉を思い出していた。


「人間は滅ぼすべきではない。彼らもまた、私たちと同じ命を持つ存在だ。」


その言葉は、幼い頃の彼にとって重い教訓だった。だが、その教えを語った父親は、ある日忽然と姿を消してしまった。それ以来、彼は父の信念を守るために生きてきた。


「本当に…父さんは正しかったのだろうか。」


小さく呟いたその声は、波音にかき消された。


突然、背後から陽気な声が響く。


「おーい、イヲティス!」


振り返ると、カニの怪人カヴリノスが大きな鋏を揺らしながら近づいてきた。甲殻に反射する光がやけに派手で、彼の快活な性格をそのまま表しているようだった。


「ここにいたのかよ。まったく、毎度お前は深刻な顔ばっかりだな。」


カヴリノスは肩をすくめると、自分の殻を軽く叩いた。


「何か用か?」


イヲティスは眉間にシワを寄せて問いかけた。


「用っていうか、面白い話があってな。」


カヴリノスは笑いながら言うと、甲殻の中から何か紙切れのようなものを取り出した。


「シェルアノスから頼まれたんだよ。人間界への調査に同行してくれってな。」


「調査…」


イヲティスは目を細めた。その言葉の響きが、なぜか不穏なものに感じられた。


「そう、調査!だけどな、俺が本当に楽しみにしてるのは別のことだ。」


カヴリノスは得意げに笑いながら言葉を続けた。


「地上には女がいるんだろ?美しいって聞いたぜ。いやー、これはいい機会だ!どんな奴らか見てやるさ。」


イヲティスは呆れたようにため息をつく。


「お前はそればっかりだな。調査に集中する気はないのか?」


「もちろんだとも!」


カヴリノスはふざけた調子で言いながを手を打ち鳴らした。


「でも、楽しむくらいはいいだろう?固く考えるなよ、イヲティス。」


イヲティスは一瞬、カヴリノスを見つめた後、静かに視線を海に戻した。


「分かった。俺も行く。」


その言葉にカヴリノスが笑みを浮かべる。だが、イヲティスの心の奥には、わずかな警戒心と迷いが渦巻いていた。


人間を守るという信念を持ちながらも、エイビスの一員としての立場を捨てきれない自分。調査の中で、自分がどちらに傾くのか――それすらも分からない。


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